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第131話 最高の形

 二人の連絡先交換が終わって、なんだか苦笑いの雰囲気で、四号館を出た瞬間。  少し先の壁際に立ってる颯の姿を見つけた。 「あれ。颯っ?」 「慧」  とっさに走り出して、颯の目の前に立つ。 「どしたの?」 「無事出せた?」 「うん」  頷くと、ちらっとオレの後ろに視線を向けた。  ……あ。匠のこととか、心配して来てくれたのかな。  しかも、終わったところに来てくれるのは、なんか嬉しい。 「やっぱ来たか」  昴がクスクス笑いながら近寄ってきて、その後を、匠がついてきた。 「ほら。謝っとけよ」  昴が匠に言うと、匠は、様子をうかがうように、颯を見つめた。 「あの……神宮司さんがコンテストに出るって聞いて、戦うかどうするか決めたくて……ちょっと悪ふざけが過ぎました。すみませんでした」  軽い感じで謝った匠。まあこいつ、こんな感じだからな……と思った瞬間。 「――――ふうん?」  颯が、静かな声でそう言った。  いつもとちょっと違う。高校の頃冷めてたように感じてた時とも違う。   「……ちょっと、か?」  颯の、一言。  なんか。空気が。  ……痛い……??  なんだかドキドキしてると、匠が、急に真顔になって。 「……いえ。本当にすみませんでした。二度としません」  さっきよりもちゃんと頭を下げたし、真剣に謝ってるのが分かる。  あ、出来るんじゃん、ちゃんと謝ること。 「一年だし、今回だけは許してやるけど。……次は無いからな?」  少しして、そう言った颯の声が、最後の方は少し緩んだ。  顔を上げた匠が、「はい」と、神妙に頷いてる。  ……確かにちょっとピリピリしてたけど。  匠がこんな感じになるって、不思議。  そう思いながらも、颯を見てたら言いたくなって、オレは颯を見上げた。 「あのさ、颯、帰ったら話したいことがあって」  そう言うと、オレに向けられた視線は、いつも通り、優しい。  あ、良かった。普通通りだ。ちょっとほっとしながら、颯の瞳を見つめていたら、ふ、と微笑む颯。 「ん、分かった。後でな?」 「うん。またあとで……来てくれてありがと、颯」  そう言うと、優しく笑って頷いてから、ぽんぽんとオレの頭を叩いた。……嬉しい。  昴と匠にも、じゃな、と言って颯は歩いていった。  颯が遠くなってから、匠がため息をついた。 「……こわすぎる。オレ、もうほんと。絶対しませんから」 「つか、怖いとか言わないでよ。優しいじゃん、すぐ許してくれたし」 「……あれ怖くないの、先輩」  嫌そうに匠に見られて、つい首を傾げてしまう。 「ちょっとピリピリしてたけど、すぐ、許してくれてたし」 「ちょっとじゃねーし。……先輩、大物なのか鈍いのかどっち?」 「はー?」  何なのその言い方―、と思ってたら、昴が苦笑い。 「颯のそういうのは、慧は全然。昔から平気なんだよ」  笑いながらそう言った後、昴は匠を見つめた。 「まあお前はこれに懲りたら、態度改めろよ」 「……了解です。じゃあ先輩たち、また。何かあったら、昴先輩に連絡しますんで」  そう言って歩いていった匠に手を振って、昴と次の教室に向かって歩き出す。 「なんか色々ありがと、昴。ごめんね、連絡先」  そう言うと昴は「いいけど」と苦笑した。 「颯に話すのか? 元カノのこと」 「んー。オレのエントリーのこととかは話しておく。昨日あそこで会ったことはもう話してるし……でも、出したのがそうとは限らないし、颯に動いてもらいたいとかは思ってない」 「ん。そっか」 「うん。まあ……分かんないし。辞退すれば、すむことだし」 「そうだな」  二人で、うーん、と考えていたのだけど、不意に昴がクスクス笑い出した。 「にしてもさ」 「ん?」 「颯を見つけた時に走ってく後ろ姿は、昔からほんと、ずっとかわんねーな」 「え。――そう??」  ちょっと恥ずかしいけど、確かにそうかも、と思っていると。 「大学入って一年間、よく我慢してたよな」 「我慢、だったのかな」 「自分でどう思う訳?」 「んー……でも張り合うのはもうやだったから」  そう言うと、昴は、ふ、と笑う。 「じゃあお前にとって、今は最高の形なのかもな」 「…………」  言われて、考えて。  それから、嬉しくなって、ん、と頷いた。  そうだな。言われてみたら。張り合わなくても良くて、颯とこんな風に居られて。  こんな、αからΩになった、とってもレアなオレなんかをとっても可愛がってくれてるような気が。  多分颯なら、どんな綺麗なΩも思いのままだろうに。  十号館の前で待っててくれた颯を思い出すと。  ちゃんと全部、終わってからのオレを待っててくれたんだと思うと。  なんかそういうとこも、めちゃくちゃ好き。かも……。  

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