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ふたり占め【番外編】はじめてのお酒①
初めてのお酒は藍流 と流風 が買ってきてくれた赤ワイン。お店の人に聞いていいものを買ったらしいけれど、果たして飲みやすいか。そして俺達はお酒を飲めるのか。みんな酒乱でないことを祈ろう。
ワインのラベルを凝視していて気がつく。グラスがない。ワインを買ってくるならそう言ってくれれば先に用意したのに。
「藍流、流風」
「なに?」
「どうしたの?」
部屋着に着替えてきた藍流と流風に声をかけると、ふたりがぱたぱたと駆け寄ってくる。かわいい。
「ワイングラスないよ」
「あるよ」
「え?」
「これ」
流風が箱を差し出すので受け取って開けると綺麗なワイングラスが三脚。
「どうしたの、これ」
「父さんと母さんから、奏 にプレゼントだって」
恭介さんとあやのさんから……。
高校の頃は「恭介おじさん」、「あやのおばさん」と呼んでいたけれど、藍流と流風と一緒に暮らし始めるときに「これからは『おじさん』『おばさん』はやめて、そのまま呼んでね」と言われた。その、受け入れてくれているという気持ちがとても嬉しくて俺は泣いてしまった。
「お礼言わないと」
「ねえ、俺にもかまって」
藍流が俺の服の裾を背後から引っ張る。
「お礼は今度でいいから、俺もかまって」
流風まで俺の服の袖を引っ張るけれど、それを無視してスマホを取り出す。
「よくないよ。すぐ電話しないと」
電話をかけようとしたら背後から伸びてきた手にスマホを取り上げられた。スマートな動作で電源を切られ、そのまま藍流の部屋着のポケットに隠された。
「なにするの」
ちょっと膨れて見せると頬をつつかれる。
「今は俺と流風と奏の時間だからね」
「そう。奏の誕生日が一秒ずつ終わって行っちゃう」
「……」
仕方ないなあ、と藍流に右手、流風に左手を差し出す。
「なに?」
「お手?」
流風が手をのせてくるので、違う、と首を横に振る。
「ふたりのスマホも出して」
「?」
「うん」
藍流と流風もスマホを出して俺の手にのせる。それを俺のポケットに入れて、ふたりの腕にぎゅっと抱きつく。
「ふたりも俺だけ見てね」
ちょっとかわいく言ってみると、ふたりは大きなため息をついた。
「かわいいなあ……」
「俺達の天使……かわいすぎて困る」
天使……藍流の言葉に苦笑してしまう。相変わらず絶好調だ。
「奏ってどうしてこんなにかわいいんだろう。天使としか思えない」
「奇跡の存在だよ……」
藍流と流風はよくわからないけれど盛り上がっているので放っておいて食事をテーブルに並べる。ローストビーフに鯛のマリネ、パエリヤ、きのこのホイル焼き。それと流風がケーキやワインと一緒に買ってきてくれたミートパイ。ボリュームたっぷりなごちそうだ。
ワインを開けて藍流がグラスに注いでくれた。
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