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第5話

「じゃあ、お願いします」  音響さんの合図でステージに飛び込む。  綾とは対角線上で交わる位置につく。ギターのイントロから入って、幕がさーっと引かれていく。突然広がる橙色の照明に目を細めてから、俺は通常運転を始める。  さあ。最前列から。  抱ける、抱ける、抱ける、ごめんな、すまん、抱ける、わー、わーー、わ、、、。すいませんでした。  俺は自分のパートをテキトーに踊りながら客席を眺める。ステージに立つ緊張とかはもうどこかに捨ててきた。  うーん。今日は金曜日だからもすこし客いてもいいんだけどなあ。普段のライブと比べてまだ6割ほどしかお客がいない。客の隣との感覚の隙間も目立つ。  サクッと俺たちの最近出た代表曲を踊り終わって、さあ2曲目というところで、リーダーの努《ツトム》くんがマイクを取ってMCを始める。俺らはね、カチューシャ型のマイクを付けてるけど、なぜかうちらのリーダーは手でマイクを持ってパフォーマンスを行う。彼の信条らしい。理由は何度聞いてもはぐらかされてしまってわからないらしいけど。

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