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第181話 αさま
ひえー!!
と。心の中で、大きく叫びながら、なんとか辛うじて、表は叫ばず。
……颯には、つかまってるけど。
めちゃくちゃ、たくさんのドッキリとびっくりを、何とかクリアした。颯にポンポン、されながらだったけど。……なんか笑われてたけど。
もうすぐ出口な気がする。ちょっと明るくなったし! はー良かった、と、ほっとしてご機嫌になったオレは、握り締めてた颯の服を離した。
「もういいの?」
クスクス笑う颯に、笑顔で頷く。ただ、出口に続く通路の両脇に、かなり怖い絵がずらっと並んで飾ってあって、わー、最後まで怖いねー、とか、颯に言いながら、でも少し余裕で、絵を見ながら歩いていたら。
ふっと絵が動いて、声にもならない声をあげながら。額縁から、ぐわっ!!と出てきた。
「―――― !!!!!」
悲鳴が声にならない。
ちょ、これ、オレが心臓弱かったら、
マジで、死んでるからな……!!!!!
オバケは、オレが驚いた時点で、すーっと引いて、額の裏側に戻っていたのだけれど。
涙目で、オレが、通路の反対側に張り付いてると。
颯が振り返って、オレの所まで来てくれて。
「慧……」
肩を抱かれて引き寄せられて、そのままぽんぽん、と頭を撫でられる。
「可愛すぎるんだけど、お前」
きゅ、と抱き締められて、ちゅ、と頬にキスされた。
その顔が、あんまり、優しいので、かなり癒された。
バカみたいにウキウキ入ったら予想外に怖すぎて、最後、涙目だったオレだけど。……まあいっか。なんて思いながら。颯に連れられて、今度こそ、外に向かって歩いてると。
何やら、通路のすぐ脇から。
「……αさま、超かっけーな」
「αさま、一度もビビんなかったって。超推せる―」
「嫁、かわいー」
クスクス笑いながらのそんな声が聞こえてきて。
……αさまって、颯のこと? 嫁ってオレ?
颯がカッコいいのはそうだけど。
オレはビビり倒していただたけで、全然可愛くはない。
なんて思いながら、やっとのことで、お化け屋敷脱出。
廊下、明るい! 日の光、ありがとう、なんて思って、ついニコニコしてしまっていると。
颯が、ふ、と笑う気配に、顔を上げる。
「――――こっちまで笑顔になる」
そんな風に言って、颯が優しく笑う。
……今の颯の笑顔が、オレを見てそうなったっていうなら。
オレ、お化け屋敷入って良かった、よくやった、と、そう思ってしまうくらい。
笑った顔、良すぎて。
思わず呆けて、見つめてしまっていると。
廊下で並んでる人達が、わー、と颯を見てる。
……颯って。立ってるだけで目立つのに。こんな顔で笑ってしまうとほんとやばいと思う。
オレは颯の腕にくい、と引いて、歩き出した。
「颯、皆のとこ、戻ろ?」
「ん? あぁ、いいよ」
「結構ゆっくりしちゃったもんね、早く帰ろ」
「そうだな」
くす、と笑って、オレの隣、歩いてくれる。
イケメンコンテスト、他の候補者も、こんなに見られてるのかな。写真だけ見ると、まあそりゃ皆自薦他薦であがって来てる人達で、なかなかイケメンな感じはあったような……? ただ、ポスター見るたび、ついついすぐ颯を見ちゃうもので、そういえば、横に居る人達、全然ちゃんと見てないかもしれない。オレってば、どんだけだ。
どんな奴が相手か、ちょっと見てみたいかも。あとで昴とかと、偵察に行こうかな~。
……颯は置いてこ。見られすぎだから。宣伝、十分だよね、うん。
颯、オレのだもん。そうしよ。
なんて、とてもあほなことを考えてるオレだけど。
颯は、オレを見つめて、めちゃくちゃ優しい。
その顔もなあ。歩いてると、見られちゃうんだよな。
……昔はすましてるとか思ってた、あのクールな感じは今は無い。……あれはあれでカッコよかったけど。
「ん?」
また、にこ、と微笑まれる。
――――……うん。好き。颯。
オレは好きなのだけれど。
周りの人まで好きにさせなくていいから。
イケメン投票とか、じつは結構、独占欲感じちゃうものなのかもしれないと。今更ながらに思うオレ。
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