22 / 216
第22話 人生で一番って。
颯の腕の中で、ふと気付いた。
「あ。なあ、颯」
「ん?」
「颯って、付き合ってる奴、居なかったのか?」
「……ああ」
「そうなんだ。……颯って、ずーっと誰かと付き合ってたみたいな気がするのに」
「……それ言ったら、お前の昔のあれは何だよ、相手が何人、とか」
「あーあれは、告白された数でしたー」
「…………」
笑いながら言うと、颯が黙った。
「嘘はついてないよー?」
「あの言い方で言ったら、経験した数だと思うだろ。つか、皆も、お前は結構遊んでると思ってただろうし」
「まあ、そういうことしてなかっただけでデートとかはしてたし。皆、誰かとはしてるんだろうって勝手に思ってるんだろうなぁと思ってたよ。……颯に負けたくなかったし、むしろそう思っててくれてよかったし」
あっかんべーしそうな勢いで言うと、「なんだよそれ」と、颯は苦笑い。
優しく抱き締めてくれてた腕を解かれて、じっと見つめられる。
「オレ、こないだまでは彼女居たんだけど」
「ん。そうなのか? 振られたの?」
そう言うと、すごーく嫌そうに見つめられる。
「…………お前が気になって、別れた」
「えっ」
驚いて、見上げる。
「どういうこと?」
「さっき言ったろ、すれ違った時、匂ったって」
「それ、そもそも匂ったってなに? そんな、くさかった?」
「……お前ってもしかして、Ωの匂い、もともと分からなかったのか?」
「うーん。……実は、いまいち、分かんないというか……なんとなく、くらい?」
考えながら言うと、颯は考え深げにオレを見つめる。
「もしかして、そういうのも変性の予兆だったのかもな。……つか、Ωって皆匂うんだけど……お前のは、すごくいい匂いに感じて」
「え。……そんなので、別れたの?」
「αでも、好きな奴のは匂うのかって思って……それで、一度自分の考えを整理したくて別れた」
「えっ」
「何だよ?」
「す。……好きな奴って?」
「……お前。好きな奴。今の流れで、お前以外いないだろ。つか、オレさっきも言ったろ、会った時からって」
そんなことを照れもせず、平然と言った颯は。
なぜか真っ赤になってる、と思う、オレの頬に触れる。……顔、熱いんだけど。
「はは。真っ赤な?」
クスクス笑うと、甘い、キスを重ねてきた。
「ただ、好きでも、αだと思ってたから、どうするつもりもなかったよ。さすがに変性は考えてなかったしな」
「……オレが、Ωになって、良かった?」
「人生で一番、ラッキーな出来事かもって、思うくらい、よかった」
……人生で一番って。そんな風に言ってくれちゃうと。
Ωになったことを、少しも、嫌だと思わないで居られる気がする。
――――……いい匂い。颯。
オレも、颯にとって、いい匂いなら、嬉しいや。
ともだちにシェアしよう!