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城壁の皇帝12

 しばらくすると真田が(ウォン)老人を連れてカジノから戻って来た。どうやら今宵は客の入りが多く、いつもよりも上がるのが遅くなってしまったようだ。  老人は城内を仕切る皇帝を前にしてえらく恐縮していたものの、冰のことについて尋ねると、これまでの経緯を話してくれた。  雪吹冰の両親は彼が生まれる少し前に勤めていた会社を辞めて、この香港に移住してきたとのことだった。なんでも転勤で香港に来たのがきっかけだったそうだが、この地が気に入ったらしく、転勤の期間が終了すると同時に退社し、この香港で小間物を扱う雑貨店を始めたそうだ。  冰が生まれ、決して裕福とは言えないながらも家族三人幸せに暮らしていたらしい。ところが冰が九歳になったばかりの頃、住んでいたアパートの近くで抗争が勃発、それに巻き込まれて両親は一度に命を落としたとのことだった。  この地に身寄りも無く、天涯孤独も同然になった冰を不憫に思い、隣の部屋に住んでよくよく顔見知りだったこともあり、老人が引き取ることにしたのだそうだ。  (イェン)にとって一番驚かされたのは、冰の両親が亡くなった理由だった。抗争に巻き込まれたとのことだが、時期的に考えると、その抗争というのが自分たちファミリーに与する者たちが起こしたものではないかと思ったからだ。実のところファミリーに与する者といっても下っ端も下っ端、周一族が会ったこともない組織末端のチンピラ同士の争いではあったが、割合大きな抗争で銃撃戦にまでなったので、その事件のことは(イェン)もよく覚えていたのだ。

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