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七つ葉のクローバー②

「んー! 今日も疲れたなぁ!」 「本当だよ。柏木もお疲れ」  たまたま帰りが一緒になった柏木と家路に着く。  冬が日が暮れるのが本当に早くて、辺りは真っ暗闇。天気予報によると、夜にはまた雨が降り出すらしい。  雪にならなければいいな、と俺は思った。  病院の職員駐車場を何気ない話をしながら歩けば、ふと駐車場の隅に生えているクローバーが目につく。 普段、何も感じずにその場を通過しているのに、その時はクローバーがとても気になってしまった。 「あ、クローバーだ」 「ん? クローバーがどうした?」 「あ、いやなんかちょっと気になって……成宮先生、体調が今良くないから四葉のクローバーあげたら元気になるかなって……」 「水瀬、お前……」 「ん? なんだよ?」  柏木が俺を目を見開いて見つめているから、思わず眉を顰めた。 「お前、本当に成宮先生が好きなんだな?」 「はぁ!?」 「めっちゃ可愛いじゃん。よりにもよって四葉のクローバーなんて……恋する乙女そのものだよ! よし、じゃあ四葉のクローバー見つけようぜ。俺も手伝うから!」  柏木が目をキラキラさせながら、駐車場の隅に向かって歩き出したから、俺も慌てて後を追う。  昼間に降った雨のせいで、クローバーには水滴がついていた。 「四葉のクローバーが見つかるまで頑張ろうぜ!」  なぜか張り切っている柏木の少年みたいな顔を見れば、楽しそうじゃん……と思う反面、少しだけ途方に暮れる。  なぜなら、辺りを見渡せば他の雑草に混じって、クローバーが地面を覆い尽くすように生えている。そして、何より自分達が今いるこの場所は、病院中の従業員が車を停めている広い広い駐車場だ。 「そんな簡単に見つかるかなぁ」  俺は早速四葉のクローバーを探し始めている柏木に気付かれないように、そっと溜息をつく。  でも、幸せの四葉のクローバーを見つけることができたら、持ち帰って成宮先生にあげたいって思う。  こんな子供染みた四葉のクローバーをあげたところで、成宮先生が喜ぶなんてわからないけど……恋人の為に何かしてあげたい一心だった。 「よし! 探すか!」  俺は大きく息を吐いてから、気合を入れた。 「あ、見つけた!」  心配とは裏腹に、案外四葉のクローバーは簡単に見つかってしまう。 「良かった……土砂降りになる前で」  今日の関東は一日雨の予報で、朝からシトシトと雨が降り続いていた。乾燥しているこの時期にはまさに恵みの雨だ。  でも、濡れた洋服は少しずつ体の体温を奪っていく。  早く帰ってお風呂に入りたい。  そして何より、自分が見つけた四葉のクローバーを成宮先生にあげたい。  喜んでくれるかな……考えただけでドキドキしてくる。  その時、隣でまだ四葉のクローバーを見つけ足りないのか、柏木がクローバーの群衆を掻き分けながら、ポツリ呟いた。 「なぁ、水瀬。七つ葉のクローバーって知ってる?」 「え? 七つ葉のクローバー?」 「そう。名前の通り、七つに葉っぱが別れてるクローバーがあるんだって。本当はさ、俺は最初から四葉のクローバーじゃなくて七つ葉のクローバーを探してたんだ」  俺は生まれて初めて聞く、七つ葉のクローバーに酷く興味を持ってしまう。  七つ葉のクローバーを見つけたら、きっと幸せが訪れるに違いない。  成宮先生も元気になるだろうか……。 「七つ葉のクローバーを見つけられる確率は、二億五千万分の一なんだって」 「二億五千万……!?」 「そう。凄い確率だよな」 「でもさ、柏木。俺二億五千万本のクローバーなんて全く想像がつかないよ……もしだよ、もし仮にあるとしたら、その中に七つ葉のクローバーがあるかもしれないってこと?」 「確率は0じゃないかもな?」    七つ葉のクローバー……俺の胸は、まるで宝物を見つけに行くかのように高鳴り始める。ワクワクして仕方ない。  それに、あんなハイスペックな彼氏ができる程の豪運を持った自分ならば、七つ葉のクローバーを見つけられるかもしれない。  もし七つ葉のクローバーを成宮先生に見せたら、きっとびっくりするだろうなぁ。 「ほら、成宮先生の為に見つけたくなっただろう? 水瀬、そう顔に書いてある」 「え? そんなわけねぇじゃん! 別に成宮先生に七つ葉のクローバーを見せてあげたいだなんて思ってないよ……そりゃあ、ちょっとは思うかもしれないけど……別に、そんな……」 「水瀬はわかりやすいよ……本当に成宮先生が好きなんだね」  柏木が少しだけ呆れた顔をしながら、俺を見つめた。 「もう放っておいてよ。自分でも馬鹿だなんてわかってんだから……こんな迷信を信じてるアラサーの男なんて、気持ち悪いよな……」  心を完全に読まれてしまった俺は、罰が悪そうに柏木から少し離れた場所にしゃがみ込む。  それを見た柏木が、声を出して笑った。 「なぁ水瀬。もっといい事教えてやるよ! 七つ葉のクローバーの花言葉は、確かな『無限の幸福』だったはずだよ」 「無限の幸福……」 「大事な彼氏に、無限の幸福を届けてやれよ」

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