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出逢い1
アイツと出逢ったのは偶然なのか、それとも運命なのか。今考えても、さっぱり理解できない。
店に必要な買い出しを無事に終え、ショッピングモールから店に帰ろうとしているときに、ピアノの音色が、風に乗って耳に聞こえてきた。ほどよく遠い場所から流れてくる、妙に印象に残る独特なメロディに引き寄せられるように、足が自然とそこに向かう。
以前から、駅前の空きスペースに置かれているストリートピアノ。『ご自由にお弾き下さい』と書かれたボードと、赤い絨毯の上によく見かけるアップライトの黒いピアノが置かれていた。
それに向かい合っていたのは、二十代前半と思しき青年で、長い前髪を振り乱しつつ、険しい表情を浮かべながら、見事な音色を奏でる。
なんの曲なのかはわからない。とても明るい曲調なのに、青年の弾くものは表現することのできない儚さと切なさが入り混じり、多くの人の足を止めた。
(こんなふうに、店で眠ってるピアノを弾いてもらえたらな――)
キーの高い右端の鍵盤を撫でるように、優しくポロンと弾き終えたと同時に、左手が不協和音を鳴らした。それにより今まで演奏していた曲を、わざとダメにしたのがわかった。
俺と一緒にオーディエンスが息を飲んで見つめる中、青年は無表情のまま、ピアノを弾き終えた両手を力なく下げて、椅子からゆっくり立ち上がる。
途中までは素晴らしい演奏をしていたというのに、誰ひとりとして、拍手する者がいなかった。
俺はその場に突っ立ったまま、ピアノから遠ざかっていく青年を息をこらしながら見つめる。長い前髪のせいで、どこを見ているのかわからない青年の白いシャツが、やけに目に眩しく映った。
(アイツを黙って、見送るわけにはいかない――)
そんな判断が脳内を駆け巡るのと同時に、青年に素早く駆け寄り、肩をいきなり掴んでやった。女のような華奢な薄い肩をしているのが手のひらに伝わり、掴んだ手の力をぱっと緩めて外す。
「……なんですか?」
振り向きざまに訊ねた青年の顔は、悲壮感に満ち溢れているように見受けられた。
「あ、あのさ、さっきの演奏。すげぇよかったのに、あんな終わり方にしたのは、どうしてなのか気になってさ」
「そんなの、ピアノを弾いてる僕の勝手でしょう。放っておいてください!」
眉間にシワを寄せ、突っかかるような口調で返答されたからこそ、こちらも負けじと大きな声を出す。
「放っとけるわけないだろ! あんなにたくさんの人の足を止める、とてもすばらしい演奏をしていたのにさ。もったいないとは思わないのか?」
俺の言葉を聞いた青年の瞳が、切なげにゆらゆら揺れ動く。引き留めた際に垣間見た悲壮感を表すものではなく、怒りに似た感情がはっきりとそこにあった。
「なにも知らない通りすがりのアナタに、僕のなにがわかるっていうんですかっ!」
垂れ目を吊り上げながら怒鳴られても、肩を竦めつつ笑ってやり過ごす。客商売をしている関係で、いろんな感情をいなすことは得意だった。
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