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クレイグ視点 7

新たに好きなものに加わったゼリーを食べるスミレも、昆虫を観察するスミレも、いやらしく腰を揺らすスミレも、どのスミレもとても可愛くて、輝いている。 スミレが魔力切れで意識を失った時、とてつもない絶望を味わった。何故止めれなかったのか、何故守れなかったのか。 つい最近まで触れることすら出来ずにいたのに。それなのにスミレがいなければ眠ることも食することも、何も出来ない自分の腑抜け具合を笑うことすら出来なかった。 意識を失ってから2日たち、自然に起きると診断されてから自室で急ぎの政務のみ行い、それ以外はずっとスミレについていた。 起きるまでは生きた心地がせず、その瞼が上がったら何を言おうか、言いたいことは沢山あった。自分を大切にして欲しかった。だが、結局4日目にスミレの横でうとうととしていた時に愛おしい人の気配を感じて思わず引き寄せて出てきた言葉は「良かった」という一言だけであった。 思い出した事があると王たちの元へ向かうスミレは、地下へ降りると凛として対応する。 本当は、何度も剣を突き刺しぐちゃぐちゃにしてやりたかった。王は思わず蹴り飛ばしてしまったが、辛うじてまだ息をしている。大切なつがいが見ていないところで治療の指示を出した。スミレの母親の話を聞いた時に、同じように魔獣に食わせようと決めたからだ。 スミレと身も心も結ばれて5日程たち、スミレが今日も侍女たちとタカギとスイレンのところへ足を運ぶのを見送って、数人の兵たちと地下へと降りた。 「ハァ。何でお前まで来るんだ…ライオネル。タカギはどうした。」 「えー、だってスミレ君はユーシの家族兼親友で、スイレンの兄なんだよ?そんなの私の息子みたいなものだよ。親として、しっかり見届けなきゃ…あと、大切なつがいを随分苛めてくれてたみたいだからね?」 くつくつと笑うライオネルの顔は歪んでいる。 タカギも酷い目にあっていただろう。無理矢理召還され、神子にされて、そう思われるように仕向けたのだろうが、使い物にならないと判断されてからは対応も変わっていっただろう。 「自分の身は自分で守れよ?」 「自衛くらいは出来ますー。」 地下の重厚な扉を開ければ少し前にスミレがクリーンしたにも関わらず腐敗した臭いに眉間に皺が寄る。 「お前たちは出ていろ。狙われるぞ。」 無理矢理着いてきた兵たちは俺の言葉に足手まといになるならば、と扉の前で待機すると出ていった。 アガアガと汚い呼吸をする王の前を通り越し、入ってきた扉と反対に位置する檻を開ける。 「人食いの獣が人を食らうのが見たかったんだろう?」 ジリジリと近づく魔獣と呼ばれる異形の獣と、未だに生にしがみつく汚い男。 「ッ、やめろ!やめてくれ!来るなァっ!」 「この子はいい子だね?ちゃんと自分の能力を理解してる。」 俺やライオネルには敵わないのがわかっているから、近づかない。 「あぁ。このままここで飼うか。」 「スミレ君、世話するとか言い出しそうじゃない?」 「…スミレが撫でるのは俺だけで良い。」 「ぶっ!クレイグ、本当に変わったね?私は嬉しいよ。」 ぐちゃ、ボキ、と肉や骨を噛み砕く音が響く。 死肉でも良いのか、王の後は宰相を食い散らかし、そのまま一人だけ檻に入っている魔術師へと向かう。 「…あ、あの、あの子に…申し訳なかったと…伝えて欲しい…わたしが、間違っていたと…」 魔術師には、スミレがもう痛いことをしないと決めたから何もしていなかった。治療をしない代わりに、このまま自然に飢えて死なせてやるつもりで檻に入れていた。 「申し訳ないと、謝罪を伝えろと?」 「ッ、頼む…心から悪かったと思っているんだ…!」 「そうか、わかった。出ろ。」 出ろと言われて、涙を浮かべて礼を延べながらすごすごと出てくる魔術師をライオネルが胡散臭そうに見ている。 「ねえ、まさか謝ったから許しますーじゃないよね?」 鼻で笑い、出てきた魔術師の腕を掴んで魔獣の元へ投げ捨てた。 「あぁぁぁぁ!何故だ やめてくれ…助けて…くれ」 地べたを這って逃げ惑う。 魔獣は二人食って腹が満たされたのか、咥えて投げ、牙をたてて、噴き出した血を舐め、また投げる。 「何か可愛く思えてきた。完全に遊んでるね?甘噛みだけで腕取れてるけど。」 「今更の謝罪に意味はない。スミレの17年は戻らない。胸糞悪いから今すぐ死ね。」 手足がもげて、聞こえているかどうか。 だが、そんなこと関係ないだろう。 あれだけのことを、スミレだけじゃない、大勢の人生をぶっ壊しておいて簡単に謝罪して済まそうとするその姿に憎悪しか浮かばなかった。 「ライオネル、手合わせしろ。」 「私はユーシに癒されるからクレイグはスミレ君にヨシヨシして貰いなよ。」 「今、スミレに会ったら酷く抱いてしまいそうだ。」 「…そんなことしないくせに。でも、まぁ、気持ちはわかるから、少し身体動かして発散してから戻ろうか。」 「クレイグ何かあった?元気ない?」 スミレは優しくて、敏い。 「いや、王たちは皆処分された。もう全員生きてはいない。」 「…え、まだ生きてたの?あの後から?」 「あぁ。」 「そっかあ。クレイグお疲れ様。ありがとう。あ、だからか!ライさんがね?クレイグよしよししてあげてって言ってたの。よしよしさせてくれる?」 死んだことなど気にする素振りも見せずにただ俺のことを心配してくれるスミレが可愛くて、仕方がない。 「はは。いいのか?」 「うん!まずはクレイグをぎゅっとして頭なでなでさせて?その後は狼さんのクレイグをブラッシングしたい。」 可愛い提案に、ソファーに座るスミレの腹に頭を埋めた。途端に髪を撫でるしなやかな手。 「スミレの故郷の調べはついた。村はほぼ壊滅状態だったが、当時の村人も探し出せるかもしれない。スミレは、本当の名前を知りたいか?」 一瞬、撫でる手が止まった。 「うーん…今はね、あんまり気にならないの。タカギから貰ったスミレって名前に慣れちゃったし、皆からスミレって呼ばれるの嬉しい。…でも、」 「でも?」 「スミレとかスイレンって名前が花の名前っていうように由来とか、意味とかそういうのは知りたいなあって思う…」 「そうか。では、俺の王である任期が終わったら、一緒にスミレの本当の名前を探しに行かないか?見つからないかも知れないが、旅だと思って行けば落胆も少ない。」 これはずっと考えていた。沢山の事を我慢してきたスミレに外の世界を見せてやりたい。 「旅!?行きたい!僕、いっぱい勉強して、外にでても恥ずかしくないようになるね!」 「どんなスミレも可愛いが、通貨や物価などは覚えて、どこで何をするか決めて行こう。…だが、あと数年待っていてくれるか?ひとりや俺以外の者とは行って欲しくない。」 そう弱気になって告げれば珍しくスミレの方から口づけが送られる。 「ん、僕、クレイグがいないと不安だよ。クレイグとだから行きたい。昔の名前を知るより、旅が楽しみ。昔の名前より、スミレって名前が好き。だけど、おかーさんの事は思い出したい。一緒におかーさんの思い出探してくれる?」 「あぁ。喜んで。」 本当に、この可愛いくて優しいつがいに出会えたことを誰でも良いから感謝したい。 早く助け出せなかった分、これから沢山の幸せを感じて欲しい。 「スミレ、好きだ。ずっと傍に居てくれ。」 「ふふ。毎日言われてるし毎日お返事してるけど、僕も大好き。ずっと傍にいてね?」

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