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あなた色に染められて②
「覗き見なんて、いい趣味してんのな?」
「え?」
頭上から聞こえてきた声に、恐る恐る顔を上げる。
「わぁ!」
視線の先には、いつもみたいに意地悪く笑う成宮先生がいたから、思わず悲鳴を上げてしまった。
「安心しな。恋人がいるってちゃんと断ったから」
「あ、はい……」
「だから、心配すんな」
いつもより少しだけ優しく微笑む成宮先生に、そっと抱き寄せられて頬に口付けられる。
同じシャンプーを使っているはずなのに、なんで成宮先生の髪はこんなにサラサラしてるんだろうか。頬にかかる髪が擽ったい。
「感謝しろよな。この俺の恋人でいられるんだから」
「…………」
「葵 、返事は?」
「あ、はい」
「よし、いい子だ」
クシャクシャと頭を撫でられれば、つい顔がニヤけてしまいそうになる。でも、ここで嬉しそうな顔をしたら彼の思うツボだから、俺は無理矢理に無表情を装った。
「水瀬先生……ちょっといいですか?」
「あ、はい」
「今度、一緒にお食事に行きませんか?」
「はい?社員食堂、ですか?」
「いえ、違います!プライベートで……です」
最近こういうやり取りか増えてきた。
顔を真っ赤にした女の子が、俯きながら俺を食事に誘ってくる……ヤバい。俺に、何年かぶりのモテ期が来たのかも知れない。
緊張のあまりか、カタカタと肩が震えていて、今にも泣きそうな顔をしている。きっと、俺に声をかけるまでにかなりの勇気が必要だった事だろう。そんな彼女を見ていれば、愛おしさが込み上げてくる。
あぁ、やっぱり女の子はいいなぁ……。つい顔が緩んでしまう。でも……やっぱり、成宮先生との約束は破ることなんてできない。
「ごめんね。俺、今付き合ってる人がいるから、そんなことしたら怒られちゃう」
「え?水瀬先生、恋人いらっしゃるんですか?」
「あ、はい。でも、凄くヤキモチ妬きだから大変なんです」
「そうですか……」
彼女に事情を説明してるつもりが、「恋人がヤキモチ妬きで困ってるんですよぉ」と惚気けてるようにしか聞こえないなんて、自分で良くわかっている。
なぜなら、結局はそういうことだから。
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