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第1話

「んー…」 中尾 哲矢は眉間にシワを寄せて、ベッドの上で唸った。 最近悩んでいる事がある。 高卒で会社員になって早5年、それなりに上手く仕事をこなしていた。 コミュニケーション力もそこそこあり、顔もそこそこと自負している。 でも、どうしても納得できないことができてしまった。 それは… 「はあー、気持ちよかった」 寝室に入ってきたのは、華奢な男だった。名前は東野 秀。会社の後輩。 というか同じ年だが、大卒で入社してきたため後輩にあたる。 元々彼は社宅に入るつもりだったが、手違いで空きがなく、飲み会でたまたま会社に家が近い哲矢の家に一緒に住むことになったのだ。 風呂から上がった秀はタオルでくせ毛の髪をくしゃくしゃと拭きながら、哲矢が横たわるベッドの前を通った。自分の前を通る秀のショートパンツから除く細い足を、思わず目で追ってしまった。男のくせに華奢で色白でまるで女性のようだと会社で女子の間で話題になっている。 しかも今は風呂上がり。石鹸のいい匂いがする。 (お前の、無駄な色気はなんだんだ…) 「はあー、疲れた」 と、哲矢が横たわるベッドに入り込んでくる。 「おい、今日は俺がベッドだろ」 「えー」 横たわる哲矢の隣に彼の身体に沿う様に寝転ぶ、 「今日疲れたから、ベッドがいい」 「俺だって疲れてる。順番で使うって約束だろ」 元々ここは哲矢の部屋で、哲矢のベッドなのになぜかジャンケンで交代で使うことにされてしまった。調子のいい男だ。 秀は会社では、あまり言葉を発する方ではないが、一緒に住んでみて家ではよく喋る事に気がついた。 「いいから、いいから」 「…まったく」 なぜか折れるのが早い哲矢。自分でもおかしいと思う。 秀が近くても全然嫌な感じがしない。哲矢は自分の横に寝転ぶ秀の背中からお尻まで舐め回すようにまじまじと見る。 (あー…、マズイ勃ちそう) 哲矢は我に返って、秀に背中を向けるように寝返りを打つ。 「電気消せよ」 「はーい」 軽い返事をして秀は部屋の電気を消した。 秀が華奢だとは言え、さすがに男二人でシングルベッドは狭い。 背中が少しだけくっついている。 (あー…俺がソファで寝るんだった) 一緒にベッドに寝たことを後悔した。そもそもベッドに入り込んだきた秀を拒否しない自分もおかしいだろ。大の男が一緒のベッドで寝る事自体がおかしいじゃないか。 確かに秀は男にしては綺麗で何か色気がある。 飲み会の話では、男にも女にもモテると自慢していてムカついた記憶があった。 でも、男なのに痴漢によくあったり、ストーカー被害なども経験しているそうだ。 まあ、あの無駄な色気じゃ仕方ないよな。 その部分だけは同情してしまうが。 「ん…」 背中を向けて寝ている秀が小さな声を漏らす。 (変な声出すなよ…) 目をつぶりながら思わず突っ込む哲矢。 「はあっ」 (ん…?) 変な息遣いが聞こえて、哲矢の頭に疑問符が浮かぶ。 秀はゴソゴソと動いていた。 (こいつ…人の横で抜いてやがる!) 秀は哲矢の横に眠りながら、自分で前をいじり始めた。 (勘弁してくれよ…) 声を殺してだんだん激しく手を動かす秀。 「なかお…んん」 聞き間違いだろうか。 中尾と呟いていた。 俺の名字と同じだ。 いや、聞き間違いだろう。 そんなわけないだろう。 俺で抜いているわけじゃないよな。 秀は抜き終わったのかスヤスヤと眠りにつく。 (俺、眠れないかも……) 翌朝。 哲矢が目を覚ますと、 動きを止めた。 哲矢の背中に秀がしがみついていた。 「んー…」 これはどういう状況だ。同居の男にベッドで抱きつかれている。 勃ちそうだ。 (いちいち反応するな、俺) 哲矢は思い切り起き上がり、自分にくっついている秀を剥がす。 「いいかげん起きろよ…」 「まだ寝たい…んー…」 仰向けに寝転がる秀をはたと見て、哲矢はどきりとした。 彼のTシャツが胸の上まで目繰り上がり、昨日自分でしていた後直していないのか、ショートパンツが腰まで下がっている。 色白でピンクの乳首が丸見えで、哲矢は目が離せなくなる。 その綺麗な乳首を舐め回したい衝動にかられ、はたっと我に返り、乱暴に秀に毛布を掛ける。 (何をしようとしてるんだ。俺は) 慌ててトイレに駆け込んだ。 「…」 秀は哲矢がトイレに行った後、ベッドで目を開ける。 半眼でトイレの方を見つめ、 「まだ押しが弱いか‥」 ため息を付いて起き上がった。 「はあ…」 哲矢は会社の同僚と食堂に来て、遅めの昼食を取っていた。 「お前なにため息ついてんの」 同僚の村上忠が、大袈裟にため息をつく哲也に声をかける。 「いや、別に」 村上はじっと彼を見つめ、 「ヤったの?」 「?なにを」 「東野と」 哲矢は頭に疑問符を浮かべ、 ヤった?ヤったとは何だ? 俺が仕事でなにかやらかしたのか? それとも人間としてのなにか・・・ 眉間にシワを寄せながら、 「質問の意味が分からないんだか」 ああと、村上が何かを思いだし、 「はっきり言わないと、お前鈍いからわかんねーか」 「俺のどこが鈍いんだよ」 すると村上はため息を付き、 「お前人の好意とか気が付かないじゃん。この会社の何人の女の子がお前にアプローチかけてたか」 「え、いつだよ」 「俺が知る限りでも、入社して数回あったのにな」 哲矢はあからさまにショックという顔を見せる。 「マジか、全然気が付かなかった」 と、ここまで話してから、 「それでヤったって何」 「だから東野とエロイ事したのかって聞いてんだよ」 「あいつは男だぞ」 「あれだけキレイなら関係ないだろ」 「いやいや、村上ならいけるのかよ?」 すると村上はハハッと笑い、 「俺は巨乳じゃないと無理」 キリッとした顔で宣言する。 「…」 哲矢はため息を付いて残りのサバ定食を片付ける。 村上は哲矢をマジマジと見て、 「同居した男とそういう関係になるって、結構定番のセオリーなんだってさ」 「…また一葉ちゃんのBL妄想かよ」 「まーな」 一葉とは、村上の妹で腐女子である。 妹の影響で村上のBL漫画をたまに読むようだ。 つまり哲矢の境遇を楽しんでいるのだ。 「くだらない」 哲矢は食堂を後にした。 その夜。 風呂から上がった秀は、ベッドではなくソファで横たわる哲矢の背中を見つめ、 「ベッドで寝ないの?」 「いい。もう一つベッド買うまで俺ソファで寝るから」 そもそもベッドが一つしかないからいけないんだ。 「…」 秀は黙ってベッドで寝た。 週末、秀は一人で電車で出掛けていた。 ふと後ろにサラリーマン風の男が立っていた。 少しだけ混んでいた電車で、秀の後ろピタッとくっついた。 そして腰を触ってくる。 不快感が全身を襲う。 昔から電車やバスに乗ると、必ず痴漢にあう。 「!」 次の駅でとっさに電車を降りた。 秀は、ベンチで腰を下ろし肩をなでおろした。 入社日もそうだった。 あの時はお尻を電車で触られてズボンの中まで手を入れれられそうになった時、 「やめろよ」 と痴漢の腕を掴んで相手を捕まえてくれたのが、哲矢だった。 入社して同じ会社だった時、秀は嬉しかった。 中学の時も、高校の時も、男の先輩に襲われそうになったりしたので、空手を習い始めた。 でも、身体はゴツくなることはなく、適度な筋肉が付いてますますモテた。男女関係なく。 ストーカーにつけ狙われた事もあり、秀は社宅に入ろうとしたのに手違いで空いておらず、 たまたま会社の近くに一人暮らしをしていた哲矢との同居を勧めてくれたのは、彼の同僚の村上だった。村上は秀が新入社員の時の研修担当だったので秀の事情なども知っていた。 一度何で哲矢との同居を勧めたのかを訪ねたら、 『信用できるやつだ』 とのこと。 あれから毎晩ソファで寝る哲矢は、完全に寝不足だった。 それに秀と同居してから全く抜いていないため、かなり限界だった。 今日もソファで寝る準備をしていた哲矢は、 「東野、今週末ベッドもう一つ届くから」 「え」 「これでベッドの取り合いもなくなるな」 つとめて明るく言い放つ哲矢。 どしっと秀はソファに寝転がる哲矢の上に跨る。 「な、なんだよ」 秀は、真っ直ぐ哲矢を見つめ、 「ベッドで寝ろよ」 「いいって」 「一緒に寝たい」 「何いってんだ」 そういう哲矢を、秀は無理矢理仰向けにさせる。 お互いのモノがズボン越しに擦れ合う。 「くっ…降りろって」 刺激されて少しずつ哲矢のモノが固くなっていく。 (やばいって、反応してることバレる…) 必死に耐えようとするが、身体は正直でどんどん硬くなる。 それに秀のも固くなっていた。 「中尾、何でこんなに反応してるの?」 と、哲矢の股間を撫でる。 「さわんなっ、しばらく抜いてないからだ」 秀の腕を掴んで話そうとするが、変に力が強いため放せない。 「俺の風呂上がりとか、全身舐め回してるくせに」 「は、はあっ!?誰がそんなこと…」 バレてた。いつも見ていたこと。 「俺のことエロい目で見てるくせに、何で手出さないの?」 聞きたい所は、そこ? エロい目で見てた事を糾弾するんじゃなく? 何で手を出さないのか? 「俺結構モテるんだよね。男も女も関係なく」 自分で言うなよ。モテるって。 「昔から性的に興味持たれるだけで、俺の気持ちは関係なかった。学生の時男のセンパイに押し倒された事もあったし、変にベタベタしてくるやつとかもいたし。もちろん女も試したけど全く興味は持てなかった」 つまり男しかダメってことね。 「お前だって、俺に反応してるくせに何で手を出さないの?」 秀は秀なりに、色んなきもちがあったのだろう。哲矢は顔を逸し、 「俺も好きでお前に反応してるわけじゃない。男が好きなわけじゃないし。 無駄にエロいお前が悪いだろ。でも」 哲矢は真っ直ぐ秀を見つめ、言い放った。 「普通は、そんな簡単に手なんて出さない」 それを聞いて秀は内心嬉しくなった。 秀は、ふっと笑い、 「村上の言った通りだね」 「村上?あいつが何言ったんだよ」 同僚の名前を出され疑問符を浮かべる哲矢に、秀は 「信用できるヤツだって」 甘く呟いた。 そんな彼にドキッとする。 秀は、哲矢の上でお互いのモノが接触した状態でゆっくりと腰を前後し始める。 「ち、ちょっと、動くなってっ」 ズボンの上なのに、完勃ちしてるのがバレバレだ。 秀は哲矢のズボンを強引に下ろし、飛び出たモノをマジマジと見つめる。 「でかっ!」 「こ、こら、見るなよ……って、お前も脱ぐな…」 注意しているスキに、秀はショートパンツから自分のモノを出して見せる。 哲矢は思わず秀のモノをガン見する。 ピンクで体毛が少なく自分よりは少しだけ小さい。 「ガン見してんじゃん」 哲矢は真っ赤になりながらも目は離せず、マジマジと見た。 「…これは、見るだろ…」 秀は自分の私物が入っている棚からローションを取り出し、 二人のモノにかけて、擦りは始める。 ぬちゃぬちゃとやらしい音がし始め、哲矢はますます固くした。 「おまえ…触っていいなんて、言って…ないって」 強引に擦られて、悶えながらも抗議。 「これだけ固くして説得力ないってば」 確かにそうだが。 「んっ、あっあっ」 秀はやけに色っぽい喘ぎ声を出し始める。 声までエロいのかよ。その声だけでイケそうだ。 哲矢はだんだんともどかしくなり、 秀の手をどかして二人のモノを手の動きのスピードを早めて擦り続ける。 「あっあっ、早いって…!」 「くっ、うっ」 もうもちそうにない。 ビュクビュクッ… 終わった、俺の人生。 男相手にイッてしまった。 秀はふうとため息を吐き、哲矢の身体にうなだれる。 哲矢はそんな秀から顔をそらし、 「お前さ、こういう事は好きな人とした方がいいよ」 「してるってば」 …え? 「なに?」 「何でもない」 秀は哲矢から離れて、風呂に行った。 とうとう、エロいことをしてしまった。 実際にヤッた訳では無いが、正面から抜き合いとはいえ触れてしまった。 想像以上のとろけた秀の表情がもう理性を忘れさせてしまった。 もう同じことはしないと、哲矢は心に誓った。 そして週末。 部屋の大きさを考えて、セミシングルベッドが届いた。 哲矢はそれを、何故か不機嫌になってる秀と組み立てた。 ベッドの向かいの壁際に置き、間にソファをずらす。 「ふう、いい感じだな。お前細いからセミシングルで寝られるだろ」 秀はまだ頬を膨れさせ哲矢とは口を聞かない。 (何でベッド買って機嫌わるくなるんだよ) 哲矢は疑問符を浮かべて、 「何怒ってんだよ」 「…別に」 哲矢は頭をクシャクシャとかき、 「言いたいことあるなら言えよ」 「…ない」 言ってテレビを見始める。 哲矢はため息を付いて、ベッドの梱包材を片付け始めた。 その夜。 あれから秀は一言も喋らない。 無言でご飯を食べ、皿を片付け、風呂に入り、テレビを見て、 哲矢が風呂から上がると、秀は大人しく新しいベッドに横になっていた。 それから数日何事もなく日々は過ぎていった。 変わったのは秀は家で一切口を利かなくなった。 ある金曜日。 哲矢は一人先に帰ってきていた。 秀とは部署が違うため直接は関係ないが、 彼は今日部署の飲み会らしくまだ帰ってこない。 久しぶりに部屋で一人の時間を過ごしていた。 最近の秀の沈黙が哲矢も流石に気になっていた。 勝手にベッドを買ったことが機嫌を損ねたのか? それとも一回り小さいベッドだから機嫌を損ねた? テレビを見ながら、あの日のことを考えていた。 秀のヤラシイ身体を思い出し、 哲矢は急にムラムラして自慰行為を始める。 固くなった自分のモノを擦りながら、 秀の小さなお尻に挿れたらどうなるんだろうと想像した。 これ以上ないくらいヤラシイ顔を想像してすぐにイッた。 一緒に抜き合いした時、秀はなんて言ってた? 『一緒に寝たい』 秀は哲矢と一緒に寝たいと言っていた。 どういう意味だ…? 何で俺と一緒に寝たいんだ? 恋人でもないのに、 そんな事ましてや男の俺に言うか? 『お前さ、こういう事は好きな人とした方がいいよ』 『してるってば』 「!?」 哲矢はがばっと起き上がった。 やっとはっきりと、あの時秀が言った言葉を思い出す。 そういう意味? (俺って、ホント鈍いんだな) 改めて秀の気持ちに気が付く。 スマホが鳴る。 相手は同僚の村上。 「なんだよ」 《あー、中尾。悪いんだけどちょっと迎えに来てくれないか》 「?何で俺がお前を迎えに行かなきゃならないんだよ」 《いや、俺じゃなくて》 「え?」 疑問符を浮かべたまま哲矢は普段着で外へ出た。 それは部署の飲み会で使われていた店の近くの駅の前に、酔ってベロベロの秀とソレを介抱して困り果てた村上の姿。二人は同じ部署で今夜は飲み会で秀がかなり無理に飲みすぎたらしい。 哲矢の姿に気がついて村上はほっとして、 「悪い、呼び出して。でも、こいつかなり飲みすぎたみたいで」 「ああ、こっちこそ悪い」 なぜか謝る哲矢。 (親か俺は…) と内心自分につっこみつつ、 村上は秀の肩をゆらし、 「ほら、中尾が迎えに来たぞ」 すると、秀はウトウトとしながらも立ち上がり、哲矢の首にぎゅっと抱きついた。 「帰る〜」 哲矢はため息を付き、秀を軽々と抱きかかえる。 じゃあなと、秀を抱えたまま帰る哲矢の背中を見送りながら、 (まんざらでもないじゃん) ガチャ 部屋につくと、玄関に秀を座らせ、 「ほら、靴脱げよ」 「んー…」 ベロベロの秀はふらふらで何とか、 片方ずつ靴を脱ぎ捨てバラバラに玄関に投げ飛ばす。 「あーもう、後で拾うか…、ほら立てよ」 哲矢は秀を立たせようと腕を引っ張るが、立とうとしない。 「ったく」 哲矢は秀を抱きかかえ部屋まで運ぶ。 ベッドに下ろそうとすると、 秀はがしっと哲矢にしがみつき離れようとしない。 「降りろって」 「やだ」 離れようとしない。 酔ってるくせに、 しっかりと哲矢にしがみつく。 「お前さ、ベッド買ってから機嫌悪いだろ。何がイヤなんだよ」 哲矢は彼を下ろすのをやめ、 立ったまま秀を抱え、 「このベッドがいやなのか、それとも」 哲矢は秀の耳元に口を近づけ、 「俺と一緒に寝たいってこと?」 小声で優しく伝える。 秀は哲矢にしがみついたまま、こくんと頷いた。 やけに大人しい秀に妙に愛着が湧き、 哲矢は黙って自分のベッドに秀を下ろした。 寝かせた秀は真っ直ぐ哲矢を見つめた。 酔っていてフワフワしているが、やけに哲矢が優しい。 これは夢だろうか。 哲矢はそっと秀の額にくっついた前髪をかきあげ、 「変なことしたらベッドから落とすからな」 「着替えさせろよ」 「俺はお母さんじゃない」 言いながら、哲矢は秀をしっかり部屋着に着替えさせ寝かせる。 隣でスヤスヤと眠る秀の頭を優しく撫で、見つめながら、 自分もそのまま眠りについた。 翌朝。やけに身体が重くて秀は目を覚ました。完全に二日酔いだ。 「…」 目の前には哲矢が寝ていた。同じベッドに寝ている。 昨日のことは薄っすらと覚えている。 あんなに何日も口を聞いていないのに迎えに来てくれたり、抱えて帰ってくれたり、ベッドまで運んで着替えさせてくれたり。 (あんなの…) 「…あんなの、好きになっちゃうじゃん」 ぎゅっと、隣で眠る哲矢の腕に顔を押し付けた。 「んー…」 哲矢は突然秀の方に寝返りをうち、彼をぎゅっと抱きしめる、 「なっ、ち、ちょっと」 急に動揺して思わず声を出す秀。 哲矢は目を閉じたまま、 「ん…ブツブツ言ってないで寝ろよ、今日土曜だろ」 と寝ぼけながら秀の頭をなでなでして、抱きしめたまま再び眠りについた。寝ぼけているとはいえ初めて哲矢の方から抱きしめられ、秀は柄にもなくドキドキする。 秀はこのまま眠って、彼が起きた時の慌てようを想像してクスリと笑い、 思い切り哲矢の胸に顔を埋めて二度寝した。 その夜。 「お前さ、全然二日酔い治ってないじゃん」 「…」 二度寝して昼頃に起きたが、 どうも具合が悪くて秀は一人で寝ていた。 哲矢は昼に起きてから、 二日酔いの薬を買ってきて秀に飲ませた。 「…ありがと」 「なにが」 聞き返すと、秀はコクコクと水を飲み遠慮がちに 「……一緒に、その…寝てくれて」 「…………………」 照れながら呟く秀に、哲矢も何だか照れくさくなる。 哲矢は頭を掻きむしり、 「…同じベッドで寝るのは、俺は良いとも悪いとも言わないからな」 「え?」 「ただ毎日は……いいわけじゃないぞ。悪いとまではいわないでもないけど」 哲矢のその声に、秀はプッと吹き出し、 「結局何がいいたいんだよ」 「うるせえ、とりあえず風呂入れよ」 「うん」 「飯食うなら用意するから」 「今日は食欲ないや」 「おう」 哲矢は自分の夕食を用意した。 二人はどちらかが言わずとも、同じベッドで寝た。 昨日は久しぶりにゆっくり眠ったが、今夜は何だか急に隣で眠る秀が可愛く見える。 どうした俺。 毛布から覗く太ももにさえ反応してしまいそうだ。 哲矢は一人でシたくなり、寝返りをうち秀に背中を向け、自分のズボンに手を入れる。 秀を起こさないように毛布で腰を隠し、自分でいじりはじめる。 目を閉じて二人で擦り合いをしてしまった時の秀の裸体を思い出す。 色白の肌にピンクの乳首と俺より少しだけ小さなモノと… 「ん…」 秀の隣に寝ながら、秀のヤラシイ身体を想像して一人でイジる。 「は…」 本当は触りたい。優しく撫で回して一緒に気持ちよくなりたい。 でも二人は付き合ってるわけじゃない。恋人じゃない。だからそんな事するのはおかしい。 秀の気持ちを考えなくては。 一緒に抜き合いした時、白状すると最高に気持ちよかった。 あの快感は今まで感じたことのないものだった。 本当は毎日でも触りたい。 触りたい?俺が?東野に? でも正直触りたい。 こんな事今まで付き合った女には、まったく思わなかった事だ。 何故かいつも、『あなたは気持ちをわかってくれない』『鈍い』と振られるのだった。 などと考えている間に哲矢は自分の背後から手が伸びて、自分以外の手にモノを触られる。 「ひぇ! こ、こら!何やって‥‥」 すると、隣に寝ている秀が怒った顔をして後ろから抱きつき哲矢をじっと睨んでいる。 「何やってはこっちのセリフだっての」 「あうっ」 手の動きを早めると、哲矢はあからさまに反応する。 秀は哲矢を仰向けにして上に馬乗りになる。哲矢の腰に被さった毛布を剥ぎ取り、 「何がへんなことしたら下に落とすだ。自分がやる気まんまんじゃねえか」 明らかに怒っている。 そのまま哲矢のズボンを強引に下ろし彼のガチガチの股間のモノを掴んで、 「こんなにしておいて。全然説得力ねえよ」 「…ちょっと、この状況で説教しないで……」 自分でシていた所を見られるだけでも恥ずかしいのに、 勃ってるモノを握られた状態で説教されるのも恥ずかしい。 収めたいが全然萎えない。 何故かって上に秀が乗っているから。 哲矢は秀から目をそらしながら、 「自分だけシて悪かったよ。同居してると一人で抜く時間もないもんな」 「そんな事言ってるんじゃない」 相変わらず鈍い男だ。 見当違いの返答をする哲矢に秀は、 「俺が隣に寝てるのに、俺の裸想像して抜いてたろ」 言い当てられドキッとした。 「なっなっなっ」 「おおかた付き合ってないから手は出せないとか馬鹿な事、考えてるんだろが」 こいつは超能力者かよ。 完全に言い当てられ何も言えない。 だが、秀の怒りはまだおさまらない。 「こっちは惚れた弱みでただ隣に寝られればいいって、無理矢理納得して据え膳かまされてんのにさ。何なわけ?」 (惚れた弱み?) 「俺のこと考えて抜くなんて、俺のこと好きじゃん」 (すき…?) 煽るように言った秀の言葉が、頭の中をリフレインする。 俺が東野を…好き…? ・・・・・・・・・・・ 哲矢は急に起き上がり、秀の顔を見つめる。 秀の頬に手を添えて、何かを確かめるようにチュッとキスをした。 突然キスをされて秀は一瞬茫然となったが、 急にボッと紅潮させる。 「な、何も言わずにするな!」 「そうだな」 「なにが」 「うん」 「……うん?」 「もう一回」 と、秀を抱き寄せ今度は口を開けさせ、 「していいか聞いてんっ」 今度は深く深くキスをされ秀の言葉は遮られる。 クチャクチャと音を立てて、 哲矢は今まで我慢していた様に止めなかった。 キスをしながら、秀の事を考えた。 積極的なのに、性的にただ見られるのはイヤで、でも甘えたがりで…。 はっきりしたくてキレる所も、全部、愛おしい。 だんだん身体が痺れてきて、秀は力が抜けていく。 ようやく口を離し、秀は初めて熱っぽく見つめてくる哲矢の視線にドキリとした。 うんと頷き哲矢は、 「好きか嫌いでいうと、好きだな」 優しく頬笑み、秀にあっさり告白した。あまりに突然で潔くて、 秀は今までの自分のキレた時間を返して欲しいと思いながら、 「ふっ」 何だか馬鹿らしくなり、吹き出した。 「なにそれ」 言って哲矢の首に絡みついた。 週明け月曜日 会社に向かう道中、哲矢と秀を見つけ、 「二人とも、おはよう」 村上の声掛けに二人は振り返り、 「おう、おはよう」 「おはよう」 いつもの二人だった。 週末の飲み会以来、二人はどうなったかと心配していたが、 「仲直りしたのか」 「別に喧嘩してないって」 と哲矢はハハッと笑う。 三人は会社に向かって歩き出す。 「ふーん。でもさ」 村上はじとっと秀を見下ろし、 「飲み会の時はかなり愚痴ってたじゃん。『中尾が構ってくれない、せっかく一緒に住んだのに〜、一緒に寝てくれないし、誰に恋したって報われないんだ〜って』ベロベロで泣いてたじゃん」 「ななっ、お前嘘言うなよ!!」 「ホントだって『俺の魅力が分かってない〜』とか」 その言葉に、秀は思わず哲矢を確認する。 哲矢はふうんと秀を見つめる。 「そんなに構ってほしかったんだぁ」 言われて、秀は急に気恥ずかしくなり、 「お、俺先行くから」 と走って先に会社に向かっていった。 哲矢はフッっと笑う。 走っていった秀を優しい顔で見つめる哲矢に、 「で、セオリー通りになった?」 「ん?」 照れくさそうにフッと笑い、 「どうだろな」 言って歩き始める。 村上は肩をすくませ、 「どっちでも良いんだけどさ、俺を巻き込むなよ」 「それも、どうだろうな」 「おい」 笑い合いながら、哲矢は今日も会社に行くのだった。 東野 秀は自他ともに認める。色香の要素が多い男だった。 学生の時から電車に乗れば痴漢にあい、男のセンパイにも女のセンパイにも襲われそうになったことがある。でも、ちゃんとした恋人は出来たことがない。 というか、今まで一方的な行為が多かったためあまり人に行為を向けたことがなかった。 しかし最近縁あって同居した中尾哲矢の事を好きになり、 お互いが好意を知る仲にはなった。 ただ彼はノーマルのため恋人には至っていない。 抜き合いはしたが、最後まではしていない。 そして自分が先に好きになったのに、まだちゃんと好きとは言えていなかった。 今まで誰にも抱かれたことはないので、怖い気持ちもある。 でも、哲矢ともっと繋がりたい。 もともと入社時に社宅に入居する予定だったが手違いで部屋がなく、偶然にその話になった飲み会にいて会社に家が近かった哲矢の家に転がり込んだ形で始まった同居は、あっという間に半年が経過した。 二人は自然に先に帰った方が食事を作り、もう一方が後片付けをする。 ベッドは、秀が黙って哲矢のシングルベッドにセミシングルをくっつけたので、哲矢も何も言わなかった。 確かにお互いがお互いの好意を察するぐらいの気持ちの距離ではあるが、実際恋人になったわけではなく、あれ以来触れ合う事はしていない。 「風呂空いたよー」 タオルで髪を拭きながら、部屋に入ってくる秀。それをマジマジと見つめつつ、 「おお」 哲矢は返事をする。相変わらず変な色気のある男だ。哲矢はわざわざ部屋に来てタンクトップを着ている秀を見つめ、 「わざわざここで着替えるなよ」 すると、秀はニヤニヤしながら、 「中尾にサービス♡」 「ばか」 といいつつ、しっかり見ている。 色白で触ると滑らかだった肌に、キレイなピング色の乳首がチラついているのを、しっかり見ていた哲矢。最近目をそらさず秀をしっかり見つめるようになった。 (あとで抜くか…) 自分も風呂に入ろうと立ち上がる哲矢。 「そういえばさ」 哲矢は思い出したように、 「あれどうするんだよ?」 「あれって?」 「社宅に空きができたって先週、課長が言ってたろ」 「あー、うん」 「どうすんの?」 秀は、ソファで丸まりながら、 「どうしようかな……」 未だ悩んでいるようだ。 「そろそろ考えないと、埋まるぞ」 「だねぇ…」 お互い顔は見ずに会話する。 この同居も元々は社宅が空きがなくなり哲矢の家に転がり込んだ事から始まった。 いつのまにか同居も慣れ始め、正直二人は今の生活が気に入っていた。 というより、二人で暮らすことが当たり前になっていた。 でも付き合っているわけじゃない。それを考えると哲矢は引き止める事も何だかおかしいと思い、何も言えていない。 哲矢は風呂に浸かりつつ、秀と以前抜き合いしたことを思い出す。 最高に気持ちよくて、もっと繋がりたくなって、でも恋人になる勇気もない。 そう考えるだけで情けない。 出ていくなって言いたいけど、秀がそれを望んでいるかも分からない。 秀はきっと自分に好意があることは分かっている。でもそれをはっきりと確かめるのが怖い。 哲矢は、はあと息を吐き風呂から上がる。 部屋に戻ってくると、秀はすでにベッドで寝ていた。 ただ手前に寝ているので、自分が寝るには横たわる秀をまたいでいかなくてはいけない。 なるべく秀に触れないようにしようとしていたのに。じゃないと我慢できなくなる。 哲矢は頭を掻き、ベッドに向かう。 奥に詰めろと言おうか迷ったが、どうやら寝ているため起こすのもどうかと思い、眠っている秀を起こさないようにゆっくり跨ごうとした時、 「うぐっ」 秀の膝が哲矢の股間にグイッと押し当てられ、哲矢は声を漏らす。 「こ、こら」 「んふふふ」 ちょっとしたイタズラを仕掛けた子供のように笑う秀。 股間を刺激されてあっさりと勃ってしまう。 まだぐいぐいと続けるので、哲矢は仕返しとばかりに秀のズボンを下げるがすでに勃っていた。相変わらずキレイなピンク色をしている。それにまた興奮する。 秀は自分の上に跨っている哲矢のズボンを下げ彼のモノを握り先っぽを撫で始める。 「ち、ちょっと、このっ」 感じながら、哲矢は秀のランニングをめくり、ピング色の乳首をいじり始める。 「あぁっ、乳首はだめぇ」 秀は、今までとは違う反応を見せた事で、 哲矢は初めて秀の乳首を舐める。 「や、やあっ、あっあっ」 哲矢は秀の乳首を吸ったり、舌の上でコロコロ弄んだり優しく舐めたり弄ぶ。 上と下を同時に責められて秀は完全に哲矢の手に身を任せる。 しばらく触っていなかったせいか、手が止まらない。 触れたくてしかたなかった。 二人のモノを哲矢が全力で擦り、 同時に果て哲矢は倒れるようにベッドに眠る。 秀はそんな哲矢の胸にくっつき眠る。 (やっぱり好き…) 離れたくない。秀は心からおもった。 数日後、 哲矢の部署に中途採用である男が入社した。 彼の教育係を哲矢が担当することになった。 「坂本 優真です。中尾センパイよろいくおねがいします」 お辞儀をし、挨拶をする新人社員。秀と同じくらいの小さめの身長で顔は中々の美形。 「よろしく坂本くん」 ニコッと哲矢は挨拶をした。人良さそうな彼に好感を覚えた。 坂本は、数日で仕事も覚えかしこいし、男女関係なくモテるタイプだ。 ある日の昼休み。 哲矢は坂本を連れて、食堂に来ていた。ちょうど哲矢の同僚の村上も同じ部署の秀と昼食を取っていた。 「おー、中尾おつかれ」 「お疲れ村上、お前らも一緒だったのか」 「まあね」 小さく答える秀。 村上は哲矢の横に立っている坂本に気が付き、 「そっちは?例の中途の人?」 「先週入社した坂本くん。坂本くんこっちは村上。おれの同期。こっちは村上と同じ部署の東野」 「坂本です。よろしくおねがいいします。村上さん、東野さん」 村上はにこっと笑い、 「イケメンだねー、よろしく坂本くん」 席に促し握手をする。 「何か困ったことがあったら相談してね。こいつじゃ不安なこととか」 「こら」 村上の言葉に突っ込む哲矢。 「ありがとうございます。中尾センパイは優しくて頼りになります」 「だってさ」 ふふんと笑う哲矢。 「でも、坂本くんは優秀だからまったく手間かからないよ」 「へえ」 感心する村上。坂本は照れながら、 「そ、そんなことないです。センパイがきちんと教えてくれるからです」 哲矢を褒める坂本。 「ふうん」 秀は面白くないという顔をして黙って食事に戻る。 「なんだよ」 「別にオモてになるんですねぇ、中尾センパイ」 「何だよその言い方」 哲矢は疑問符を浮かべる。村上はニヤニヤ笑い、 「やきもちかよ」 「はあ?」 「んなわけないじゃん」 「……」 そのやりとりを見つめ、坂本は何かを考え込む。 食事を終え、それぞらが自分の部署に戻る時、 「あ、あの東野センパイ」 「ん?」 「仕事終わり、時間ありませんか?」 「え?おれ?」 「はい。相談があるんです」 それを聞き、なぜか哲矢がざわつき、村上がほくそ笑む。 哲矢は午後の仕事に戻り、悶々としていた。 初めて会った秀に相談?何の?部署も違うし、教育係は俺だぞ? 「中尾センパイ」 「え?」 急に話しかけられて、哲矢はハッとして坂本を見る。 「すると東野センパイってきれいですよね」 「……えー、そ、そうだね」 「やっぱり中尾センパイもそう思いますよね」 と意味深な笑みを見せる。 (ま、まさか、東野の事を好きに…?) 確かに男女関係なく好かれる秀のことだ。新人にも好かれてもおかしくない。 仕事終わりに呼び出すなんて、まさか告白…!? 哲矢は急に焦り始める。 夜、秀は坂本に誘われ、居酒屋に来ていた。 とりあえずビールで乾杯し、二人はて適当に注文をする。 「東野センパイ今日はありがとうございました。付き合っていただいて」 「そんなのいいけど、何か話がったんじゃないの?」 「あ、その」 坂本は急にもじもじしながら、 「中尾センパイと同居してるって本当ですか?」 「え」 急に仕事以外の事を聞かれて、秀はドキッとする。 「まあ、なりゆきで」 「へえ」 気まずそうにビールを飲む秀。 坂本は構わず続ける。 「中尾先輩って、いい男ですよね」 「ん?」 「何だか包んでくれそうな優しさとか、ガッチリしたから体格とか…」 これはもしや恋愛相談か?教育係の中尾の事を好きになったとか? だとしたら秀にとっては大問題だ。 などと、考えいてると、坂本は急に秀の手をギュッと握り、 「東野センパイ!俺、センパイにお願いがあって‥‥」 「え、ち、ちょっと」 どんどん近づいてくる坂本に東野は圧倒されて動けなくなっていると、 突然後ろからグイッっと引き寄せられ、 「こいつは駄目だぞ」 突然現れた哲矢は秀を後ろから抱きしめる。 秀はドキドキとして動けない。 「こいつのことを気に入ったのは仕方ないけど、告白とかだめだ」 余裕がなくでもはっきりと言い切る哲矢に、坂本は納得している顔で、 「それは中尾センパイが東野センパイの事が好きだからですか?」 「そうだ」 「え!!?」 一番大きな声を上げたのは秀だった。後ろから抱きしめられたまま驚く。 でも、坂本にはそれが分かっていたようだ。 「はっきりしてくれてよかったです。わざわざ東野センパイが俺に告白されるんじゃないかって焦って僕らの後つけてたんですよね?」 「…」 黙っている哲矢に秀は妙に照れる。 「中尾」 「ん?」 「そろそろ放して」 真っ赤になる秀を見てよ、うやく哲矢は我に返り彼を放す。 一人冷静な坂本は 「二人が好き合っている事は、察しがついていました。だからこそ」 坂本の言葉に気まずい空気の二人。 「そんな二人に相談があって」 と、と二人を真っ直ぐ見つめ、 「村上センパイって、恋人がいるんでしょうか?」 『…え?』 意外な相手の名前に二人はぎょっとした。 実は坂本は入社当日に、会社内で迷子になっていた時に親切にしてくれた、村上の事が好きになってしまったのだというのだ。 哲矢と秀の昼のやり取りを見て二人がいい仲であることに気付き、相談しようとしたようだ。 哲矢は村上の事を改めて考えた。哲矢と秀の事も偏見がないし、誰に対しても優しいしたとえ坂本が村上に告白したとしても、優しく返事をしてくれるだろう。 「良いやつだよな、村上は」 「そうだね。誰にでも優しいし」 哲矢の言葉に秀もうなずく。 「アイツは君の気持ちをバカにするやつじゃないけど、恋が叶うかは分からないよ」 「そうですよね。ありがとうごうざいます」 坂本は柔らかく笑った。 店から出て、 「今日は話を聞いてくれて、ありがとうございます」 二人に深くお辞儀をした。 「こういう悩みって、あまり話す人がいなくて…本当にありがとうございました」 「いつでも話聞くから」 「がんばれよ」 「はい」 坂本は二人にお礼を言って帰っていった。 哲矢と秀は家に帰った後、 秀は風呂から上がると、ベッドに座る哲矢に手招きをされ彼の近くにいく。 「あのさ」 秀は哲矢の前に立ち、 「社宅のことなんだけど…」 言いかける秀の手を哲矢はグイッと引き寄せ抱きしめる。 「出ていくなよ」 「え…」 「ここに居ればいいよ。というか、いてくれ」 今までとはちがって、哲矢ははっきりと言った。 「好きだから。ずっといたい」 「いても、いいの?」 「ああ」 「好きになって、いいの?」 「てか、もっと好きになって」 と、哲矢は秀の唇を奪った。 やっといってくれた言葉に、秀は嬉しくなって泣き出した。 それを見てふふっと笑い、 「泣くなよ」 「だって、こんな事言われたの初めてだから…」 今まで他人に好意を向けられた事はあったが、好きになった人には好かれなかった。 秀は泣きながら哲矢の胸に顔を埋める。 哲矢は、もっと秀を可愛がりたいもっと素直に愛したと思っていた。 「お前からは、聞いてないけど」 言われて秀は涙でグシャグシャの顔で、哲矢を真っ直ぐ見つめ、 「好き。好きに決まってる。ずっと好き」 哲矢の首を撫でながら、彼のTシャツを脱がし締まった彼の身体を手で撫で抱きつき、 「抱いて」 「いいの?」 「そのデカいの、突っ込んで」 「バカ」 笑って哲矢は秀の服を脱がせた。 哲矢は段々と赤くなっていく秀の全身をこれ以上ないくらい見回しくまなくキスをしていく。 どこを触っても喘ぐ秀の反応が可愛くて愛おしくて、早く挿れたい。 秀の乳首を舐めながら、彼の後ろに指を挿れていく。 最初から入るとは思っていなかったが、秀は風呂場で準備をしていたようで柔らかくなっている。もう準備していることで哲矢の興奮は更に煽られる。指を動かしながら前立腺を探す。 ネットで調べたが男には気持ち居場所があるらしい。ぐっと奥を触った瞬間、 「あっ!」 今までとは反応が違い 「そこか」 哲矢はそのまま自分のモノを挿れていく。 ぐぐっと奥に挿れられ、秀はビクビクと身体を揺らし始める。 「あぁん、待って待って、大きいっ、あっあっあっ」 (くっそ可愛い声出しやがって‥‥) でもその声をずっと聞いていたい。 全身綺麗ですべすべして、赤くなるとたまらない。 秀は頭がおかしくなるくらい感じて身体の奥まで突かれて、気持ちよさそうに揺れ動く哲矢を見上げ、また涙が出そうになる。 彼の首に腕を回し顔を引き寄せ、またキスをする。 柔らかい哲矢の唇を愛撫するようにキスをして、 「入社した時からずっと好きだった。だから一緒に住めてラッキーだった」 「お前まさか、あのエロいアピールはわざと…?」 「今頃わかったか」 「このっ」 と、グッと奥まで挿れて、動きを早めて抜き差しする。 「あっあっあっ」 秀の足をくいっと広げて、 繋がってる部分をグイグイと押し付けるとさらに秀は喘いで、 「ふあっ、深いぃ、あっあっ」 きゅうきゅうと締め付けてくる。 「ぐっ…もう限界」 秀の喘ぎ声もたまらない。 二人は我慢できずに同時にイッてしまう。 「もう一回したい」 「ん」 言って二人は再び重なりあった。 後日、 「中尾センパイ、村上センパイのタイプって知ってますか?」 「んー…」 休憩室で二人で休憩をしながら、コーヒーを飲んでいる。 言うかどうか考えて、哲矢は素直に、 「あいつは巨乳好きだ」 「あー、それは流石に叶わないなぁ」 本気で悔しそうに項垂れる坂本。 まあ、そういう問題でもない気がするけど。 坂本はハッと顔を上げ、 「でも、胸とお尻って同じ柔らかさなんですよね」 「ブッ!!」 真面目にとんでもないことを発言する坂本に、哲矢はコーヒーを吹き出す。 「けほっ、会社で何を言い出すんだお前は」 「でも、中尾先輩もそう思うでしょ?」 「えー…」 言われて、哲矢は暫く考える。 秀のお尻を掴んだ時の感触を思い出しながら、 「…まあ確かに……あ」 はっとして哲矢が我に返ると、坂本はニコニコしながら、 「ごちそうさまです」 「すみません……」 「まあ、俺だって別に男が好きなわけじゃなかったから、一概には言えないけど」 フォローする哲矢の言葉に、坂本はふふっと笑い、 「ありがとうございます。中尾センパイ」 そんな二人の会話を遮るように、秀と村上が休憩室に集まった。 「おつかれー」 「おお」 入れ違いで哲矢と坂本は休憩室を後にする。 秀はお茶を飲む村上をチラ見し、 「で、聞いてどうだったのさ」 「…んー」 村上は曖昧にな声を出す。 二人はさっきの哲矢と坂本の話を聞いていた。 聞く気はなかったが、たまたま入り口で聞こえてしまった。 村上は確かに偏見はない。 しかし自分に降りかかるとは思っていなかった。 「俺からは…な」 「まあ、そうだよね」 秀は言って飲んでいたカフェオレの缶をゴミ箱に捨てた。 その夜、 坂本が会社を出ると、会社の向かいの縁石に村上が座っていた。 「お疲れ」 坂本は慌てて駆け寄る。 「お、お疲れ様です。どうしたんですか?村上センパイ」 「これから何か用事ある?」 疑問符を浮かべる坂本に、村上は立ち上がり、 「飲み行かね?」 「皆でですか?」 「二人で」 「えっ」 おどろく坂本。村上は頭をクシャクシャと掻き、 「二人で話したことないだろ」 「は、はい。ぜひ!」 嬉しそうに答える坂本を微笑ましく見つめる村上。 歩き出した二人の後ろ姿を見送りながら哲矢は秀に、 「お前、休憩室の話し聞いてたろ」 「んー?何のことかなぁ」 半眼で呟く哲矢の視線を無視する秀。 「帰るぞ」 ため息を付き歩き出す哲矢の腕を掴んで、 「で、どうだった?」 「?何が」 何のことをいっているのか分からないという顔をする哲矢に、 秀はこっそりと耳打ちで、 「胸と同じだった?お尻の感触」 「!!!」 耳打ちをされ、 哲矢の顔がだんだんと赤く染まった。 秀はニコニコと答えを待つ。 こうやっていつも秀のペースに乗せられる。 こいつには敵わない。 ふっと笑い、哲矢は秀の肩に腕を回し、 「今夜もう一回確かめる」 「いいよ」 言って笑いながら二人は家路に着いたのだった。 後日、 哲矢は休憩室で、 ぼーっとコーヒーを持つ手を止める村上を見つけ、 「コーヒー溢れるぞ」 哲矢に言われ村上は、 缶をゴミ箱に投げ捨てる。 でも、何だか上の空の村上を不思議に思い、 彼の隣りに座って、緑茶を飲み、 「どうかしたか?ぼーっとしてるぞ」 「んー」 ベンチにうな垂れる村上。 「中尾」 「んー?」 スマホを見つめながら返事をする哲矢に、 「やっぱり同じだったな」 「?何が」 疑問符を浮かべる哲矢に、村上は真っ直ぐ前を見つめたまま、 「胸とお尻の感触」 …………… 「!!!!!?」 完全に固まる哲矢。一瞬村上が何を言っているのか分からかった。 というか思考が追いつかない。 ただ自分にも覚えがあるので言ってることは理解したが。 信じられないのは、 村上から発された事だったからだった。 「む、村上、お前マジで…?」 「んー」 哲矢は、いつもあっけらかんとしている村上の真面目な表情を久ぶりに見た。 普段何でも茶化してしまう彼の真面目な姿は入社してから数回しか見ていないが、どうやら本気で色々自分なりに悩んでいたようだ。 ただ彼は遊びで相手に手を出すような男じゃない。 「…仲良くなったんだ。坂本くんと」 「付き合ってる」 「え?」 「てか一緒に住んでる」 「えっ!?」 一緒に住んでいるだと…? 「展開早いな」 「驚くところそこ?」 村上は笑いながら言った。 一体いつそんな展開になったのか、 「いつから付き合ってんの」 「何度か飲みに行って、終電なくして酔った優真がうちに泊まった時に、最初は向こうから手を出してきて」 「へえ」 (もう名前で呼んでんのかよ) 「何かいつのまにか…可愛く見えてきて」 「あーそう」 「もうマジで可愛くてさ〜」 急にデレデレとし始める村上を見て、意外に感じる。 こんなデレデレの彼を見るのは出会って初めてだ。 「お前がこんなデレるの初めて見るな」 「俺も実はこんな事初めてでさー。今まで付き合った奴にデレた事一回もないんだけど。何かアイツは違うんだよ〜」 照れながら話す村上を、半ば呆れて見つめ、 「人って変わるもんだな」 「まあ」 頭を掻きながら、若干冷静に戻った村上は、 「でも、お前もそうだろ?」 「ん?」 「今の自分なんて想像できなかったし、相手が違う奴なんて考えられないだろ?」 言われて、哲矢も冷静に、 「そうだな」 妙に納得するのだった。 金曜の夜。 「ああ、二人一緒に住んでんだね」 「聞いてたのかよ」 「今日坂本くんから聞いた」 その夜家で、一緒にご飯を食べつつ哲矢と秀は、村上と坂本の話になった。 「めちゃくちゃ押したって」 「坂本くんて結構、積極的だったんだな」 「そうでもないよ」 「?」 後片付けをしながら、 「同性しか好きになれないってさ、自分の思いが叶うことが奇跡に近いとおもっているから」 「奇跡?」 「そう」 秀は少しだけ悲しげに、 「俺も、坂本くんも男しか好きになれないから。相手が気持ちに答えてくれるなんて奇跡だよ。人のセクシャリティを変えるのは簡単じゃないし」 秀も色々な思いをして生きてきたんだろう。 「でもまあ」 秀は後片付けを終え、哲矢の首に腕を回し、 「そう考えたら俺はラッキーだったけど」 (ラッキーか…) そんな風に思わせたくないと、哲矢は心から思った。 秀を大切にしたい。 哲矢はそっと秀を抱き寄せ、優しく頭を撫でた。 「ラッキーなんかじゃねえよ」 「え」 「ちゃんと、お前に心を奪われた。誰でも良いわけじゃないし、俺は男が好きなんじゃない」 真っ直ぐ秀を見つめ、 「俺は男じゃなくて、秀が好きだ」 初めて名前を呼ばれて、秀の胸が熱くなる。 やばい泣きそう。 秀は哲矢の胸に顔を埋める。 そんな彼の頭を撫で、ぎゅっと抱きしめる。 「泣くなって」 「……ごめん言葉が出てこない」 胸がいっぱいになる。 入社当時想像できただろうか。 こんな幸せな展開が訪れるなんて。 哲矢はそのまま秀を風呂場に連れていき一緒に入ることに。 全身愛撫して、これ以上ないくらい気持ちが伝わるようにベッドで抱き潰した。 翌朝、 土曜日のためゆっくり眠る二人。 昨日抱き潰したせいで秀は深く眠りについていた。 そんな秀の頭を撫でる。 「ん…」 秀は微睡み、ゆっくりと目を覚ました。 「…おはよう」 「おはよう」 哲矢は優しい顔で秀を見つめた。秀は彼から顔を背けて、 「てっ…て、て、哲矢」 恥ずかしがりながら彼の名前を呼んだ。 秀はエロい事は照れること無くしかけるのに、 相手の名前を呼んだりするような普通のことは意外に照れてしまうのだ。 「…お前変な所で照れるよな」 「う、うるさい」 照れ隠しに悪態を吐く秀。それさえ可愛い。 もう何でも可愛いく見える。 哲矢は、ベッドの上で天井を見上げて、 「あのさ」 言葉を選んで、話し始める。 「同居して一年経つよな」 「うん」 「もっと広い部屋に、引っ越さない?」 「…引っ越し?」 「うん」 天井をみながら話す哲矢に、秀は彼の心理を確かめるように、 「…」 「男二人で住むんなら、もっと広い方がいいだろ」 じっと見つめられ、気恥ずかしくなり哲矢は彼を見ずに、 まずい、聞き様によっては束縛彼氏のような風に聞こえるかもと急に考える。 「…まあ、急だったかもなら、少し考えて…」 秀は起き上がり彼の口にチュッとキスをして、 「いいよ」 「ほんと?」 「うん」 嬉しくて秀はベッドの上で、哲矢にくっつく。 「嬉しい」 「ん」 ぎゅっと抱きしめ合う。 もう二度と、手離すのは難しいと改めて思った哲矢だった。 終。

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