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番外編

                Comfort Zone  感動の再会は、夕食が過ぎても冷める事はなかった、  蒼真がこんなに明るいのを本当に喜んでくれたさらは、彼女自身日本に住んでいたことあるという腕で、圭吾の好きな日本食を作ってくれた。  それを喜んで頂いて、今は食後の一杯の時間。 「蒼真はね、圭吾(あなた)が亡くなったって聞かされてからは、それはもう人が変わっちゃってね、いい子だったのよ」  今だから言える冗談だが、実際の話、『ご飯よ』と言われれば素直にすぐ来るし、『お風呂に入ったら?』といえばうん…といってすぐに入るような生活だったのだ。  その他の時間はずっと、あの窓辺に座っていたのだが。 「何言ってんだよサラ!」  いい子のフレーズに慣れていないのか、蒼真の頬が染まる。 「だってほんとのことだもの。あなたもっとやんちゃじゃない、本来は」 「ヤンチャって!」 「でもこれでまはやんちゃに戻っちゃいそうだけど、高梨さんがいれば大丈夫ね」  圭吾を見てサラはほほえむ。   「面倒を押し付けられるからだろ」  姉弟喧嘩のような言い合いに、トシヤが苦笑した。 「トシヤ!面倒ってなんだよ!」 「それはそうよね〜面倒ごとはごめんだもの」 「サラまで!」  一度トシヤに来るかと思った蒼真の騒ぎは、ふたたびサラの方へ戻り、騒いでは軽くいなされている蒼真に圭吾もつられて苦笑してしまう。 「でも本当に良かったよ。あんな蒼真はもう見たくない…」  サラとギャーギャーやり合っている蒼真を見て、トシヤが呟いた。 「ご迷惑をおかけいたしました…」  圭吾は神妙に頭を下げた。 「いや、あんたのせいじゃないし、そう言う意味でもないんだけどさ…そんだけ蒼真の中のあんたが大きいってことだよ。大事にしてやってくれ」 「はい…」  トシヤの背景として翔が言っていた『顔が効く』と言うのは話を聞いてみたら、シドニー近辺の暴走族のトップ3の1人だという。  トシヤは圭吾より3歳年上なだけであるが、圭吾もいい加減年齢よりは落ち着いているが、人生の場数の分だけトシヤの言葉には重みがあった。一言一言に軽くは返事ができない迫力も備えている。 「しかし、サラが言うように蒼真(やつ)はやんちゃではあったけどいつもどこか張り詰めていて、見てるこっちが苦しかったよ。日本で何があったかは俺たち聞かないけど、今はそれが無くなって…なんて言うか…『ただの』やんちゃ坊主になったな」 ーなんていっていいかわかんねえけどさーと笑うトシヤに、圭吾も笑い返すが、確かに今日久しぶりに会ってからの蒼真は、以前と違ってなんていうかこう… 「生意気さが一枚剥けたと言うか、ギスギスしたところが無くなったっていうか…安心したんでしょうね」 「そうそう、結構キツかったよな」 「ええ」  そう言う感じだった。そうして2人して笑い合ってると、 「何2人してコソコソ笑ってんの」  蒼真が言いながら、圭吾の足元に座り込んできた。 「お前の悪口言ってたんだよ」  と、トシヤが蒼真の口にアーモンドのチョコを突っ込んだ。それを唇に挟みながら 「ほんほは?へいほ」  と圭吾を見上げるが、圭吾はそのチョコを外して 「食ってからしゃべるか外してから喋れ」  そして自分の唇に咥えた。 「本当に悪口言ってた?」  蒼真の言葉に頷いて 「ほんほは」   と応えると 「圭吾も外してから喋れ!」  と立ち上がって、圭吾の口元から口でチョコを奪い返すという暴挙に出た。 「っつ」  そして次の瞬間には、圭吾が口を押さえる光景が…。 「悪口のお礼だ」  ベッと舌を出して、蒼真はアーモンドをカリッと噛み砕いた。 「どうした?」  とトシヤが問うと 「唇を噛まれた…」  と、呻いている。 「キャハハッ!蒼真やるー!さすがやんちゃ坊主」 「サラ、酔ってんな」  ケラケラ笑うサラに、今度はトシヤが眉を寄せた。  なんだかドタバタしてきた様相だが、当事者の蒼真は1人離れてしれっとビールを飲んでいた。 「部屋に風呂ついてるから勝手に使ってくれ。蒼真と一緒の部屋でいいんだろ?」  そう言うトシヤにーはい、お世話になりますーと礼をして、圭吾は蒼真に連れられて部屋へやってきた。 「やーっと落ち着いたな」  こっちのセリフだ、と圭吾が言いたくなりそうなことを言って、蒼真はベッドへ飛び込む。 「シャワーを使わせてもらうが、先でいいか?」  ベッドに転がる蒼真に一応聞いて、圭吾はタオルを手にした。 「入るき満々じゃん。いいよ、お先にどうぞ」  手をヒラヒラと振って、行ってらっしゃいと見送る蒼真は、身体を回転させて、ベッドへうつ伏せになる。  そしてジーッと圭吾が歩いて行った方をみつめていた。  トシヤの家は、シドニーから車で1時間ほどの郊外にあって、周りが最低限の整備しかされていない自然保護区の端っこにあった。  レンタルした車で来たから、砂に塗れることはなかったが、それでも少し気になっていて、先にシャワーを浴びたかった。  シャワーをぬるめにして頭からかぶる。  上から流れる水を見ながら、圭吾は今漸く蒼真と再開した実感を感じていた。  長かったのだ。たった8ヶ月…だが何年にも感じる長さだった。今日まで一体何年かかったんだ…という魔法にかかったような感じだ。  全身がとりあえず流されたのを確認して、湯温を上げたところに 「使い方、解る?」  と蒼真の声。声の方を向くと、既に服を全部脱ぎ捨てた蒼真が立っていた。 「解ると思うが、それだとお前が風邪をひきそうだからな。細かいところがわからないかも知れない」  と言って蒼真に手を伸ばした。 「すごい傷だな…」  ボディシャンプーの泡をそうっとそうっと伸ばしながら、傷に触れる。 「もう痛くはないから、そんな怖そうにしなくても平気だぞ」  傷に遠慮がちな蒼真に圭吾は笑った。 「カマクラの翔の知り合いの医者って、カーシーのとこ?」 「ああ、お前の話にも少し出ていたから名前くらいは覚えていた」  蒼真は圭吾の金髪をカーシーに重ね、優しい顔を思い出していた。 「カーシーは、MBL(ラボ)ではハワードに並ぶほどの腕を持つ優秀な外科医だったんだ。だけどハワードのあの実験にかなり反発してたらしくて、俺たちがあそこを出てすぐに、MBLを出たみたい。何度か訪ねて聞いたんだ。でも、実験が実験だっただろ?だからカーシーには自宅周辺からネットの中まで、ハワードの監視がすごく付いたみたいなんだけど、カーシーはそんなこと言いふらすやつでもなかったからね…」 「それで、カマクラで開業医を始めたんだな」 「うん。…で、カーシーはこの傷なんて?」 「人工スキンで跡形もなくなる、とは言ってくれたけれどな」  蒼真はホッとした。カーシーほどの名医が治せない傷を圭吾に残してしまったと思いたくなかった。  蒼真はお湯を流して、ケロイド状になったその傷に頬を付けた。 「いつか、俺が治してやるからな…」  圭吾はそんな蒼真を背中から前に来させて、 「何をそんな感傷的になってるんだ?女じゃないから傷の一つや二つ俺は気にしない。それより、久しぶりに会って…他にすることあるだろ?」  ん?と両頬を挟んで言われて蒼真も苦々しくも微笑む。  圭吾は軽いキスをして蒼真を抱きしめた。  バスローブをきた圭吾がベッドに座っている。  圭吾よりも少しだけ遅く上がってきた蒼真は、腰にタオルを一枚巻いただけの姿で圭吾の前にたった。 「ちょっとぬるいけど、飲む?」  とビール瓶をちょいっと上げて、首を傾げる。 「ああ、頂こう」  と手を伸ばしたが、蒼真はそれをそっとよけてー飲ませてやるー と圭吾の膝の上にまたがりビールを口に含むと圭吾に口移しをした。  圭吾の喉が上下すると、蒼真は満足そうな顔を浮かべる。 「もっと…飲むか?」  圭吾は黙って首を振ると、蒼真の手から瓶を取り上げベッドサイドのテーブルへ置いた。  そして腰を引き寄せると 「そんなに、いじめるな…」  言いながら、唇を重ねた。  ひとしきり唇だけを味わうキスを交わし、離れると、蒼真は目線を圭吾の唇に落とし 「いじめてるつもりはない…んだけど…」  その間も背中や、既に剥ぎ取られたタオルの下の膨らみ等を撫でられて、それに酔いながら言う。 「けど…?」  圭吾の唇は、蒼真の耳の後や首筋やらを這い、手の動きと相まって蒼真を翻弄していた。  意地悪なのはどちらかと言えば… 「ん…どうしていいか…」 ーわかんなくなっちゃった…ーと圭吾をそっと引き寄せて抱きつく。 「お互い長い間…触れ合えなかったからな…」  とそう言って、圭吾は蒼真にキスをした。  舌を絡め、深く唇を貪り、そして息を交換するような熱いキスをした。 「すぐに思い出す…」  圭吾は蒼真を抱き上げて、ベッドへそっと横たえた。  足を手繰られて、蒼真の身体が反応する。  高く上げられた足は、その内側に舌を這わせられ、何度も何度も反応を繰り返す。  一度圭吾が触れた中心は、それ以降放置されているのだ。 「け…ご…はぁ…あぁイかせ…んぅ」  足を舐め下ろしてきた圭吾の舌は、決定的なところには触れずに足の付け根やその周辺をゆっくりと徘徊している。 「ね…もう…たの…むから…あぁ…」  首を振って、そこへの刺激を望むように蒼真の腰が揺れていた。  その光景は圭吾にとっても扇情的で、何ヶ月かは覚えていないが、離れていた期間の長さを思い知らされる自分自身の限界。 ー仕方ない…かー  圭吾は抱えていた蒼真の足を下ろし、腰を両脇から掴んでゆっくりと蒼真の中へと入って行った。 「んっ…あぁあ…あ……」  期待とは違った快感が押し寄せて、蒼真は戸惑ったがなんだか安心感が広がった。  ずっと疑っていたわけではない。さっきまで触れてたし、食事もしたし、チョコも取り返したし…でも今の一瞬で、蒼真は圭吾の帰還を実感した。 「あっあっああっ…んっあぁ」  蒼真の足を再び肩にかけて、圭吾は蒼真を揺らしながら自身を蒼真に打ち付ける。  とにかく一度感じ合わなければ…そう言う思いがあった。  蒼真の手が両脇のシーツを握りしめている、唇を舐め、時に唇を噛みながら喘ぐ蒼真が圭吾には堪らない。 「ああっあ…んっ…」  蒼真の身体を深く折りまげてキスをする。それを蒼真は待っていたかのように首にしがみつき、折られた苦しさよりも唇を合わせる快感に身を寄せる。  その間にも圭吾は蒼真を苛み続け、そして仕上げとばかりに自分との間で張り詰めていた蒼真の中心に手を添えた。 「んんっぁっああ」  二つの快感に蒼真は唇を離し、喉を大きくのけぞらせる。そのラインに舌を見惚れながら、圭吾は蒼真の足を下ろし、蒼真へ刺激を与えることに専念をする。勿論『蒼真』に添えられた手もそのままだ。 「けい…ご…あ…もぅ…あっあっああっだっだめだ…も…ああっ…」  蒼真は激しく痙攣し、圭吾の手の中で弾けた。圭吾はイきついた蒼真を愛おしく見つめながら、自らの腰の動きを速め、そして蒼真の中へと自分を解放した。 「が…まんが…はぁ…きかない…」  荒い息を吐きながら。余裕のなかった自分を蒼真は笑う。 「お互いな…」  蒼真が出したものを指で掬って舐めながら言う圭吾に、 「余裕あるじゃん…」  と ティッシュを数枚投げて悔しそう。 「まあ、仕方ないだろうな…。こんなに感じあう奴と何ヶ月も離れて居たんだから…」  蒼真が起き上がって圭吾の頬に手を当てる。 「まぁ…これからと言うことで…」  蒼真は息も治らないうちにそう言って笑うと、拭うために座っていた圭吾の足の付け根に顔を落とした。 「そっ…」  一瞬驚いた後、自身をつつむ滑った感覚に息を詰める。  吸い上げる音や蒼真が息を継ぐ吐息、そして追い上げてくる快感に、圭吾は頭が痺れるようだ。  しかしやられっぱなしは性に合わない…とベッドの上で圭吾を苛んでいる蒼真のバックに指を差し込み緩く出し入れを始めた。 「っ!んっっ」  思わず口を離し、いきなり来た切ない感覚に蒼真は圭吾自身に頬を寄せていた。 「もういい…蒼真…」  圭吾は蒼真を起こし体勢を変え、四つに這わせる。腰は圭吾に向けるようにして… 「なに…」  圭吾から離されて不満そうな蒼真だったが次の瞬間に甘い声を洩らさざるをえなかった。  圭吾の舌がバックに入り込んでいる。  指でももちろん性器でもない、舌の感覚は蒼真は初めてだった。  右手はふたたび蒼真自身を擦り上げ、バックへ舌を這わせる圭吾に、頭をシーツへとおしつけ、咽び泣くような…細い声を上げ続ける。 「っ…ぁ…ぁぁ…んぅ…はぁ…」  味わったことのない感覚に蒼真はどうしていいかわからず、腰を揺らし、少しの羞恥心にシーツを顔に寄せてしまった。  舌を離してその光景をみた圭吾は、笑って蒼真の双丘を撫で上げ、そして 「蒼真……来い」  と、蒼真の上半身を後むきに起き上がらせ、腰を掴みそのまま緊張し切った自分自身の上へと落とし込んでいく。 「うっ…あぁあ」  圭吾の肩に頭を預け、その侵入に身をすくめた。  自分の体重で圭吾を受け止めた蒼真は、衝撃に身体をこわばらせていたがほんの少しだけ息を吐いたら、そこから深くため息を出す。 「そう…息を吐いて力を抜いて…上手だ…」  蒼真の腰を持って揺らしながら、圭吾は耳元で囁いた。 「きゅ…うに、んっ…ひどい…よ」  うなじに感じる圭吾の舌に酔いながら、うっとりと蒼真は言う。 「欲しかったんだろ?」 「そりゃあ…」  圭吾に揺らされる腰の動きと、深く穿たれた圭吾自身が身体の中からじわじわと得体の知れない感覚をもたらしてくる。 「………はぁ…」  漸く慣れた感覚に、蒼真は気持ちの良さそうな息を吐き、圭吾の肩に頭を乗せて腰をゆらゆらと前後に揺らした。  圭吾は安定した蒼真を確認して、再び蒼真の前に手を回し、蒼真自身を擦り上げ始めた。 「んっ…」  さらなる快感に口元を綻ばせ、顎を上げる。こすりあげられているモノは、角度を最高までに達し、指の感覚に後は上り詰めるだけ… 「んっんぅっけ…ぃご…圭吾…あっああんっけい…あ」  何度も名前を呼んで圭吾を確かめる蒼真を、圭吾は片手で抱きしめて、その耳元に 「ここにいる…ここにいるから…」  とこちらも何度も囁き返していた。 「でも…けいご…これ…や…だ…やなんだ…」  胸を弄んでいる圭吾の手に手を重ねて、蒼真は動きを止めさせる。 「どうした…?」 「顔が…顔が見えないと、怖い」  その言葉にーバカだなーと優しく囁いた。 「ずっとここにいるぞ…大丈夫だ…」  そう言って蒼真自身から手を離し、後ろからキツく抱きしめてやった。 「ダメなんだ…圭吾がいなかった時でも、声だけは思い出せた…。けど、本物の圭吾だけは感じられなかった…。消えそうで怖い…から…真っ直ぐに俺を見てよ」  こんな時だから素直なのだろうが、こんな時の素直さだからこそ…本当の感情だ  圭吾は一度蒼真を自分の上から外し、ベッドへ寝かせると 「消えやしないよ…だから、しっかり俺を感じろ」  侵入しながら圭吾は蒼真の頬にキスをした。  圭吾にしっかりとしがみついている蒼真は、激しい突上げにも腰を合わせる。  極まりそうになっては躱され、蒼真は知らず涙ぐんでいた。 「一緒に…いこ…けいご…一緒に…」  熱い頬を合わせたまま、蒼真は足を圭吾に絡める。 「あっあっああっ………んんんっ…あぁ…」  突き上げる速さに蒼真の声が同調して、そして…2人は同時にはてていった…  激しく求め合うのも確かに良かったのだが、今こうして静かに抱き合っているのも、とても気持ちが良かった。 「本当に圭吾だ…」  圭吾に抱きついたまま、蒼真がつぶやく。 「まだ疑ってたのか?」 「そう言うんじゃないんだけど…なんか…ああ、圭吾だなって…」  なんだそれは…と笑って、圭吾は蒼真を抱きしめた。 「記憶障害ってどの程度だったんだ?」  圭吾の腕の中で、頭を上げる。 「自分が誰か…と言うのは解っていたんだ。ただ、その他 のことが全くな。なんていうか、何でここにいるんだ?という感じで…。ジョイスと翔の事も、聞き覚えはあるんだが、と言う感じで」 「それはもう、完璧な記憶喪失じゃないか…」  そうなのか?と圭吾は今更ながら驚く。よく戻れたなと。  そして思い出した記憶の一片に、伝えようか迷っていたことがあったことも今思い出した。  横になりながら目線を天井へ向け、圭吾は話し始める。 「言わずにいようと思っていたことがある。でもこれは、記憶が戻った後でも欠損がなく戻った記憶だから、伝えなければいけないんだなと思って…今から言うが…」  圭吾にしては歯切れの悪い話し方に、蒼真も黙って聞いていた。 「この事は、翔と俺しか知らないことだから、誰にも聞いていない話だと思う。2人して爆発に巻き込まれた理由というのは…ハワード・リーフのせいなんだ」 「え?」  蒼真は起き上がって圭吾を見つめた。 「何言ってんの…?ハワードは俺たちの目の前で…あの奈落に…」 「ちゃんと話もして、翔も見ている。あの時死んだと思ってたのは、やつのクローンだった」  そんな…と蒼真は呆然とした。 「自分から何もかも奪った蒼真への復讐に、俺と翔を殺そうとしたんだ。勿論ハワードが爆心なんだから、今度こそ本当に死んだが、そのお陰でお前のことも、翔もジョイスも忘れてしまったらしい。俺もかなりショックだった。まさかハワード・リーフが生きていたとは思ってもいなかったからな…」  ぼーっとしている蒼真の手をとって、圭吾は 「でももうハワードは完全にいない。大丈夫だ」 と強く見つめてやった。 「こうして、俺も翔も助かって生きてる。蒼真も1人じゃないだろ」 「ハワードか…往生際の悪い奴とは思っていたけど、それほどとは思わなかったぜ」  無理にではあったが、笑って蒼真はそう言った。 「そうだな」  ハワードの話をしても前ほどの反応をしなくなった蒼真に安堵して、圭吾も起きあがると 「そんな事より」  と話を変えた。 「翔とジョイスの、できたか話…だけど…」 「え!聞きたい聞きたい!出来たのか?」  途中で食い気味に言葉を取って、蒼真が身を乗り出す。 「いや、聞いていない話をしようと…」 「なんだよ!聞いてないのかよ〜」 お前が先走るからだと圭吾は笑った。 「あの爆発が起こった日は、翔とジョイスが送別会を開いてくれることになっててな、そこで聞き出してやろうとおもってたら、今日になってたってことだ」 「まったく!どこまでも憎いのはハワードだな!」 「全くだ。悪いことは全部あいつのせいだ」  圭吾の言葉に2人は爆笑する。  ひとしきり笑って、もう一度シャワーだけでもと準備を始めた圭吾は思い出したように離し始めた。 「蒼真、暫くしたらここを出てシドニー近郊に部屋を借りよう」  急なことに蒼真は目を見張らせた。 「なんで?ここでいいじゃん」 「そういう訳にもいかないだろう。いつまでもここで世話になる訳にはいかないし、それにジョイスが今、俺のこちらでの委任状を取り付けてくれているはずなんだ。だから引っ越したほうが何かと都合がいい。仕事に関してもな」 「復帰できるの?」 「たぶん…ジョイスがうまくやってくれればな」 「そっかあ」  蒼真は嬉しそうに笑って、ーそれなら仕方ないねーと言って 一緒にシャワーを浴びるべく。圭吾の手を取った。  その2日後、翔がジョイスと一緒に遊びに来ると圭吾が教えてくれた。 「ほんと?…翔に会えるんだ…」  蒼真はちょっと感慨深そうに、クッションを抱き抱えた。  こんなに長く離れたことがなかった翔が、どんなふうに変わってくるのか楽しみでもあり、寂しくもあり、ちょっと複雑な心境。  2人が来るのはその日から1週間後のことである。  それまで2人は、サラとトシヤの家ではあったが、今までできなかった2人の生活を楽しむことに専念することにした。                 結婚狂想曲(笑)  警察署と言うのは、どの時代も多少レトロな雰囲気が残っているもので、圭吾たちが詰めているTOKYO中央本部も『TOKYO』の『中央』な割には、旧式の建物で、中もお年寄りには和むと評判の警察署だった。  だからまだ『掲示板』などと言うものが存在し、そこには署内の部活動や、シェアハウスの同居人募集など多種多様な事柄が掲示してあったが、ある日ジョイスと圭吾は朝イチでその前に立ち尽くす羽目になった。 『高梨圭吾✳︎ジョイス・カーランクル 結婚!』  最初に飛び込んできたのがこれで、まるでジョイスと圭吾が結婚するような書き方に、最初はびっくりしたものだが、よくよく見てみると圭吾と蒼真、ジョイスと翔が各々2人で歩いている写真や、経歴書から抜いた圭吾とジョイスの写真と、盗撮まがいの蒼真と翔の写真を並べて❤️などがついていて、当人たちもびっくりするしかない。 「なんっだこれ」  あっけに取られたジョイスがやっとの思いで絞り出した声。圭吾に至っては呆然としすぎて声も出ない様子だ。しかも圭吾の方は、蒼真に初めて会った日の圭吾が連れて行った酒場でのキスシーンまで添付されている。 『お相手はこの方かー?』  圭吾とジョイスはその掲示をすぐにでも外したかったが、ガラスが貼ってあって広報にしかできないので、次の瞬間には広報へ足を向けて走っていた。 「「あの掲示をなんとか外してくれないか!」」  声を揃えて広報課の主任であるカワバタ主任のところへ直訴する。 「プライバシーの侵害じゃないか?」 「あまり顔を晒したくないんだけど!」  実を言えばそれが1番大きい。  蒼真は既にオーストラリアへ行っているが、翔はTOKYOで暮らしている。バイオレットの捜査時には2人の面も割れているので、出かける際は極力顔が見えないような風にしてでかけているのだ。それをわざわざ署内で掲示しなくても。特捜の部長に見られれば、大変なことになりかねない。  まあ、翔も髪をかなり切り、髪色も変えて雰囲気は当時の面影はないと言えばないけれど。 「いやあ〜お二人のファンクラブがねえ…昨日帰りがけに押しかけてきましてね」  ファンクラブ…? 「いや密かにあるんですよ?他にも交通課の枚方さんや、1課のマリオーニさんとか」  その話は別にいんだけど取り敢えず、あれは外してくれないと困る。  ギャーギャー広報室で交渉を続けている2人の元に、眼鏡をかけた女性エマ・ファーガソン課長補佐がやってきた。 「にぎやかですね、どうしました」 「ああ、課長補佐なら話が早い、エントランスの掲示をやめて欲しいんですけど、今すぐ、即刻に」 「自分らだけならまだしもですが、相手は関係ないですよね。盗撮まがいもありますし、即刻外していただきたい」 「あれは…」 半ば食い気味にエマが話す。 「私が許可しました。署内で人気がある方々は、これまでことごとく同じことされてきたのはご存知でしょう?」  確かに、先月結婚した刑事3課のロイ・マッシーモも、掲示板でやられていた記憶が…。 「あなた方だけ特別にはできませんよ。陰ながら応援していた方々の最後の祝福なんですから、甘んじて受けていただかないと…私も、されましたので…」  ファーガソン課長補佐は大層な美人で、補佐になった時の発表では傾城とまで言われ、あらぬ噂までたった人物だ。実際そんなことはあり得なかったが。  自分らは少し事情があって…とも言えず…。この課長補佐に言われたらぐうの音も出ない… 「はい、就業時間です。あなた方の仕事を始めてください」  パンパン!と手を叩かれ半ば強制的に退場させられた二人は 「部長に見られたりしたら…やばくないか…」 「あそこに掲示されてたら嫌でも目につくよな…どうする…」  こそこそと話しながら歩いて行く。  その2人を、すれ違う人々が拍手を送るので、その度に『いやぁ〜どうもぉ〜』と愛想笑いをするのももう疲れる。  表向きは刑事4課の所属となっている2人が、渋々と部屋へ入ってゆくと部長が待ち構えていたように迎えに出てきて 「おめでとう。水臭いぞ。もっと早く言ってくれればよかったのに」  こちらも拍手で迎えてくれるし、つられて部屋のみんなも拍手をしてくれる。  ほんとやめてほしいんですぅ 半ば泣きそうになって 「いや、もうその辺で…あ、仕事しましょうみなさん」  ジョイスが自分のデスクに向かって歩き、圭吾は部屋の棚から今日調べようと思ってたことの資料メモリーを取り出す、などとやってみるが部長は諦めず 「今度お相手も連れて、課内パーティーでもしようじゃないか。お披露目は大事だぞ」  ひいぃ!もうほんと勘弁してください。  どうやら部長さんは掲示された写真では2人が特定できなかったらしく、それはホッとした。  その後昼休みになると、もうぐったりして食欲もない2人は課の客用応接セットでだらりと伸びていた。  その時10数人の男女が 「失礼します」 「しつれいしまーす」 「失礼いたします」  と 4課へやってきた。みんなが何事かと見守る中、その集団は少しキョロッとした後その応接セットをロックオンし、まっすぐに向かって来た。 「え、なに?なになになに?」  入り口に背を向けていた圭吾がジョイスの様子に振り向くと、すぐそこに集団が立っている。 「え…と、…え?」  戸惑っていると、2人の男女が前にでてきて、まず男性が 「高梨圭吾を見守る会代表 小出マイケルです」 「ジョイス・カーランクルを愛でる会代表 エミリー・ロバーツです」  みまも…る?とか 愛でる…とかもう尋常じゃない。  2人は各々手にした箱を、各々の推し(w)に差し出した。  昼休みで少ないながらも、課の人間達はかなり面白がって見ている。 「みんなからの祝福です。受け取ってください」  圭吾もジョイスも圧倒されてしまって、 「あ…ああ、ありがとう…」 と受け取るしかなかった。次は代表2人が下がった後、列が半分に割れ、一人一人が 「お幸せに」 「悔しいけど、幸せになってください」 「好きでした」  と 一言メッセージを伝えながら、プレゼントを置いてゆく。    もう呆気に取られるしかなく、好きにして…な感じで愛想笑いを2人は振り撒き続けた。  画面の向こうで蒼真がお腹を抱えて大爆笑をしている。 「笑い事じゃないんだよ、ほんと」  ジョイスの部屋へ寄って翔にこのことを話してたら、翔も爆笑してこれは蒼真にも聞かせなきゃ!と端末本体で今日のことを伝えた。その結果のことであった。 『すっごいね、おもしろっぎゃははははは』  もう転げ回る勢いで笑っていて、しばらくは収まりそうもない。  頂いたものは、署の固いソファーの上で魂抜けた感じで座っていた2人の代わりに、課の人達が箱詰めしてくれて、ちゃんと持ち帰って来ていた。  翔がジョイスの分を今も開け続けていて、大体がペアのものだったが中には写真でイメージしたのか翔へのキャップや服も入っていたりして、お相手さんへと書かれたものを翔は結構喜んでいた。 『俺のもあるー?』  と少し落ち着いたらしい蒼真が、画面の向こうでワクワクし始めた。まだ笑ってはいるけれど。 「今見てあげる」  翔が圭吾に許可を得て箱を確認すると、 「あるよー。これとか」  現在人気の新進デザイナーの服や 「これとか」  圭吾の写真が秒で変わる写真盾   それを見た圭吾は、ビールを吹き出しそうになり、画面の向こうの蒼真は椅子から落ちてまた大爆笑を始めた。ジョイスもそれには爆笑したが俺にはないよねさすがに…と箱をあらためている。 「この人、蒼真が離れてること知ってるんだね。ファンクラブって怖いねえ」 「欲しい欲しい 今すぐそれ欲しい」  ゲラゲラ笑いながら画面外で蒼真は叫んでいる。  「いい加減にしろ…」  本当になんの日なんだ今日は…  蒼真がオーストラリアへ行って半月  もう一波乱が待ち受けている4人だが、こんな日もあったという話                Happy Belated Anniversary                 「翔、圭吾の異動がきまったよ」  帰ってきてすぐ、ジョイスはリビングに座る翔に言った。  相馬がオーストラリアへ行ってから半月。異動の希望を出していた圭吾は今日、辞令をもらったのだ。 「ほんと?…そっか…圭吾も行っちゃうんだな…。でもよかった」  うんと頷いてジョイスも上着を脱ぐ。 「メシはくったんだろ?」 「うん、ジョイスは?」 「俺も食って来た。じゃあ俺風呂入るから」  ジョイスは上着を持って奥の部屋へ入って、しばらくしてから着替えて出てきた。リビングを通る時、翔が少し俯いているのを見たジョイスは、 「圭吾の出発はまだ先だし、そんなに遠くじゃない。それともあいつがいなくなるのは寂しい?」   翔は首を振った。それは、勿論寂しくないと言った意味ではなく、そうじゃないの意味。俯いている理由は… 「ま、そんなしょぼくれないで、元気出してくれ」  俺がいるじゃん、と翔の髪をくしゃっと混ぜて、ジョイスはバスルームへ向かう。 「ジョイス…」  翔に呼ばれてドアの前で振り向いて、こちらへ向かってくる翔を見つめた。 「なに?」 微笑んで翔に問う。 「風呂…一緒に入ろうかと思って…待ってた…んだ」  耳まで真っ赤にしてそういう翔にジョイスは少し驚いてしまった。  本格的に暮らし始めてから、翔にはそう言うアクションはあまりしなかった。一度だけそうなりかけたことがあったが、あまりに翔が耐えて いるようだったので、その時はやめにしておいたのである。 「え…翔、それは…」 「大丈夫…と思う。少し怖いけど嫌じゃない。ジョイスなら平気」  翔が俯いてしまうと、長身のジョイスからは頭の上しか見えないが、その下できっと真っ赤になって勇気を出しているのであろう翔の顔が浮かんでジョイスは愛おしくなった。 「じゃあ、入ろっか。一緒にね」  肩を抱かれた翔は、羞恥よりも安堵の表情でジョイスに従った。  浴槽に浸かったジョイスは、さっきからずっと左腕だけをゴシゴシ擦っている翔をみてー緊張してるなぁーと感じていた。  でもその緊張は、嫌悪感とかではなく、まあ…そう言った類の緊張。 「ちょいちょい翔。そんなに左腕擦ってたらすり減っちゃうぞ?」 「え?」  言われて漸く気づいたのか、ーへへっーと笑ってお湯をかけた。 「おいで」  浴槽の端に背中をつけるように寄って、空いたスペースに翔を誘う。 「うん」  素直に立ち上がって、ジョイスの前に後ろ向きに座った。   ジョイスは後ろから手を伸ばし、翔の左腕を伸ばしてみて 「こんな真っ赤にしちゃって、どうした」  とそこを撫でながら、頬を寄せた。 「やっぱり、ちょっと緊張する」  腕を撫でる大きな手をとって、笑う。 「実は俺も緊張してるんだぜ?わかる?」  胸を翔の背中に当てると、心臓の音がいつもより早い。 「ジョイスも?」 「翔と風呂に入るのに、俺が緊張しないわけがない」  相変わらず合わせている頬が、ジョイスの笑みで動いている。 「俺ね、いっぱい考えたんだよ」  ジョイスの指を一本一本弄びながら、翔は話だした。 「そういう事に怯えてても、ずっとっていうわけにもいかないんじゃないかなって。ジョイスは俺のタイミング見てくれてるけど、そのタイミングが来なかったら…って考えると怖くなった」  話を聴きながら、ジョイスは反対側の手で自分の指で遊んでいる翔の手を握り込む。 「だから…『しよう!』って俺が言わなくちゃ…だったんだけど…その…そう言うのって…」  大きな両手が翔の両手を包んだ。  合わさった頬が少しずれてジョイスの唇が耳にあたり、吐息の様な声が聞こえた。 「しようか…」  握られた手が少しだけキュッとなって、その後合わされた頬の方へ顔を向けると、ジョイスの緑がかった目と目があい、そして軽くキスされた。 「いいの?今日で」  翔は目を見たまま頷く。 「ありがと」  ジョイスはもう一回軽くキスをして、翔を抱きしめた。『そうだった…タイミングを測るあまり、こう言うことを言わせるところだったんだな』と気付かされ、今、翔が思っていることは俺がやらなきゃいけなかった。 「じゃあ、あがろっか」  こくん、と頷いて2人は立ち上がった。  簡単にシャワーで流し、ジョイスは面白そうな顔をしながら一枚の真っ白なバスタオルを持ち出してきた。  そしてそれを広げると、翔をすっぽり包むほど大きなバスタオル。 「わーでっかい!おもしろいね」  翔を頭から包んでも足首まである。自分用にでかいタオルと思って買ったら、思ったよりデカくて持て余してたとジョイスは笑う。 「これから翔が使っていいよ」  と言いながら、自分を拭ったタオルを腰に巻いて 「よいしょ」  と、翔をバスタオルのまま縦抱っこした。  筋肉質なこともあるが、ジョイスの身長は196cm。翔が170cmだから26cmの差。 痩せ型の翔を抱き上げるなんてジョイスには楽勝だ。 「うわっ!」  急に持ち上げられ驚いた翔は、タオルの中からジョイスの肩に手を置く。  ジョイスはそんな翔にちゅっとキスをして 「かわいい」  ちゅっとして 「好き」   を繰り返し始め、 「ジョイスそれなんか…んっ」  ちゅ 「やっぱ可愛い」  何度もされて頬が染まるほど照れ臭いから、翔はジョイスの肩にしがみついてしまった。 「あれ、ブロックされちゃった」  ジョイスは楽しそうに笑って、大事に翔を抱きしめ寝室へと入っていった。  自身を口に含まれている翔は、ため息のような声を出し続けている。時折混ざる声がジョイスの衝動を刺激して、攻撃的にならないように抑えるのが少々難しいほどだ。 『翔』を離して、お腹、胸とじっくりと舌を這わせ、その感覚に翔の腰が上がったところで、右手を腰の下に差し入れる。  そして翔の背中にも手を回し上半身を起こさせると、あぐらをかいた自分に座らせた。  「…ちゅっ…んぅ…じゅ…」  舌を激しく絡ませて唇を吸い合い、翔もジョイスの首に腕を巻きつけ唇を求める。  ジョイスの指が翔のバックに触れ、少し揉みほぐすように蠢かされた。 「っ…ぁ」  恥ずかしいのかジョイスの足の上で翔の足が閉じようとするような動きをするが、当然だができない。その衝動を和らげるべく、ジョイスはもっと激しく唇を合わせ吸い上げた。  そして激しく合わせられる唇の陰で、ジョイスの指が『ソコ』へ入り込んでゆく。 「んぅ…ん……ぁ…ん」  翔の身体がびくんと震え、唇も離れてしまう。 「ジョ…ジョイス…んっ…あぁ」  指の出し入れの感覚に、何か言おうとした言葉は消されてしまい、ただ翔の腰が少しずつ揺れ始めるだけ。  こればかりはほぐしておかないと辛いのは翔だから…とジョイスは無理ない程度にゆっくりと指を出し入れしほぐすように蠢かす。 「はぁ…ぁ…」  ジョイスの肩をもって、上に伸びるように指から逃げようとするが、それをジョイスは許さなかった。  目の前にきた胸の色づきに舌を這わせて、腰を落とさせる。 「ぁ…あぁ」  真ん中にある翔自身は、先から涙を流しており、それを見たジョイスはそっと翔の上半身をベッドへ下ろし、指も抜いて翔の足を開かせた。 「キツかったら…いって…」  左手で翔自身を握り込み、先端の部分に指をあて溢れている液体をその周辺に塗り込むように回してみる。 「…はぁ…ぁあ…」  息が漏れ、少し身体が弛緩したように見えたとき、ジョイスは翔の中に身を進めていった。 「はっ!あああっ」  翔の上半身がしなり、胸を突き出すように背中が反ってゆく。  『翔』を擦り上げ、翔の中も刺激して、沿ってゆく体や声を聞きながらジョイスは自身の抽送を繰り返した。  感じる度に締まるそこが刺激になり、入ったばかりだがちょっと限界を感じてしまう。 「…んっ…ジョイス…」  翔の左腕が彷徨うようにジョイスを探し、その指が頬に触れた。 「きつい…か?」   荒い息の中問われ、翔は微笑みながら首を振る。頬に触れた指はジョイスの唇を撫でてきた。  空いていた方の手で翔の手を取り、手のひらにキスをしその手の人差し指を口に含み舌を絡ませる。  その行為に翔は少し驚いたのか、手を引こうとしたが 「だめだぞ…翔がしてほしいって来たんだからな」 「ジョイス…エッチなひとだ…ね」  全身のどこかしらを責められている翔は、声も掠れ気味にそう言って笑う。 「いえいえ、翔もなかなか…」   指を舐め、手のひらにキスをし、少し余裕ができたジョイスは、もう片方の手の中の翔を先にいっていいよとばかりに刺激を始めた。 「あっ…んっんっあっ…それ…あっ」  自分でしかしたことない行為を、自分以外の人にされる羞恥で感覚がおかしくなりそうだった。 「も…ぅ、あっあっぁぁんっ…ああっ」  枕に頬を押し付けて、ジョイスの手のひらで翔は弾けた。  翔に跳ねないよう、ジョイスがカバーしていたために翔の体液はジョイスの手のひらで受け止められている。  ジョイスは、少し上げた腕から肘の方に流れたソレを迷いなく舐め上げて、それから手のひらまで全部…綺麗にしてしまった。  翔のものは全部自分が…そう言う妙な独占欲だったかもしれない。  その行為を目の当たりした翔は、ジョイスに全てを挙げてしまったような気がしていた。  この人でよかった…言葉でどう言ったらいいのかこの気持ちに答えはないのだろうが、1番近いと思う言葉は 「幸せってこう言う感じかな…」  だった。  ジョイスは笑って握っていた手を恋人繋ぎにすると翔の頭の脇に置き、  「辛かったら…ごめん…俺も…もう…」  そう言って、緩やかにしていた腰の動きを速めて、翔に打ちつけた。  音がするほどだったが翔は受け止めていて、荒い息の中時々声を漏らしてはジョイスの熱情を享受する。 「っ…くっ」  ジョイスは最後の激しい打ちつけの後腰の動きを止め、ぎゅうっ翔にと押し付ける。それといっしょにいつの間にかジョイスの腰に絡めていた翔の足もジョイスを締め付けた。  激しく乱れる息をベッドに並んで整える。  ジョイスは歯止めが効かなかった自分に少し自己嫌悪をしていたが、翔は思っていたより数倍、自分にとってすごかった。  大事なものだと今までより深く認識できる。 「無理…させすぎた…平気?」  目を瞑って息を整えている翔に問うと 「うん…平気…」  と顔を向けてきた。 「でも、ちょっとすごかった」  と笑う翔に 「ごめんなぁ〜」  とジョイスが横向きになって翔の髪を撫でる。 「自制が効かなかった…」  笑って頬を撫でるとその手に手を添えて 「でも俺…しあわせ…って感じた…から」  ーああ、もうたまらないな翔はーと ジョイスは身を乗り出して軽くキスをした。  その後、ジョイスは起き出して 「なんか飲むか?」  とキッチンへ行こうと立ち上がった。 「炭酸水飲みたい」 ー了解ーと言ってキッチンへ行き、炭酸水とビールを持ってくる。  翔は目を開けたまま中空を見つめていた。  「何みてる?」  横から問われて、 「ちょっと色々…思ってた」  その時は翔の言っている意味がわからなかったが、数分後に理解することになった。 「俺ね、なんかわかったんだよ」 「ん?」   瓶を口にして、ベッドに座っているジョイスはーなにを?ーと尋ねる。 「今まで怖かったのは…相手が俺じゃないものを見ていたからだって」 「んー?」 「ジョイスは『俺』を見てくれるだろ?。でも他の人が見てたのはさ、俺じゃなくてただ「やりたい」って言う気持ちだけだったり、あまり言いたくないけどハワードなんかはさ…DNAだったり…」 「翔…」  ベッドに手をついて、翔の髪を撫で上げる。 「言いたくないことは言わなくていいんだぞ?」 「ううん、ジョイスに伝えたかったから…ジョイスだったから全然怖くなかったし、拒否反応なんてでる隙もなかったよ。それに…」 「それに?」  翔は起き上がって、ジョイスの背中に抱きついた。 「体の中に人を受け入れたのは、ジョイスが初めて…」  耳元でそう言われ、ーえ?ーと声が出る。 「え、だってMBLで…散々…」 「だから気づいたんだよ。ハワード(あの人)は俺だけいかせてた…」   ジョイスの心の中が複雑になってきた。 『俺…翔の初めて…なんだ…』と言う嬉しさと 『本当に採取のような行為してたんだな』と言う怒りの気持ち。 「なんて言っていいのかわからないんだけどな。嬉しい気持ちと怒り…が入り混じってて言葉になんない」  でも、とジョイスは続ける。 「あんな奴に感謝なんてしたくはないんだけど…ほんのちょっぴり、1mmくらい感謝してるとすれば…」  背中にいた翔を前へ回してギュッと抱きしめる。 「翔の初めての男を俺にしてくれたこと…だな」  翔も嬉しそうにジョイスを抱きしめ 「そのくらいしか良い事してない」  そのままジョイスをベッドへ押し倒した。 「おいおい?」  とジョイスが見返すと翔はキスをしてきて、黙ってジョイスの手からビールを外す。 「ビールはまた後でだよ…」  と再びキスをしてきて、ジョイスは笑ってその背中を抱きしめた。

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