仙千代は、佑三の言う通りだと思った。全てが納得できる。 　ここへきて、三年余。脱出したいと、思わない日は無かった。逃げ出したい――その思いを抑える日々。耐え忍ぶだけの日々。 　逃げたい！　どうか佑さんわしをここから連れ出してくれ！ 「わかった！　佑さんのいう通りじゃと、わしも思う。ここから出よう！」 　仙千代が、力強く言い切るのを、佑三は強く頷く。三郎も大きく頷いた。 　三人の思いは同じであった。そして気持ちが高揚するのも同じであった。 「それでじゃ、これからどうしたらよい？　いつ決行するか？」 「今夜じゃ！　早ければ早い方がええと思う」 「確かにそうじゃの。一刻を争う事態じゃからの。で、方策はあるのか？」 「暗くなると見通しは悪くなるが、やはり見咎められんからな。作之助が寝静まるを待ってからの決行がよかろう。そしてきついが、夜通し歩いて、なるべく駿河から遠ざかることじゃ」 　ここ駿河から仙千代の故郷大高城まで、常の旅程なら四日であった。仙千代が三年前、ここに来た時も、四日であった。しかし、此度はことが事だけに、三日で行かねばと佑三は考える。特に駿河を出るまでは強行軍で行くしかないと思っていた。 　懸念は仙千代の足だった。この三年間、義政の命で武将としての鍛錬を、全くしていなかった。いわば、仙千代の足は女のそれと同じであった。 　しかし、佑三はいざとなったら己が背負って行くと思っていた。今までの苦難を思えば、それしき何ということでもない。 「荷はなるだけ持たず、身軽が肝要かと。食料はわしが携行食を持って行くから大丈夫じゃ」 　三人は、旅装に身を固めて、夜半作之助が寝静まるのを待って、ここから脱出すると決める。 「それでは、今宵の決行までひとまず解散じゃの。三郎さん、後はよろしゅう頼みます」 　佑三は、仙千代の準備を三郎に託すのを、三郎も力強く請け負った。三郎にとっても、敬愛する主を、地獄からの解放することになるのだ。必ずや成し遂げると、強い決意を持った。 　佑三は、準備を整えて作之助をはじめ離れ屋の使用人が寝静まるのを待った。息を凝らしてはいるが、気持ちは逸った。 　皆が寝静まり、もう大丈夫だろうと仙千代の部屋にそっと入る。 　仙千代は、三郎と共に旅装を整えて待っていた。佑三は二人を見て大きく頷くと、二人も大きく頷いた。三人には、いよいよここを出る！　という大いなる高揚感に満ちていた。 　佑三を先頭に三人は、足音を忍ばせ離れ屋を出る。仙千代は心臓が波打つのを感じる。それは、佑三と三郎も同じであった。 　皆が寝静まった静粛の中に、三人の心臓の鼓動が響くように感じられた。 　三人は、物音を立てないよう慎重に離れ屋を出た。そして出てからは足早になる。出来るだけ急がねばならなかった。 　佑三は、仙千代の手を握った。しっかりと握り進んで行く。仙千代も、佑三の手を握り必死に歩いた。その後に三郎が続く。 　しばらく歩くと出口にたどり着いた。あらかじめ佑三が調べておいた裏口だった。ここなら夜間は誰もいないだろうと思った通り、人の気配は皆無だった。 　三人はお互いを見回して頷きあった。いよいよここを出る。万感胸に迫る思いだった。