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第102話 幸せすぎる

 颯といつも一緒に寝てるベッドに一人。  ん。静か。とっても。  颯、今頃どこらへんかな。  そんなことを思いながら、天井をぼーと眺めた。  ――――颯と番になって、周りも驚いてたけど、やっぱり一番びっくりしたのは、オレだった。  αだったのに、Ωになっちゃったし。  初体験をあっさり突然捧げちゃったのも、しかも、その場でうなじを噛まれて、番になったのも。    あんなにライバル視してから大学では全く絡んでなかった颯と「運命の番」。  ……ほんと、びっくりだったよね。  颯のパジャマを、きゅ、と握る。  最初に抱かれてる時から、颯は、もう、高校の時とは、違う感じだった。  激しかったけど、優しかったし、愛情みたいなのも感じられるような感じ。  そのまま今まで。  オレを自分のΩだって思ってくれるたびに、どんどん優しくなってきてる気がする。  オレは、まだ「好き」って言えないし。  ……急に甘えるのも変かなって、全然できないし。  颯のことが、大好きになってるのに。  αからΩに変わってしまった。それを、オレが気にしてるときっと颯はまだ思ってそう。オレのαとして持ってたプライドとかそういうのも、気にしてくれてる気がする。だからこそ、ゆっくりでいいって言ってくれてるんだと思う。    ……ていうか、オレにあるのは、αのプライドとかそういうのよりも。  何年も張り合うだけ張り合ってきたのに、急に颯のものになって、どう甘えたらいいのかなっていうそっちの戸惑いだけ。  変性のあの時。  「これから何があっても、オレはお前の側に居るから」「番になろう」って言われた時。  もうほんとに、オレは好きになっちゃったんだと思う。  だから、もう、αとかどうでもよくて、Ωになれて良かったとすら思ってるんだよ、オレ。  可愛いって言われて、嬉しいしかないし。  好きって言ってくれたら、好きって言いたいし。  朝、キスされるだけで、恥ずかしいし。甘い雰囲気出されると、すぐ赤くなっちゃうし。  気持ちは、バレてるとは思うんだけど。  ……もっと、素直になれたらいいのになぁ。  こないだ仲間三人には言ったけど、颯にも、「颯と居られるからΩになれて良かった」って言いたい。いつか、言お。 「――――」  そんな風に心に決めながら、仰向けのまま、颯のパジャマを両手で広げてなんとなく、見つめる。  オレのΩとしての人生はまだほんとに短くて、Ωになったことが正式に分かる前に、噛んでもらっちゃったから、一人でヒートに苦しむとかも無くて。  ずっと颯が居てくれるし、巣作りなんて、全然必要はないんだけど。  ……でも、颯の匂いのするものに包まれて、幸せ、みたいなの。  聞いた時から、やりたいって思ってて。  でも颯が居るとこでは、そんなの恥ずかしくて、絶対無理だし。    毎日、学校に一緒に行って、待ち合わせて帰ってきて、買い物とかも全部一緒。  颯と居るの楽しいから全然いいんだけど、一人の時間がない。  だから、このゼミ合宿の話を聞いた時から、絶対この日にするんだって、楽しみにしてたんだよな、オレ。 「颯……」  すう、と深呼吸。  颯の匂い、好きすぎ。落ち着くし、安心する。  むぎゅーと颯のパジャマを抱き締める。 「……颯、すき……」  ああ、なんかいい匂い。きもちい。  これが巣作りっていうのかなあ……良く分かんないけど、幸せ。  どれくらいそうして包まれていたか。  不意に、近くに置いていたスマホが震動。 「あ、もしもし……?」 『慧、寝てたか?』  すごくすごく、優しい声が聞こえる。なんか、笑ってる。オレ、寝ぼけた声になってるかな。 「ううん、起きてる。……颯、今どこ?」 『高速入ってすぐのサービスエリアについたとこ』 「そっか。……雨は?」 『ここはそうでもないよ』 「気を付けてね……」  声を聞いていたら、なんだか。……すごく、会いたくなってきてしまった。 『慧、眠いの?』 「ううん。眠くはない」 『そう? なんかぼんやりしてるっぽいけど』 「……うん。ぼんやりはしてたかも」  颯の毛布と服に包まれて、ぽけー、とはしてた。 『そっか。久しぶりに一人だし、ゆっくりしてな?』  クスクス笑う颯の声。 『じゃあ行ってくる。ついたら、連絡いれるから』 「ん、待ってる。気を付けて」  ……早く帰ってきてね、と心の中でつぶやいた。  帰ってこれないのは分かってる。二泊三日だもん。だから言わないけど。  切れたスマホを、目の前に置いて、毛布に再度くるまった。  颯の声聞きながら、包まれてると。すごい幸せだったなあ……。  いい匂い。好き。幸せすぎる。  瞳を閉じて、耳元で聞こえてた颯の声の感覚を追う。

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