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七つ葉のクローバー④

「あのさ、葵……聞いて欲しいんだ」 「千歳さん、俺に抱きついたら洋服が濡れちゃう……」 「別にいい。そんなん構わないから……」 「でも……」  突然、成宮先生に抱き締められた俺は、びっくりしてギュッと目を閉じた。トクントクンという心音だけが、いやに鼓膜に響く。うるさいくらいに……。  それでも抱き締めてくれる腕は凄く温かくて、思わずしがみついた。  さっきより、ずっと強くなった雨の中、広い広い駐車場には俺と成宮先生しかいない。  この世界中には、二人しかいないんじゃないか……そんな錯覚すら覚えた。 「俺さ、お前がこんなに頑張って俺の為に七つ葉のクローバーを探してくれた……それだけで十分幸せだよ」 「千歳さん……」 「葵がいてくれるだけで俺は十分だから。無限の幸せ……ありがとな」  そう言いながら照れくそうに笑う成宮先生を、今度は俺が抱きしめた。というより、飛び付いた。  その反動で、尻もちをつきそうになった成宮先生が、慌てて体勢を整えている。  冷たい洋服越しに感じる、成宮先生の体温が心地よかった。 「ごめんなさい。俺、どうしても千歳さんに七つ葉のクローバーあげたかった」 「うん。わかってる。その気持ちだけで十分」 「なんで……なんでそんなに優しいんですか? 俺は、迷惑かけてばかりなのに……」 「だって、俺は二億五千万分の一の七つ葉のクローバーより、七十七億人分の一の葵のほうが、ずっとずっと大事だもん」 「千歳さん……」 「俺は、お前と一緒にいられるだけで幸せだよ」  ニコッと微笑む成宮先生の唇に、俺はそっとキスをした。フニッという柔らかい唇の感触に、甘い電流が背中を駆け抜けていく。  優しく唇を啄んで、チュルンと舌を差し込んで。無我夢中でキスを繰り返す。そんな俺達の姿を、傘がそっと隠してくれた。 「千歳さん、大好き」 「ふふっ。俺も好き」 「帰りましょうか?」 「うん。着替え持ってきたから、トイレで着替えたら?」 「あ、ありがとうございます。じゃあ、行ってきます」  成宮先生から着替えを受け取ってトイレに向かおうとした瞬間、グイッと強く腕を引かれて、俺は再び地面にしゃがみ込んでしまう。  ふと成宮先生を見上げれば、優しく笑っていた。 「なぁ、やっぱもう一回、キスしよ……」 「え? まだするんですか?」 「うん。だって葵が本当に可愛いから」 「か、可愛くなんか……」 「いいから、ほら目を閉じろよ」  照れくさそうにはにかんでから、そっと瞳を閉じたのを合図だったかのように……成宮先生は再び俺の唇に自分の唇を重ね合わせた。    成宮先生が迎えに来てくれたことが嬉しくて、相合傘も嬉しくて……俺はは成宮先生の唇に夢中になった。 「ねぇ、ん、あッ……成宮先生……好き……」 「ん? ほら……こっち向けって……」  キスの途中に話し出した俺の顔を、不機嫌そうな顔をしながら自分の方へと向けるけど、またフワリと微笑んでくれる。 「お前、子供みたいに幼い顔してんのに、すげぇエロい顔もすんのな……堪んねぇよ。なぁ……」 「ん、あ……ッ」  細くて長い指で耳をコチョコチョと擽られると、ピクンと小さく体が跳ねる。 「このままホテル行くか?」 「えぇ!?」 「ホテルでシャワー浴びて着替えればいいだろう?」 「ち、千歳さんは、意地が悪い……」  明らかに俺の反応を見て楽しんでいるのなんてわかるけど、成宮先生に育てられたこの体は、あなたのお気に召すままに反応してしまうんだ。 「ホテル、行こう?」 「……はい……」  コクンと頷けば、優しく手を引かれて立ち上がる。  少しだけ照れくさくて顔を見合わせて笑った。 「あ、なぁ、葵。あれ七つ葉のクローバーじゃね?」 「え!? 本当ですか!?」 「ほらほら、見てみろよ……七枚葉っぱがあるじゃん? ヤッター! 七つ葉のクローバー、見つけた!」 「千歳さん……あなた、本当に空気読んでください……」  やっぱりこの人は、神に愛されし強運の男なんだと……俺は実感したのだった。

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