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想いの変化8

***  僕としては、いまだに女のコの考えることは、さっぱり理解できない。僕のことを好きって言ったクセに、思っていたのとなんか違うと言って、自分から別れを切り出す神経がわからない。  付き合ってる間は僕としても、相手を大事に扱っていたし、冷たいことなんてしたつもりもない。普段は優柔不断だけど、彼女がいるときは男らしく、ずばっと発言したことだってある。 それくらい、僕なりに気を遣った。  それなのに、なんか違うと言って別れた彼女が、ひとりやふたりじゃないという、悲しい現実に打ちひしがれてしまったのはナイショだ。 (もしやこれは女性と付き合わずに、男性と付き合うように、神様が仕向けたことだったりして?)  引きつり笑いをしながら、いつものようにお店でピアノを奏でつつ、カウンター席にいる例のお客様の背中を見た。 昨日のやり取りから、今夜こうして来店しているということは、石崎さんを諦めきれないから現れたとみていいと思う。 たったひとりのお客様のせいで、僕自身のテンションが、こんなにもだだ下がりしているのである。僕以上に石崎さんの心情を考えると、胸が苦しくなってしまった。 「聖哉!」 いつもより早めの声がけに、顔をしっかり上げてカウンターを見た。すると石崎さんは珍しくそこから出てくるのなり、僕の傍に駆け寄って、こそっと耳打ちする。 「今日の休憩のノンアルカクテル、おまえの好きなオレンジベースのものにしてやるからな」 「ありがとうございます。楽しみに待ってますね」 にっこり微笑むと、石崎さんは僕の頭をくちゃくちゃと撫でてから、カウンターに戻って行った。 多分、今の行為は仲良く付き合ってるぞアピールに違いない。こうしてイチャイチャしてるところを見せつけて、お客様の闘志を削ごうという石崎さんの作戦だろう。 (ということは、僕もみずから石崎さんにイチャイチャしたほうがいいということだ) 「イチャイチャって、なにをどうすればそんなふうに見えるんだ? って、ミスった!」 弾き慣れない曲にチャレンジしていたこともあり、思わず一音外してしまった。耳の肥えたお客様ならすぐ気づくミスだろうが、ここではなかなか、そういうお客様にめぐり逢うことは稀だった。 「石崎さんとイチャイチャするタイミングは、次の休憩のときか。カウンター席が空いていたらそこに座り込んで、お客様の目の前で喋るのがいいよなぁ」 ブツブツ呟きつつ、丁寧にピアノを奏でていく。少しでも石崎さんの心が、穏やかになりますようにと。

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