213 / 214
第211話 颯の好きなところ
「ではでは! 読ませて頂きます」
そう言って、さっきの紙をひろげる女の子に、もう一人の子がマイクを差し出す。
「ドキドキですね、颯さん!」
司会者がそんな風に颯に話しかけてて、そうですね、なんて颯が笑う。
いやいや、一番ドキドキなの、オレだから!
なんか、異様に静かになる会場。
……わー。そんなに真剣に聞かないでほしいんだけど……。颯は、読もうとしてる女の子二人の向こうで、こっちを向いて立ってる。
「颯は、ルックスもいいし、なんでもできて、本当にカッコいいと思うので、推薦したいのですが。もう一つ、推薦の理由があります。
颯を知る人は、颯のことをクールとか、ちょっと怖いとか、言うことがあるんですけど……颯は、周りのことをよく見て、人を大事にしてて、あったかくて――あと、なんかたまに可愛い時もあったりして。
オレは、ただカッコいいだけじゃなくて、颯のそういう優しいところが大好きなので、このコンテストで、皆の前でそれが少しでも伝わったらいいなと思ってて――それも推薦理由です。
実行委員さん、颯のいいとこ、ステージで、引き出してくれたら嬉しいです。よろしくお願いします」
文章を読み終えた女の子は、「以上です」と微笑んだ。
ひええー恥ずかしいかもしれない……! ていうか、どこを見てていいか分からなくて、自分のつま先をじっと睨んでたオレは、顔を上げられないまま、固まっていた。
「本当は、推薦者の推薦理由は、発表しないんですけど、颯さんのさっきのコメントを聞いたら、どうしても、発表したくなっちゃって。慧さんにお願いして、許可をもらいました。慧さん、最初はめちゃくちゃ恥ずかしがってましたが、なんとかオッケイ頂いたので、発表しましたー」
「颯さん、どう思いますか?」
「さきほど颯さんが言ったこと、慧さん、いろいろ書いてますね」
司会者たちの言葉に、珍しく、颯が、ずっと黙ってる。
え。……なんか、まずかった……??? へんなこと書いたかなオレ。
ドキドキしながら、自分のつま先から顔を上げて、颯に視線を向けると。
「なんか――言葉にならない、ので。マイク、いいですか」
「え? あ、はい」
司会者の人に、マイクを渡した颯が「慧」と手を広げた。「え」と思ったのだけれど。なぜか、自然と引き寄せられて、颯に近づくと、むぎゅ、と抱き締められた。
「――ありがと」
それは、オレにしか、聞こえない声だったと、思うんだけど。
抱き締められた瞬間から、なんだか異様に盛り上がってる会場。
音楽が鳴り始めて、ライトまでぐるぐるまわってるし、さっきのシャボン玉まで、飛び出した。
ステージ上にいると、観客の声、余計聞こえるのかも。こんなとこで、いろいろしてたの、すごいなぁ。とか、ぼんやりと思っていたら。
「慧」
笑顔の颯に、ちゅ、と頬にキスされて。
ひええーーーと真っ赤になったところで、もうぎゃーぎゃーと会場が沸いてる。
ていうか、絶対、屋台の皆がうるさいと思うのだけど。でも会場全体から拍手と歓声。
皆、面白がってるに違いない。
それから、颯が優勝者スピーチなんかしてたりしたけど、ずっと隣に居させられたせいで、正直、何言ってたか、全然聞き取れなかった。
ぽわぽわしたまま、ステージ上で、記念撮影。何故かオレも颯の隣に入れられて。なんだか大騒ぎの中、イケメンコンテストは、終わった。
ステージを下りて、実行委員や司会者の人達が颯に挨拶したあと、オレに向かって、「盛り上げてくれてありがとう」なんて言ってたけど、オレが盛り上げたわけじゃないし、と思いながら、なんとなくやりとりして、別れて、颯と二人になった。
周りは、バタバタ片付けに入ってる実行委員の人達が居るだけ。
颯とオレは、向かい合って、顔を見合わせた。
「慧、ぼーっとしてる?」
「……うん。なんか最後の方はもうずーっと、ぼーっと……」
颯は、ふ、と微笑むと。
「慧」
むぎゅ、と抱き締められた。
――颯の。匂い。ほっとする。ぎゅ、と颯の背中の服を掴む。
「慧と結婚してたおかげで、優勝しただろ?」
「……でも、一番は颯が、カッコいいからだけど」
「慧といるから尊いって、そんなコメントがすごかったって、聞いた」
「――そうなの?」
「ああ。結婚しててよかったな?」
クスクス笑って、颯がそんな風に言い、腕の中のオレを見下ろす。
目が潤む。
「――うん」
頷いた瞬間、ちゅ、とキスされて。
そのキスに浸る間もなく、「あー居た!!」と、聞き覚えのある声がたくさん近づいてくる。
「こんなとこでイチャついてないでくださいよ」
「ほらほら、いくぞー」
「そうだよ、早く店いって、打ち上げ―!」
「颯、おめでとー!!」
途切れることなくめちゃくちゃ騒がしい皆に、颯と顔を見合わせて。
ふ、と笑いが零れた。
ともだちにシェアしよう!