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第156話 幸せとか

「……んー。気持ちいー」  お風呂から出て髪を乾かされて、水を飲まされて、ベッドに転がった。  うつ伏せで、枕を抱えると、なんかすごく気持ちイイ。 「完全にのぼせてんな……ごめんな」  ふ、と笑いながら、颯がエアコンを入れる。そんな様子を見ながら、オレは首を振った。 「いい。……幸せだし」 「――――……」  顔だけ颯の方に少し向けて、でも寝たままのオレの隣に座った颯が、オレを見下ろして、頭を撫でてくる。 「慧」 「……ん?」 「オレと結婚して、幸せ?」 「――――……」  聞かれたことを自分の中で噛みしめてから、オレは、むく、と起き上がった。 「うん」  まっすぐ見つめて、頷くと。  颯は、くす、と笑って、オレを抱き寄せた。  抱き締められたまま、ゆっくり、ベッドに転がされる。 「起きなくていいのに」  クスクス笑われて。 「だって、ちゃんと顔見て、答えたいじゃん……」 「……ほんと、そういうとこ 可愛いよな……」  抱き締められたまま、よしよし撫でられる。  可愛いって恥ずかしいけど、今は顔見られてないし、まだ耐えられる。やっぱり嬉しいし。 「なあ、慧さ」 「……ん?」 「結婚式、どんなのがいい?」 「――――……結婚式?」 「さっき早くしたいって言ったろ?」 「んー……仲良い奴、皆呼んで、おめでとうって言ってもらえたら、なんでもいいかなあ……」 「これしたい、とかは?」  聞かれて、んー、と悩む。 「……結婚式とか、考えたこと無かったなー……何ならさ、新郎側のほうは、想像してたけど……」 「まあ、そっか」 「颯と結婚するなんて……してる今でもびっくりだけどねー、オレ」 「そうだよな」  ふ、と柔らかい笑みが聞こえる。 「颯は? ……どんな式がいい?」 「慧が嬉しいなら、オレはなんでもいい」 「えー……何それ……」  ふふ、と笑ってしまう。 「じゃあオレも。颯が幸せなら、なんでもいい」 「……とか言ってると、何も決まらないな?」  颯もクスクス笑ってる。 「……えー……じゃああれは? 颯、恥ずかしくない?」 「なに?」 「ケーキカットとか」 「……恥ずかしくはない」 「ほんと?」  腕の中から、颯を見上げると、ん、と微笑む。 「じゃあれ! シャンパンのグラスみたいなの積んで、上から流すやつ。なんかよくホストがやってる?」 「ああ……」  ふ、と笑う颯。 「あれも、恥ずかしくない?」 「ああ。……一人でやるなら恥ずかしいかもしれないけど。慧が一緒にやるんなら」 「一緒に決まってるしー」  ふふ、と。オレ達がやってるとこを想像して、笑ってしまう。 「あれもいいなあ、皆がお花を投げてくれて、その中通るやつー。おめでとーって言われながら」 「――――そういうの全部好き?」 「うん。いいじゃん。楽しそうじゃない?」 「なるほどね。じゃあ、全部やろうな」  クスクス笑って言ってくれる颯に、ん、と笑った。 「楽しみだねー」 「そうだな」 「颯が、多分ちょっと、気まずそうにしてそうなのも、楽しみ」  くふふ、と可笑しくて笑ってしまうと、じっと見つめられて。  ふ、と苦笑されて。  ちゅ、と頬にキスされる。 「慧はすげー笑ってそう」 「……んー? んー……。まあそうだね、絶対笑ってる」  見つめ合って、お互いに、ふっと笑顔。  優しく触れてくるキスに少し瞳を伏せた後。 「……あ。そうだ」 「ん?」 「颯、明日明後日売り子してもらう時あるからね?」 「ん?」 「学内、回りながら、イケメンコンテストの宣伝もするって、皆が言ってたから。売り歩きながら、顔見せてきてね」  笑顔で言ったオレに、ちょっと眉を寄せて、んー、と唸った後。 「……了解」 「はは。ちょっと、嫌そう」  オレが言いながら颯を見つめると。颯は、すり、と頬に触れてきた。 「慧が推薦してくれたし。一位にはなりたいから」 「うん! 楽しみー」 「そういえば、何て書いたんだ? 推薦文」 「……内緒でお願いします」  そう言うと、颯は少し首を傾げて。 「そう言われると、ますます聞きたいな」 「……まあ。いいとこ、色々書いたよ。そもそも去年の優勝者だから、そんなに書かなくても、通るかなーと思ったし」  一生懸命ごまかしていると、颯は、まあいいけど、と笑ってくれた。  ……かなり本気で書いたから、颯にそれ言うのは、超ハズイ……。 「売り子、頑張るか」 「うん。頑張ってね。あっ、でも」 「ん?」 「……いや……」  ……あんまり愛想ふりまかなくていいからね、優しく笑っちゃったりしないでね、とか。一瞬思ってしまった自分に、矛盾してるなーと思って、言い淀んでいると。 「でも、何?」  颯に聞かれて、ん、と口ごもる。 「……あの……そこまで、颯を好きな人、増やさなくて、良いからね……と」  もごもご言ってると、最後の方には、可笑しそうに笑ってるし。 「つか、オレ、中学ん時から、お前のことばっかだったし」 「――――」 「なんならその前はそういうのに興味もなんも無かったから。オレのそういうのは、慧にしか向いてないって」 「……」 「α同士だから、諦めて、他の子見ようとしてたけど。……慧がΩだったら、中学ん時から、迫ってたと思うよ。……つか、運命。信じてろよ」  もうオレは、ただコクコク頷いて、むぎゅと颯に抱き付く。    好き。颯。  ――――……アホみたいに張り合ってた前のオレにも、よく颯の視界に入りに行ってたなっと、今となっては褒めてやりたい。 (2024/4/27)

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