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第40話 ほっこり

 昨日は、めちゃくちゃ優しく、抱かれた。  ……いや、激しかったけど。  キスとか触れ方とかはすごく優しくて。でもいつの間にやら、気を失っていた? 寝ちゃった? みたい。信じられない……。  朝、颯の腕の中で、目が覚めた。 「おはよ、慧」 「……ぅん。はよ……」  うう。照れる。照れすぎて死ぬ。  朝から爽やかすぎる。 ……オレ、寝ぼけてて嫌。  ……しかもなんか半分腕枕みたいにされてるけど。 「颯……?」 「ん?」  少し頭をずらしながら。 「……腕、痛くない? 重いよね?」  女の子でもなければ、華奢で小柄なΩとかでもないし。 「痛かったら少しずらすし。ていうか平気。……つーか」  言いながら、引き寄せられて、きゅ、と腕の中に包まれる。 「……これ、幸せじゃね?」 「――――……」  ……幸せだけど。  かぁ、と熱くなるけど、埋まってるから見えないし、良しとしよう。  応えないオレに、でも特に何も言わずに颯がオレの髪をサラサラと撫でる。 「慧の髪って、柔らかいよな……」 「……そう?」 「ふわふわしてて、触り心地、いい」  笑いを含んだ声が優しくて、うう。胸が ドキドキしてしまう。 「なあ、慧」 「ん……」 「お前、抱いてる時さ」 「…………」 「……お前からすげえいい匂いすんの」 「――――……」  もー朝からやめろよう。  心臓がもたないっつの。もう寝たフリでいこうかな。……今起きたばっかだけど。  ぎゅう、と瞳を閉じて、颯の腕に埋まってると。 「運命だからなのかな。……いい匂い過ぎて、オレ、我慢しねーとずっとシてそう。昨日オチてくれてよかった」 「――――」  だからやめろよー……。 「慧は? オレから匂いする?」 「――――」  する。めちゃくちゃ、いい匂い。  おかしくなりそうなくらい気持ちよくなって、颯の匂いに包まれて。    答えるのは恥ずかしいので、オレは、うん、と頷くだけ頷いてみた。 「そっか。するんだな」  なんだかご機嫌な颯に、よしよしと撫でられる。 「――あ、慧。朝は? いつも、何食べてた?」  多分気になってたんだろうけど、その話の後に朝食聞かれても……と思いながらも、そっちなら話せるので、のることにした。 「朝はいつもパン……」 「なんのパン?」  聞かれて、オレは少し腕の中から顔をずらして、颯を見上げた。   「オレのマンションの下にパン屋さんがあって、いつも帰りにそこ寄ってた」 「そっか。ここもパン屋入ってる」 「あ、ほんと? ……行ってみたい」 「ん。後で行こ」 「……あ、颯は? 何食べてた?」 「オレも朝はパンが多い。一緒だな」  そっか、一緒かぁ。良かった。  何だか、こんなにすごく些細なことが嬉しいとか。 「あと、オレはたまにおむすび屋さんで買うこともあるけど」 「おむすび屋さん、あるの?」 「パン屋の隣」 「おむすび好き」    そう言うと颯は笑いながら「じゃあそっちもたまに食べよ」と言う。  うん、と頷きながら、なんだか、ほっこり幸せな自分。

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