0●プロローグ 「近々ペットを飼おうと思ってるんだ」 　犬とか猫とか種類はなんでもいいよ。俺によく懐いてくれるなら。一人暮らしだから、俺が勤務中は一人でお留守番させてしまうけど……大丈夫だよね？　部屋を快適にして、美味しいご飯も準備しておくし、退屈しないようにおもちゃもたくさん用意するし。俺が帰ったときに笑顔でお出迎えしてくれれば他には何にも求めない。夜は絶対同じベッドで寝て、休みの日は可愛い服を着せてお出かけしたいな。 　同僚らしき人に話をするその人は、帰宅ラッシュで混雑している電車の中ではっきりと目立っていた。 　整った顔立ちに姿勢の良い長身。年齢は３０代くらい。身なりがよく、スーツや靴、鞄、腕時計、どれも見るからに高級ブランド品。髪も肌も手入れが行き届き、話している声も澄んでいて素敵だ。彼が一流の男性で、胸をどきどきさせながら彼を盗み見ている青年──ユートにとって、住む世界が違う人なのは明らかだった。 　少しして、彼の話し相手が先に電車を降り、彼は一人になった。発車を待ちながら、退屈そうに駅のホームを眺めている。 （今しかない！　今すぐに話しかけなきゃ！） 　このチャンスを逃してはいけない。いつもの優柔不断が嘘のように、ユートは素早く決断した。飛びつくようにして腕を掴むと、彼は驚いた顔をして振り向いた。 「突然すみません！　あ、あの……さっきのペットの話、僕なんかでもできますか！？」　 　産まれてすぐに捨てられてから、ずっと寂しくていつも貧乏で。それでも『明るく前向きに』をモットーに生きてきた、21才男子、フリーターの夢斗（ユート）。 　家賃滞納で住んでいたアパートから追い出された日、電車で隣に立っていたエリート外科医・綾宮成吾（あやみや　せいご）のぺットになりました。