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その後 愛しい狼への贈り物2

 自分の誕生日だというのに、ジンは朝からずっと忙しなく動いている。肉だ野菜だと言って切ったり漬け込んだり楽しそうだ。そんなジンをしばらく眺めていた俺は、最後の仕上げをするため仕事部屋に入った。 (どんな顔するかな)  そんなことを考えつつ作業台の奥から箱を取り出す。中には、あの灰色がかった青いシーグラスのペンダントが入っていた。それを脇に置き、最後に加工したチェーンを台に置く。  選んだのは少し太めで肌触りがいい、潮風にも海水にも負けない素材のものだ。同じ素材でペンダントの台座も作った。金色を選んだのは琥珀色のジンの目が忘れられないからだ。 (斜めにして正解だったな)  台座にはまっているシーグラスの中央の線は斜めを向いている。縦や横にするよりもジンの銀髪っぽく見えるような気がしたからだが、首から提げたときにいいアクセントになるような気がする。そんな自画自賛をしながらチェーンをクロスで磨き、台座に通した。 「カグヤ~、飲み物、お酒でいい~?」  ドアの向こうからジンの声が聞こえてくる。 「あぁ! 発泡酒、いくつか冷蔵庫にいれておいたから!」 「わかった~」  早めの夕飯にしようと、昼食は軽いもので済ませた。俺はすでにシャワーを浴びていて、ジンも仕込みが終わればシャワーを浴びる。そうして夜は二人でのんびりと過ごす予定だ。 「喜んでくれるといいけど」  思わず出た言葉に顔が熱くなる。シーグラスを指先で撫でてから、胸ポケットにネックレスをしまい仕事部屋を出た。  シャワーから上がったジンと一緒にウッドデッキに布を広げる。その上に料理や飲み物を並べれば完成だ。  部屋の電気を消し、持ち出したクッションに腰を下ろす。そうして大きめのランタンに灯りを点けた。いつもと違う雰囲気で、まだ少し明るいうちからバースデーパーティとしゃれ込む。 「こっちが牛でこっちは鳥、豚は漬け込んであるからソースなしで食べてみて」 「……うん、うまい!」 「でしょ?」  三種類の肉はそれぞれに味が違っていてどれも美味しい。頬張る俺をニコニコ見ながら、相変わらずジンは一口サイズに切ったものを俺の皿に載せていた。 (そういや綺麗好きなのも狼の習性とか言ってたっけ)  狼は本来、自分が作った安全な巣につがいを囲い込みたいんだそうだ。だからせっせと掃除や洗濯をするらしい。それが本当かどうかはわからないが、家事全般が得意でない俺にとっては願ったり叶ったりだった。 (単にジンが世話焼き好きの可能性もあるけどな)  狼うんぬんは関係なく、ジンならそういうことをしそうな気はする。 (それにしても、なんともお洒落なバースデーパーティだ)  父親が死んで四年、ランタンの明かりで食べるディナーなんてやったことがない。そもそも俺一人じゃ思いつくこともなかっただろう。  十年前、この家の持ち主だった祖母(ばあ)さんが死んだ。家事が得意じゃない男二人の生活は適当なもので、食事も出来合いのものばかりだった気がする。あの頃は、こんな食事風景が未来で待っているなんて想像すらしなかった。  母親は物心ついたときにはいなかった。親父は詳しく話さなかったが、どうやら俺たちを置いて島を出て行ったらしい。俺や親父はこの島を気に入っているが、小さなこの島が嫌で出て行く人も多いから珍しいことじゃなかった。  逆に常夏の島に憧れて流れてくる人たちも多い。祖父(じい)さんやジンもそういった人たちの一人だ。 「ジン、手ぇ出せ」 「なに?」  肉も野菜もたらふく食べ発泡酒もそこそこ飲み、フルーツたっぷりのケーキも食べた。いい具合に酔いを感じたところで「そろそろか」と胸ポケットに触れる。  差し出された右手を取り、手のひらに胸ポケットから出したペンダントを載せる。ランタンに照らされたシーグラスは、同じように照らされているジンの髪に似た色に光っていた。 「これ、カグヤが作ったものだ」  ほかにも俺みたいなアクセサリーを作る奴はいるのに、ジンは俺の手作りだとすぐに見抜けるらしい。 (そういうのって、やっぱり嬉しいよな)  すっかり星が輝き始めた夜空を長めながら残り少なくなったグラスを傾ける。 「これ、俺に?」 「誕生日プレゼントだよ」  横目で見ると、ジンがシーグラスを夜空に掲げていた。  今回使ったシーグラスはジンと出会った日に拾ったもので、特別に感じていたものだ。ジンも気に入ってくれるといいなと密かに願う。 「ありがとう。やばい、どうしよう。ドキドキするし興奮してきた」 「なんで興奮するんだよ」 「だってカグヤが作ったペンダントだよ? 嬉しすぎて興奮するでしょ。俺の宝物がまた増えたってことだし」 「また?」 「一番の宝物はカグヤだからね」  近づいてきたジンの目元がうっすらと赤く染まっている。そういう顔は色っぽいなと思っていると、触れるだけのキスをされた。 「ね、そろそろベッドに行こう?」  そう言いながらさっそくペンダントを身に着けてくれるのが嬉しい。 「あ、でも先に片付けないと。カグヤは先に歯磨きしちゃって。そうだ、汗かいてない? 先に拭いてあげようか?」  いつもどおりのジンに思わず吹き出してしまった。さっきまでの色っぽい表情は見る影もない。 「ははっ」 「え? なに? どうかした?」 「いいや」  きょとんとした表情も愛しいと思う。そんなジンのことがやっぱり好きだと改めて実感した。  たっぷりのキスをしてから体のあちこちに噛みつかれた。甘噛みにすっかり慣れた俺の体は、それだけで気持ちいいと震えてしまう。そうして十分熱くなったところでジンの長大なモノが入ってくる。  今夜は正面からシたいと言われ、寝転がった俺のほうから足を開いた。それを見たジンは嬉しそうにはにかみ、そうしてゆっくりと奥深くを目指して腰を動かす。 (っていうか……やけにゆっくり、だな)  大きな先端に内蔵が拓かれていくのをはっきり感じる。おかげで腰が何度もビクッと震えてしまった。  そんな俺にふわりとした笑みを向けながら、ジンの右手が体のあちこちを嬉しそうに撫でている。気がつけば、俺を見下ろしている目は白目のない琥珀色と黒く小さな瞳孔に変わっていた。 (この目も好きだ)  最初は驚いていた目にもすっかり慣れた。それどころか、この目で見つめられると体中がゾワゾワしてたまらなくなる。 「ぁ……ッ」  腹の奥がヒクンと震えた。小さな痺れが少しずつ大きくなり、ジンを受け入れている腹全体に広がっていく。 「カグヤ、どうしたの? なんか今日、すごいんだけど」 「知ら、な……ッ。わかん、ねぇ。体が勝手に、イ……ッ!」  自分の腹がぐにゅりとうねった気がした。途端に中を広げているジンのモノを強烈に感じた。まるで自分の中がしゃぶりついているような感覚がして、体の芯をゾクゾクしたものが駆け上がる。 「駄目、だ……ッ。動く、な……って……ッ!」 「動いてるの、カグヤのほうだよ? ほら……ね、中が、すごく、うねってる」 「んァ……ッ!?」  ぞわっとしたものが腹の奥からせり上がってきた。まずい。本能でそう感じた。 「なんか、やば、いの、が……ッ! ふぁ……ッ、なんか、く、る……ッ! や、ばい、の、ク……ッ、る……ッ!」  ガクンと腰が落ちた。内ももが痙攣しているように小刻みに震え出す。 (何だよ、これ……!)  こんなことは初めてだ。いつもならジワジワ広がる快感が今夜は突然襲ってきた。大波を被ったように快感に覆われたかと思うと、すぐにつぎの大きな波に襲われる。どんどん追い詰められるような気がした俺は、無意識のうちに頭をブンブンと振っていた。 「い、や……だ、ぁ……ッ!」  これ以上は無理だというのに、下半身にどんどん快感が集まっていく。 「ひッ! ひぅッ! なん、か、きて、きて、る……ッ」 「ははっ、すごい。前も後ろもグチャグチャだ。ふぅっ、すごい、俺ももちそうにない」  いつものようにガンガン抉られているわけでもないのに、恐ろしいくらいの快感に押し潰されそうだった。両手が必死に何かを掴んでいるが、それがジンの腕なのかシーツなのかもよくわからない。震える足がどうなっているのかもわからなかった。 「カグヤ、すごく可愛い。……いつかここに、孕んでほしいって言ったら驚くかな」  ジンが何を言ったのか聞き取れなかった。それなのに鼓膜が痺れ、ゾクンとした大波が背骨を這い上がってくる。 「ひ、ぃぁ、ぁンッ! ふ、ふぅ、んっ、んぁ……ッ」  尻孔がぐわっと広がった。あまりに苦しくて体にギュッと力が入る。それを突き破るようにジンのモノがさらに奥へと入り込み、ドクンと脈打つようにしなった。 「あ、ァア…………ッ!」  ビクンビクン! ビクッ、ビクッ、ビクビク、ビクンッ!  激しく体が跳ねた。同時にじゅわっとした快感が体全体に広がる。腹の奥から広がった熱が背骨を伝い頭を揺らした気がした。そのままぐるりと一回りした熱が腹の奥に戻って、キュゥ……ンとジンを食い締める。  これまで味わったことのない多幸感に包まれた俺は、そのまますぅっと意識が薄れるのを感じた。ジンの胸元で揺れるペンダントを見たのを最後に、ストンと意識を失うようにブラックアウトした。  翌日、随分遅くに目が覚めた俺にジンが「きっとメスイキってやつだよ」と口にした。 「メス……」 「あ、別にカグヤが雌になったとか女の子だとかいう意味じゃないよ?」  昨夜のとんでもない快感の原因が、どうやらジンはわかっているらしい。 「カグヤは女の子みたいな快感を得ていたってこと。射精してなかったし、でも完全に絶頂してたでしょ? お腹の中だけで感じるのは射精したときとはまったく違う深い快感だって聞いてたけど、まさにそんな感じだったしね」  なるほど、あれは女の子がイくときと似た感覚ってことか。 (んな馬鹿な)  思わず否定しかかったものの、ほかに原因は見当たらない。 「男の体には、ずっと昔子宮だった名残があるって言われてるんだ。子宮っていうくらいだから奥にあるんだろうけど、いつも深いところを刺激してたから目が覚めちゃったのかもね」 「……」 「そこまで感じてもらえるなんて嬉しいなぁ」 「……」 「メスイキなんて簡単に感じられることじゃないはずだけど、それだけカグヤと俺の相性がいいってことだね」 「……おまえ、やけに詳しいんだな」 「カグヤ?」 「男同士のこと、詳しいんだな」  俺の声が低いことに気がついたのか、ジンが慌てたように「違うよ!」と首を振った。 「狼は同性とつがいになる場合もあるからって、父さんに教わってたんだ。だから知ってるだけで」 「別に知識が豊富なのは悪いことじゃない」 「カグヤ、違うからね!? 発情したのはカグヤと出会ってからが初めてだし、それまで誰ともしてないから! 俺はずっと清い体だったし、カグヤとが初めてだからね!?」  ソファの隣に座ったジンが、大きな体を縮めて俺の顔を覗き込みながら必死に訴えている。眉は下がりっぱなしで色男が台無しになっていた。 「カグヤ、本当だから信じて?」  あまりに情けない表情に、思わず「ぷっ」と吹き出してしまった。 「ははっ、ははは!」 「カグヤ」 「大丈夫、んなこと気にしちゃいねぇって。たとえ過去に何があったとしても俺はジンが好きだし、全部受け止めてやるよ」 「……カグヤって、男前でかっこいいよね」 「知らなかったのか?」 「ううん、知ってた。そんなカグヤが俺も好きなんだ」 「知ってる」  情けない表情からふわりとした笑顔に変わる。そうしてぎゅうっと抱きしめてくるジンに「体はでかいのに可愛いんだよなぁ」なんて思ってしまった。 「……あのさ」 「なんだ?」 「……ええと、ものは相談なんだけど」  おそるおそると言った感じでジンが俺を見る。 「できれば、また昨日みたいな感じでシたいんだけど……ダメ?」  一瞬、絶句した。この男はどれだけ性欲に従順なんだろう。それとも狼としてはこれが普通なんだろうか。 (そうか、狼か)  信じたわけじゃないが、これが本来のジンなのかもしれない。 「まぁ、たまにならな」  呆れながらもそう答えたら、俺を抱きしめるジンの腕に力が入った。離さないと言わんばかりの強さに、苦笑しながらも胸が熱くなる。 「カグヤ、これからもずっと大事にするからね」 「俺も同じこと考えてるよ」  そう答えて大きな背中を強く抱き締めた。

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