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第1話
ある生徒曰く、「適度に適当で好き。親しみやすいし」と。
またある生徒曰く、「授業は分かりやすいけど、あの気だるそうな雰囲気が無理。顎の髭も剃って欲しい」と。
そしてある学年主任曰く、「貴方がきちんとしてくれないと、示しがつかなくて困ります。生徒にも舐められていますし、もっと厳しく指導にあたってください!」と……。
……殆ど悪口じゃないか?
別に、強い意思を持って教師になろうと思った訳ではない。
進路に悩んでいた時期に、周りの友人達にせがまれて勉強を教えていたところ、「お前って教えるの上手いよな。教師とか向いてそう」なんて口々に囃し立てられて、確かに自分がテキパキとオフィスで働く姿も想像できなかったし、まあそういう選択肢もあるかもな……と教育学部のある大学へと進学した。
そのまま、特に他のやりたいことも出てこないまま順調に教育課程を修めて、無事に就職を果たして今に至る。
正直な話、大変なことの方が多いし、生半可な気持ちで教師なんて目指すんじゃなかったなとは思いつつも、やはりこの仕事が向いているのかもなと思う事も多くて、今のところ転職は考えていない。
この高校には三年前に赴任してきて、今年二学年の担任を任された、御年三十歳の独り身……。
周りが続々と結婚していくなか、毎日の業務に追われてそれどころではないのが悲しい現実だ。
部活などに関連する時間外労働の取り締まりが厳しくなって、以前よりは格段にやることが減ったが、それでも中々時間はとれない。
毎日コンビニ飯かスーパーの値引き惣菜、もしくはオーバーイーツで配達を頼む日々。そろそろ真面目に自炊しないと、健康診断の数値が上限に引っ掛かかるかもしれない。
頼む、痛風……まだ来ないでくれ……! 上がるな血糖値……上がるな血圧……。
そう願いながらも俺は、きっと今日も今日とてコンビニへと足を運ぶのだろう。
ああ、せめてビールを牛乳に変えてみようか……。いや、無理だな。もうビールなしで生きられる気がしない。それに、牛乳って苦手なんだよな……。よく昔は牛乳で飯食えていたもんだ。
「先生」
「うーん……ヨーグルトならギリ……」
「先生!」
「……ん?」
いつのまにか目の前に立っていたのは、学級委員の白水琉真 だった。
いかにも真面目な学級委員といった出で立ちで、これなら厳しい学年主任の服装頭髪チェックだって一発OKだろう。あの人、自分の目周りの化粧は濃いくせに、人には厳しいんだよな……。
白水は、綺麗なサラサラの黒髪をしている。
眼鏡はスクエア型で、細い黒のハーフリムが洗練された凛々しい印象だ。
その眼鏡の下に隠れた瞳は意外とパッチリとした二重で、長い睫毛をしていた。それはもう、睫毛が眼鏡のレンズに当たってしまわないか心配になる程に。
鼻筋もすっと通っていて、人中は短く、正に理想的な鼻。唇は小さくて、白い肌の中でそこだけが綺麗に赤く色づいていた。更にはシャープな輪郭と――。
「……先生、俺のこと見えてます?」
「あ、すまん。見えてる見えてる。見え過ぎて見惚れてた」
「冗談は止めてください……」
あれ……冗談じゃないんだけどな。
実際、白水はかなり綺麗な子供だ。クラスの中心人物のような目立つ華やかさじゃないからか、クラスメイト達はそんなに騒ぎ立てていないようだが。
「それで、どうした? 学級日誌の提出か」
「はい。あと、それだけじゃなくて……」
日直だったらしい白水から学級日誌を受け取る。
不意に触れた指に少しドギマキしながらも、動揺を悟られぬよう日誌を開けば、彼らしい整然とした文字列が綺麗に並んでいた。
関心をしながらそれを目で追っていると、いつもハッキリと発言する白水が、らしくもなくモゴモゴと口籠る。その違和感に再び視線を白水へと戻した。
「……どうした。此処じゃ話しづらいことなら、進路相談室でも行くか? この時期はまだ使う人も少ないし、多分空いてるだろ」
「ええと、じゃあ……はい。お願いします」
「はいよ」
学級日誌を机に置き、職員用の鍵保管庫の扉を開けた。いくつも並ぶ鍵の中から『進路相談室』というネームタグの付いた鍵を取る。
鍵とネームタグを繋ぐ輪っかの部分に指を引っ掛けてクルクル回しながら、白水に「行くぞー」と声を掛けると、出入り口側に座っていた学年主任に何故か睨みつけられた。
「えっ、何か睨まれてる……」
「鍵をクルクル回してるからじゃないですか」
「うそ、それだけで?」
驚いて白水の顔を見れば、呆れたように溜息をつかれた。細かい人間同士、気になる所が似るのだろうか。
「そんな細かい所ばっかり気にしてたら疲れるぞ」
「先生は気にしなさすぎです」
「はーい、すみませーん」
そうして他愛のないことを話ながら階段を上って、三階にある進路指導室まで辿り着く。
正直この歳になると、三階まで移動するならエレベーターかエスカレーターが欲しいなと思う。流石に情けないので、なんでもない風を装いながら鍵を開けて先に中へと入った。
「ほれ、入りな」と白水に入室を促しながら、窓を開けて換気でもしようと、カーテンへと手を伸ばすと、「待って」と慌てたような白水の声。
俯く白水の手によって、カシャンと扉の鍵が閉められた。
「おいこら、白水。鍵は開けておいてくれないと、俺が怒られる」
「駄目です」
「白水……?」
未だ扉を背に動かない白水は、俯いたままで悩ましく眉間に皺を寄せている。締め切ったカーテンのせいで薄暗く、埃っぽい匂いの筈なのに、何故か甘いミルクのような香りが鼻を掠め、白水の様子がやけに鮮明に見えた。
「どうした、お前……」
今まで見たことのあるAVに、こんなシチュエーションがあったかもしれないが、教師になってから学生ものはめっきり見なくなったので、あまりよく覚えていない。
それにしたって、ありえない。相手はあの白水だぞ。学級委員で、真面目で、常に清廉な雰囲気を纏う、あの白水。そもそも俺は女にしか興奮しないっていうのに。
……ゴクリと飲み込んだ唾の音が、やけに大きく響いた気がした。
「先生、あの、俺……」
泣きそうに瞳を潤ませて、俺に近づきながらワイシャツのボタンを上から一つずつ外していく白水。
いつでも一番上まできっちりと閉められている白水のワイシャツが徐々にはだけていく。覗いた青白い肌と浮き出す鎖骨から目が離せない。
更にボタンが外されて、優等生らしくワイシャツの下に着ていたらしいアンダーに、内心がっかりして、それに動揺する。
俺、今なにを期待したんだ……。コイツは生徒だぞ? 男だぞ? そのまま晒される素肌を、現れる胸を期待したっていうのか。胸っていったって、男なんだから真っ平なんだぞ。それなのに、俺は……。
「先生……」
いつの間にか詰められていた距離。
もうあと一歩、白水が近づいたら触れ合ってしまう距離。
十センチほど下から白水が俺を見上げてきて、思わず距離をとろうとしたが、その背がカーテン越しに硬い窓に触れた。行き止まりだ。ふわりと舞ったハウスダストですらも、こいつの魅力を底上げしてしまう。
アンダーが捲くし上げられて、心の何処かで期待していたその白い柔肌が、するすると露わになっていく。
「おい、だめだろ……白水……」
口ではそう止めるくせに、身体は一向に動かない。俺の視線を感じてか、白水の手が迷うように微かに震えた。あともう少しなのに。もう少しで――。
「あの、俺、やっぱり……」
そう言って下げようとした手を、気付けば掴んで止めていた。
「えっ!? あ、ちょっと、先生っ」
白水の細い手首ごと上に持ち上げると、容易くそれは晒された。
「……え?」
「っ……!」
見えたのは胸の突起ではない。
「絆創膏……?」
拍子抜けしたような、肩透かしを食らったような……。一気に緊張から解放されて、どっと疲れが押し寄せた。
「ばっ……お前、びっくりさせんなよ……! 何かと思った……つか、襲われるかとも思ったわ!」
「なっ!? そ、そんな破廉恥なことしませんよ! 失礼な!」
「破廉恥ってお前……。まあいいや。それで、なに、どうしたの? 乳首怪我した? あ、あれか、剃刀で乳首削いじゃったってやつ! なにお前、両乳首いっちゃったの? 左右に一本ずつ剃刀持ってたん? そりゃ無理だってー」
ケラケラと笑いながら、安心感からか妙に饒舌になってしまう。しょうがないだろう、俺は危うく淫行教師になるところだったのだ。間一髪、危機一髪、兎に角その危険は去ったらしい。
「ち、違います! 俺、あの……母乳が、出るようになっちゃって……」
「ぼ、にゅう……?」
「母乳。……あ、母親じゃないから母乳じゃないのか……?」
いや、気にするところそこじゃないだろう。
それにしても、改めて見るとこの捲り上げられた服と、両胸に絆創膏を貼った恥ずかし気な男子高校生が見上げてくる絵面って……ちょっとエロいのでは?
「いやいやいや」
「本当なんです!」
別にそこを否定した訳ではないのだが、白水は事実を主張しながら、より胸をこちらへと突き出してきた。よくよく見てみると、確かに絆創膏のガーゼの中央が、何かを吸ったように色が変わっている。
「へぇー、これ母乳なの?」
「あッ!」
特に何も考えず、何の気なしに絆創膏に触れて、その変色部分のガーゼを撫でていた。それに嬌声のような声を漏らし、身体をビクリと震わせた白水。
「あ、ごめん」
「ち……ちがくて……! ごめんなさい、俺」
頬を赤く染め上げながら、戸惑ったように俺を見上げてくる。その様子に、自分の中で未知の感情が湧き上がる。
「なるほどね。白水はこれで悩んでたわけだ」
「はい……。あの、手、っ……!」
絆創膏越しに、乳輪ごと摘まむように柔くふにふにと揉んでみれば、白水が自分の口に手をあてて、声を堪える仕草をみせた。
それにまた、ゾクゾクとした何かが背中を駆け上がっていく。駄目だ。ここで止めないと。本当に淫行教師になってしまう……!
それなのに、じわりと染みを広げた絆創膏のガーゼから目が離せない。
頭の中で引き返せとけたたましいアラームが鳴っているのに、ついに絆創膏から滴ってきた乳液に、全ての思考が乱される。
「うわ、すげえ。ほら白水、溢れてきちゃってる」
ぎゅうっと指先に力を込めると、すっかり乳でふやけた絆創膏の隙間から、更に白い液体がツウッと垂れてきた。
恥ずかしいのか目を強く瞑ってしまった白水の、その真面目な様子と、顔から下の淫猥な様子のギャップにクラクラする。加虐趣味などなかったのに、どうしようもなくいじめたくなってしまう。
「この絆創膏、剥がしていい?」
カリカリと爪をたてて絆創膏越しに胸の突起を引っ搔くと、白水はふるふると首を横に振った。
「ッあ、いやだっ…、ダメです……っ!」
「なんで? これのこと相談したかったんじゃないの? 患部診ないと何も分かんないよ」
「で、でも……っや、ぁ…! それ、いやだ、ぁッ!」
絆創膏の隙間、ガーゼ辺りは元々シールが弱い。垂れていた乳液のせいもあって、指先くらいなら容易く入ってしまった。
にゅるにゅるとその隙間に指先を入れたり出したりしながら、白水の今にも泣きだしそうな赤い顔と、指先に触れる突起の変化を楽しんだ。
抽出する度に掠める突起は次第に硬くしこり、本当に爪の先端が触れるか触れないか程度しか接触していないのに、ツンツンと突く度に絆創膏のガーゼを押し上げる。
今も尚出続けている白い分泌物は、スラックスのウエスト部分に染みを作っていた。
「ほら、乳首窮屈そうだよ。出してあげた方が良いんじゃない?」
「や、ぁッ…! だって、だしたら、せんせ、ぇ…さわる……」
「出さなくても触るんだから、一緒じゃないか?」
すっかり勃ち上がった乳頭の下の縁を、なぞる様に左右に動かす。肌を濡らしている乳液が濡れ広がる。口を押さえても堪えきれなかったらしい可愛らしい喘ぎ声が零れた。そんな自分の恥ずかしい声に、白水の顔は更に赤みを増す。『じゃあ、どうすればいいの……?』とでもいうように、困った表情で見上げられて、思わず下半身がズクリと重くなった。なんで俺に困らされているのに、まだ俺に助けを求めようとするんだよ……。信頼しすぎだろ。
「ほら、ふやけて痒くなるぞ」
「ぅ、ん……」
許すように俯かれて、口を塞いでいない方の白水の手が俺のワイシャツを握った。
俺は絆創膏を剥がすべく、もう一度隙間に指を差し込む。もはや端っこから剥がすよりも、既に剥がれている中心部から剥がした方が早いからだ。
先程とは反対側に、爪の方を肌に向けた。指の腹に湿ったガーゼが触れる。
今までよりも深く指を挿入したせいか、指先が強く乳首を引っ掛けた。
「ッや、ああ……!、ンぅ…」
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