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第10話

あれから数日後。 ゆいのスタジオにやってきた奏多の前にいたのは、前に広告になっていた執事を思わせるようなマルスの格好をした琉斗だった。 「か、かっこいいー!!本当にマルスが出てきたみたいです!!」 「ありがとうございます、ゆいが張り切って作っていましたよ」 「あれ?そういえばゆいさんは?」 周りをキョロキョロ見回したがゆいの姿が見当たらず問いかけた。 「ああ、今回2人だけの方がいいんじゃないか、と言われたんで…俺と2人っきりは嫌ですか?」 しゅんと落ち込んでしまった琉斗の表情にキュンとしてしまったが、すぐに我に帰ると「嫌じゃないよ!」と伝えた。 すると今度は嬉しそうに笑ってきて、奏多の心臓が止まりそうになったが何とか耐えるととりあえず撮影を開始した。 前日、愛佳からカメラの使い方を教えて貰い、ポーズも表情も決まっている琉斗を何枚も納めていった。 「こんな感じでどうかな?」 カメラを持って近寄り見せると、琉斗は顎に手をやって悩み出した。そんな姿に奏多はかっこいいと思いながら見ていると琉斗が口を開いた。 「ちょっとこれだと、右側の余白が多いんでそこ気をつけて撮りましょうか」 「は、はい!じゃあまた何枚かお願いします!」 琉斗から離れて奏多がカメラを構えると琉斗の表情が一気に変わり、マルスがその場にいる様にしか見えなかった。 ドキドキしながら撮影をしていき、何枚か良い写真が出来上がると奏多は嬉しそうに笑った。そんな奏多を見て琉斗も嬉しそうに笑った。 「そしたら次はどうしましょうか」 「じゃあ、スマホで撮影しても良いですか?」 荷物の中からスマホを取り出して見せると琉斗は「いいですよ」と即答してきて、奏多はスマホを構えたが…いきなり腕を掴まれてしまい、抱き寄せられてしまい奏多の顔は一気に真っ赤になってしまった。 「りゅ、りゅ、琉斗さん!?」 「せっかくなんで一緒に写りませんか?」 「いや、でも、俺…コスプレしていないし…!」 「奏多さんと一緒撮影がしたいんです、駄目ですか?」 自分の扱いが分かっている琉斗に奏多は断れず、かなり密着しながらスマホ撮影をすることになった。 まるで主人公の様に扱う琉斗の立ち振る舞いにドキドキしてしまい、表情が上手く作れなく変な顔をしている写真埋まっていった。 「あ、あの、やっぱり琉斗さんだけ撮ってもいいですか?」 「…どうしてですか?」 「変な顔しているから…こんな表情の俺が写っている写真が良くなくて…」 「?可愛いから大丈夫ですよ?」 頬同士が触れ合うくらい密着してきて奏多から女の子の様な悲鳴が聞こえ、すぐに琉斗から離れた。 「そ、そういうのやめてくださいっ!」 「ふふ、じゃあ顔が見えなければ良いですよね?」 琉斗の質問内容にどういう意味か分からなかったが、ゆっくり頷くといきなり抱き締められてしまい、そのまま… キスをされてしまった…。 一瞬何をされたか分からなかったが、柔らかい唇の感触と近くにある琉斗の綺麗な顔で気付くと勢いよく押して離した。 「っ、な、何でキスなんか…そこまでマルスの再現しなくていいんですよ?」 「マルスの再現…?」 奏多の言葉に琉斗は首を傾げて不思議そうに見ていて、奏多も一緒に首を傾げてしまった。 「い、いや、マルスって…主人公に対してスキンシップが凄いじゃん?だから、その再現かと…」 「………俺は…奏多さんが好きだからキスしただけですよ」 琉斗の言葉に一瞬、何言われたのか分からなかった奏多だったが…すぐに告白だと分かると頬から耳まで真っ赤にして驚いてしまった。 そんな奏多を見て琉斗はフッと笑うと、奏多に顔を寄せてまたキスをしてきた。一瞬驚いたが今度はすぐに肩を掴んで離した。 「いや、だから、琉斗さん!?」 「好きです、奏多さん…奏多さんはマルスの俺が好き?」 問いかけに奏多は真面目な表情なり考えだした。 確かに最初に会った時から“最推しのマルス”をやる琉斗にドキドキしていて、でもだんだんマルスではなく“橘琉斗”にドキドキしている自分がいる事もわかっていた。 「奏多さん?」 「た、確かに…琉斗さんのやるマルスが好きなところもあります…でも琉斗さんがマルスみたいな行動を他の人にするのは嫌かな…」 「…それって、好きって事では?」 「待って、まだ恋愛かどうかはわからないから、少し保留させてください、お願いします…」 ゆっくり深々と頭を下げる奏多を見て琉斗はクスッと笑うと「わかりました」と言ってきて、奏多は笑顔で顔を上げた。 するといつの間にか目の前に琉斗の顔があり、またキスされてしまった。 「ん!?りゅ、琉斗さん!?」 「ちゃんと覚えておいてくださいね、俺がこんな事するのは奏多さんだけなんで」 そう言うとまたキスをしてきて、奏多は琉斗をポカポカと軽い力で叩いた。 叩かれながら琉斗の中で、打倒マルスという目標が出来上がってしまったのであった…。 第1部 完

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