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第1話
『ハロウィンは、これで決まり!』
デカデカと電光掲示板に表示されているのは、血痕付きのTシャツを着ている顔色の悪い若者達だ。
ポロリは久しぶりの外の空気に酔いしれた。
ポロリが娑婆の空気を吸ったのは三日ぶりだ。その間に時は流れで、街はハロウィン一色になっていた。
「娑婆の空気は美味い」
ポロリは腕をぐんと伸ばして深呼吸した。その瞬間。
「公然猥褻で逮捕する!」
ボウフラのように湧いて出た警察官によって、彼の腕には手錠がはめられた。
ポロリはまるで攫われるように、取り調べ室に連れて行かれた。
「アンタ、三日前に公然猥褻で逮捕されたね」
ポロリは今の状況に納得ができなくて眉間に皺を寄せた。
なぜなら、前回は全裸で逮捕された事には納得していた。
しかし、常識を身につけた彼はちゃんとあるものを身につけていた。これなら全裸にならないと信じて疑わなかったのだ。
それなのに、なぜか逮捕されている。
「むむむ?」
ポロリは首を傾けて何が全裸に当たるのか考え直す。
「いや、むむむ。じゃなくて、なんで全裸なの」
警察官は、ポロリのふざけた態度に慣れた様子で聞き返す。
実はこの警察官はポロリとは何度も顔を合わせて、名前と顔を嫌というほど覚えてしまっていた。
その名前は、エロ・キュウリ・ポロリ。何かを意識しているのかしていないのかわからない名前だ。
しかも、超絶イケメン。
「私は全裸などではない!ちゃんとマスクをしているじゃないか!」
ポロリは、タオルによってミイラのようにぐるぐる巻にされて無罪を訴える。
前回は、伝染病の関係で彼はマスクをしていないことを責められたことをちゃんと覚えていた。
そして、言われた通りに上の口をマスクでちゃんと隠したのだ。
警察官は、頭が痛いと言わんばかりに目を閉じた。
前回逮捕した時にポロリが唾を飛ばして叫びだしたので、「マスクをしろ」と思わず言ってしまったことを彼は思い出していた。
「いや、顔は隠れてるけあそこは丸見えだし」
「局部を隠せばいいのか!?」
「まあ、そうなるな。ちゃんとそこは隠してくれ」
とにかく何でもいいから局部を隠してくれと、警察官は思ったようだ。
「でもなぜなんだ!言われた通りにちゃんとやってるのに!なぜ逮捕されるんだ!前はちゃんと脱いだ服を畳んだのに逮捕された!今回はちゃんとマスクしてる!これは陰謀だ!陰謀論だ!」
「うん、陰謀論は置いとこうか」
「全裸を許さないのは陰謀のせいだ!いや、妖怪か悪霊のせいかもしない!」
「そうだね。そうだね。妖怪と悪霊のせいだね」
警察官にポロリは慰められて、全裸を許さない社会が悪い!とずっと泣き喚き続けた。
ポロリは3日ぶりのスメルライスを食べた。
一週間後、ポロリは釈放された。
身元引き受け人は、意外にもまともそうな屈強な紳士だった。
「ヘンクツ・ティンコ!」
「ポロリ!」
二人はお互いの名前を呼ぶなり抱き合った。
そして、事件は起こった。
ポロリはティンコから離れると、自分がいかに理不尽な目に遭ったのか訴えた。
「聞いてくれ!ティンティン!私は上の口をちゃんと隠したのに全裸だと言われて逮捕されたんだ!」
「ああ、可哀想に……、ポロリ」
周囲の白い目など気にせず二人は熱いベーゼを交わした。
もはや、二人はお互いのことしか見えていないようだ。
「ポロリ、僕は君のために下着を買ってあげたい。局部さえ隠していればいいと、警察官は話していたんだろう?」
「ああ、勿論だティンティン!局部さえ隠れていればノープログレムだ!」
ポロリは、厚い胸板をポンと叩いて見せた。
「君の下着はきっと幸せだろうな」
「なぜだい?」
「破れるその日まで、君の局部に触れられるのだから」
「ティンティンならいつでも触ってくれて構わないよ」
と、ポロリは、局部を隠すバスタオルを外そうとした。
「ダメだよ。ポロリ、また逮捕なんてダメだろう?それに、二人きりで見せておくれよ」
「ああ、ティンティン!」
そして、二人はラブホテルで一発決めたのだった。
「はあ、娑婆の空気を吸ってからの一発は最高だな」
「さぁ、行こう、ショッピングモールの801だ!」
ポロリはツーステップでスクランブル交差点を突き進む。
行き先は勿論801だ。
801とは、腐女子の腐女子による腐女子のためのショッピングモールだ。
ここでは、腐女子がルールだ。
つまり、ポロリが全裸で闊歩しても局部をチラ見される事はあっても、悲鳴をあげたり、陰茎を切り落とそうとする女子は一人もいないのだ。
もちろん、そこでは全裸と男同士の性交をガン見される事はあっても咎められる事はない。
陰茎は切り落とされない。
一言で言えば腐女子のパラダイスだ。
「着いたよ。ここだ」
801は、勃起した陰茎のイメージの建物だった。
「あぁ、ティンティン。興奮してきたよ」
ポロリの陰茎がバスタオルを突き破りそうな勢いで勃ち上がる。
801で一発キメるつもりは二人にはもちろんないけれど。
「大丈夫。そのバスタオルが外れても僕は素早く君の局部を隠すよ」
「そのお盆で?」
ティンコはどこからか持ってきたお盆をポロリに見せた。
某芸人が使用しているような丸いお盆だった。
「ああ、このお盆で君の局部を隠すよ……、誰にも見せたりしない。これが、真実の愛なんだ」
「ティンティン。僕は君からの深い愛情を感じているよ」
ティンコは、お盆で顔半分を隠して恥じらうように頬を赤らめた。
そこに……。
「きゃー!!」
絹を切り裂いたかのような悲鳴がした。
二人は大慌てでそこに向かった。
「どうしたんだ!」
ポロリの叫び声がフロアに響いた。
ちなみに、ポロリがたどり着いた場所は801に一店舗しかない下着店だ。
そこに倒れているのは、全身の毛穴から血液を垂れ流している女性だ。
「まだ、息があるぞ早く手当を」
ポロリは言うなり自分の局部を包むバスタオルを外して女性を包み込んだ。
それを見たティンコはすかさずポロリの局部をお盆で隠した。
「どうしてこんな事に……」
ポニーテールの店員が悲痛な声で叫びながら、顔を手で覆った。
「何があったんだい?」
ポロリの質問に、ポニーテールの近くに居たショートボブの店員が説明を始める。
「休憩から戻ってきたら、彼女が倒れていて……」
「ふむ、どうやら彼女たちが第一発見者のようだ。これだけ血を流していたら犯人にも血痕が付いている筈だ」
ポロリは女子店員からの証言で推理を始めた。
女子店員達は戸惑った様子でポロリの方を見る。
その顔にはなぜ、この変態がこの場を取り仕切っているんだ?という疑問も含まれていた。
ポロリは、その表情をいち早く気がついた様子で、アルカイックスマイルを浮かべる。
「僕、こんななりをしているけれどね。実は探偵なんだ」
「えっ!?」
天才は変態なのか、変態は天才なのか、あるいはただの変態なのか、女子店員達はさらに混乱の渦に叩き込まれた。
「僕の推理は外れたことはないよ。だから安心して」
ポロリは厚い胸板をポンと叩いて見せた。
しかし、女子店員達は戸惑うように互いの顔を見合わせる。
「だけど……」
店員達はみな同じ服を着ていた。それもよりによって……。
「そのTシャツは?」
「ハロウィン仕様でみんな血痕Tシャツを着ることになっているんです」
木を隠すのは森。という諺が当てはまるようなこの状況。
しかし、ポロリは不敵に笑ってみせる。
彼には秘策があったのだ!
「ヘンクツ・ティンコ!例のアレを持ってくるんだ!僕が犯人を冴え渡る推理で見つけてあげよう」
ティンコはポロリに言われるまま、例のアレを持ってきた。
それは、どこをどう見ても如何わしいあるものだった。
「こ、これは?」
店員達はかなり食い気味にポロリに問いかける。
「先祖代々から伝わるスケベ椅子さ!」
そう、ポロリはスケベ椅子に座って推理をする探偵だった。
つまり変態だ。
「僕は、この推理力を養うために、ジャングルの奥地でベンガルドラを素手で倒したよ」
ポロリがウインクすると、その神々しさにティンコが鼻血を噴き出した
「じゃあ、始めようか」
ポロリはスケベ椅子に座り、外すために股間を隠すお盆に手をかけた。
「すまない、真実の愛を守れそうにない」
ティンコはそう言って眉を下げた。犯人を捕まえるためにはどうしても股間のお盆が邪魔になる。
股間を隠すことが真実の愛だと言ったティンコは、それが守れないことを気に病んでいた。
「わかってる。君の愛に嘘はない」
ポロリはアルカイックスマイルを浮かべてティンコを励ました。
ティンコの愛はそれだけのために消え去るわけがないとポロリは理解していた。
「ポロリいくよ」
ティンコは覚悟を決めてスケベ椅子の隙間に、手を滑り込ませた。触れる場所はポロリの下の口だ。
ローションで濡れそぼった指でそこに触れると、ヒクリと震えて誘い込む様に肉壁が絡みつく。
「あぁ」
ティンコの指をゆっくりとポロリの下の口が飲み込んでいく。
「あん!」
ティンコの指がある場所に触れるとポロリの身体が強ばり、陰茎が息づき始めた。
剛直は着実に天井に届かんばかりに勃ち上がっていく。
「あぁん!!」
女子店員達は滅多にないイケメンの射精シーンに、釘付けになっている。
彼女達はBLT……。
そう、BLのティンティンに飢えていたのだ。
「あん!あん!」
「ああ、あん!あんあん!あん!」
ポロリはティンコに攻め立てられるままに絶頂を迎えた。
初雪を思わせるような汚れなき精液は、月を射抜かんばかりの恐ろしい飛距離と速度を打ち出し一人の元へ集中的に向かっていく。
そして、ドピュドピュピュ~~ピュルルピュルリラと効果音を立ててその精液は、一人の顔にかかっていた。
つまりアホみたいにぶっ飛んだ顔射だ。
顔射された女子店員は、あまりのことに賢者タイムを迎えたように呆然としていた。
「犯人は君だ!ポニーテールの彼女!」
ポロリは先程絶頂を迎えた事を感じさせない、賢者タイムなど存在しないスパダリの攻めのように立ち上がる。
「私は犯人じゃないわ」
ポニーテールの女子店員は当然のようにそれを否定した。
「いや、君が犯人だ!そもそも、君は女性ではないね」
「なぜそれを!?」
ポロリの指摘に女子店員は驚いたように目を見開く。
「君からは精液の臭いがするんだ」
「ザーメン臭!?」
「わからなかったわ……」
「新鮮なザーメンならタピオカに混ぜて売ったのに!」
「タピオカザーメン浣腸ショーとかどうかしら?」
他の女子店員達がざわめき出す。
「男だからってここで働いてはいけないなんて事ないはずよ?腐男子だって野に咲く花のように生きてるんだから!でも、そんなにザーメン臭いかしら?」
女子店員は慌てた様子で自分の臭いを嗅ぎ始める。
801に冷やかしで来たとしても、男だからといって腐女子は取って食うことはない。
しかし、精液臭いと言われて気にしない人間など、この世にはいないだろう。
「腐女子業界って何かと厳しいらしいね」
顔にかかった精液を拭う女子店員にポロリは問いかけた。
「まあ、色々とありますよ。新しいジャンルは出てますけど、変わらないところは変わりませんし」
女子店員は、思い当たることがあったのか淡々と話し出した。
「男の姿だと何かと困るので女装しています。誰にも言いませんでしたけど」
「男だと何かあるのですか?」
「男ってだけで距離を置かれたり、まあ、何かとあるんですよ」
「男って知られると面倒なんですね」
「ええ、まあ、だから隠してたんです」
「被害者とジャンルで揉めて喧嘩になる事はあったのかい?」
「あったとしても、怪我なんてさせないわ」
そう、腐女子は縄張り意識がとても強い。新規参入者は慣れるまでに時間がかかる。
慣れてからジャブのように確認するジャンル。これが、仲違いのきっかけになることがある。
屈強な攻めが好き。とか、もやしな攻めがいい。とか、どうにかしてリバにしたい。とか、とりあえず陰茎を切断したいとか。色々だ。お互いに理解できない事もある。
そう、腐女子の世界はアナルのように深く闇に包まれているのだ。
「彼女があんな重傷をどうやって負ったのか、僕は不思議で仕方ないんだ」
「そもそも、私が彼女に危害を加えたと、どうやって立証するのですか?」
ポロリは素手でベンガルドラを倒す類い稀なる知能と野生の勘で彼女が犯人だと感じ取っていた。全身から漂う違和感に気がついていたのだ。
彼は腕力だけでトラに勝ったわけではなかったのだ!
「君のTシャツだけ血痕のプリントがおかしい。みんな同じ血痕の柄のTシャツを着ているのに、君だけは明らかに柄が違ってる。それは、調べればわからるはずだ。犯人じゃなきゃ血を被る事なんてないからね」
ポロリの指摘に、女子店員は唇を噛み締めて観念したように笑った。
「あの子、女装子は『総受け以外認めない』って言ったのよ……!」
「でも、信じて欲しいの。私はあんなことになるなんて思いもしなかったのよ」
女装子店員は信じてくれと言わんばかりに涙を浮かべだ。
「全て話してくれますね?」
「はい」
そして、彼女は淡々と被害者とのやりとりを話し始めた。
「私は、女装子リバ至高主義者なんです。だから、あの子とはどうしても話が噛み合わなくて、とうとう、今日……」
「何があったんですか?」
「私の描いた漫画を見せたんです」
「ほう」
ポロリは話を咀嚼するように相槌を打つ。
「内容は……、その、高身長の美形女装子がバーでヤリチンの男を引っ掛けて、男だとバレても「その顔なら、ちんこついつてもイケる」と一発ヤッてそこからズルズルとセフレ関係を続けていく漫画で」
BLあるある展開を彼女は真面目な顔で話す。
自分で漫画を描き上げるという熱意も加わり、周囲は息を呑んで彼女の話に耳を傾ける。
「ある日、ちんこがついてても突っ込めるなら、ちんこを突っ込まれる事もできると女装子に襲われるんです。そこからは、タピオカザーメン浣腸や、タピオカ産卵プレイが始まって」
よくある雌堕ち、よくあるプレイ。しかし、彼女の話す熱意がそれを至高の作品のように周囲には印象付ける。
「なるほど。ちなみにタイトルは?」
「タイトルは『女装子ナースの極太オチンポ注射はチクッと』です」
「極太注射なのにチクッだけで済むんだ」
他の女子店員の指摘を皆が聞かなかったふりをした。もちろんポロリもそうだった。
「それを読んだ時、被害者の表情は?」
「最初は、眉を寄せてました。だけど、チャラ男が雌堕ちしてオチンポ注射をされて、失禁して悦ぶシーンを何度も読み返して、次第に表情が変わっていきました」
「全毛穴から血液が噴射したんですね」
「そうです。まるで『女装子は受けオンリー以外認めない』という考え方の憑き物が落ちるように、最後にはリバ最高!女装子攻め最高!と言って大量に出血して気絶したんです」
女装子店員は話しきると、両手で顔を覆い声を上げて泣き始めた。
「なるほど、加害者と言い切るには少し無理があるようだね」
ポロリは女装子店員の話をまとめてそう呟いた。
「でも、私のせいであんな怪我をしてしまったから罪は償います」
「待ってくれ」
しゃくり上げながらそう言う彼女を止めたのは、ボウフラのように湧いてでて全裸のポロリを逮捕した警察官だった。
「その必要はないよ」
「え?」
「先程、被害者が目を覚ましてね。君は悪くない。と、話していたよ。だけどね、言いたいことがあると」
「何でしょう?」
女装子店員は恨言でも聞かされるのかと思い、怯えた表情で続きの言葉を待つ。
「あの漫画のタイトル。『女装子ナースの極太オチンポ注射はチクッと』よりも『女装子ナースの極太オチンポ浣腸はドロっと』の方がいいと話していたよ」
「ああ、タイトルを考えてくれるなんて……。私、あの子に謝りに行きます。タイトル実はしっくりこなくて、お礼も言わなきゃ」
「どうぞ、こちらへ、あ、商品は全て後から押収します」
女装子店員は警察官に連れられて、お店から去っていった。
「どうやら解決したようだね」
ポロリは晴れやかな表情でそう言った。
しかし、股間は丸出しのままだった。
「事件は解決したね」
ポロリはティンコに安堵した様子で微笑んだ。
「ああ、これで下着が買えるよ」
ポロリ達がここに来たのは、事件解決ではなく別の目的があったからだ。
そう、ポロリの下着を買うために801に来たのだ。
さあ、下着を買おう。二人は顔を上げて店員に声をかけようとする。しかし……。
「あの、申し訳ないのですが……」
店員は申し訳なさそうに口を開く。
下着は全て証拠品として押収されてしまったのだ。
「なんと!?」
二人はあまりの事に言葉を失った。
しばらく落ち込んでいると、ティンコがある事を思いついてポロリにあるものを差し出した。
「ポロリ、これを」
「しかし、これではおさまりが」
ポロリは戸惑いながらそれを手にとる。
入らなくはないだろうが、勃起した時にそれを突き破りそうで不安になっていた。
「大丈夫。局部さえ隠していれば問題ないんだろう?」
ポロリはティンコの言葉に励まされて、股間にマスクを当てた。
「行こうか」
二人は新しい人生の始まりのような晴れ晴れとした笑みを浮かべて801から飛び出した。
そして、その瞬間……。
「公然猥褻で逮捕する!」
ポロリの手首に手錠が嵌められた。
どうやら、ポロリが何かしでかすと警察官は思ったのだろう。待機していたようだ。
しかし、ポロリは納得していなかった。
「局部は隠したじゃないか!」
そう、ポロリは警察官から局部さえ隠していればいい。と言われたからこそ、マスクでそこを隠したのだ。
「他は隠れてないじゃないか!」
「下の口も隠せということなのか!」
上の口も下の口も隠さないといけない世の中に変わってしまったのだな。と、ポロリはしみじみと思ったのだった。
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