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好きだから、アナタのために3

***  智之さんの自宅に泊まることにもすっかり慣れ、合鍵をもらった今は彼がいなくても、自由に過ごさせてもらった。  昨夜の疲れもあるのか、ぐっすり寝ている智之さんをそのままに、ベッドの脇に落としたシャツを羽織って、キッチンに向かう。喉の乾きを癒すべく、冷蔵庫からミネラルウォーターの入ったペットボトルを手に取った。  握りしめたところから冷たさを感じて、火照った躰を冷やす。そしてキャップを捻り蓋を開け、冷たい水を一気飲み。ペットボトルの半分くらい飲み干し、喉の乾きを潤すと同時に、躰の中に流れ込む水がきっかけで、2度寝しそうな眠気を吹き飛ばす。  今日の仕事の予定を思い出しながら、窓辺に歩みを進めたとき、ローテーブルに放置された書類が目に留まった。書類の傍に封筒があることで、それが手紙だとわかったのだが。 (○○銀行の名前が入った手紙ということは、お金関連についての内容だよな)  封筒の表に印字された文字から推測したそれを手に取り、なんとはなしに書類に目を走らせた。 「これは――」  智之さんがお店を開くために、銀行から借りたお金がそこにプリントされていて、その金額の多さと毎月の支払額に、衝撃を受けた。 「なにやってんだ、智之さん。僕にお給料を払ってる場合じゃないよ、これは……」  智之さんが抱えてる現実を知り、頭がクラクラする。  正直、お店は常に繁盛していない。金曜と土曜日はそれなりに繁盛しているけれど、それ以外はぽつぽつと表現できる客入りだった。 (だからこそ、ちょっとでもいいから利益をあげるために、僕ができることはないだろうか)  書類をもとに戻して顔を上げ、寝室に視線を飛ばす。智之さんの苦労を少しでもいいから、なんとかしたくなった。  愛用している鞄からタブレットを取り出し、ピアノを弾く以外で自分のできることを書き出してみる。  そこから確実に実行できそうなことを見出し、お店で実践すべく、計画を立てたのだった。

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