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第211話 颯の好きなところ

「ではでは! 読ませて頂きます」  そう言って、さっきの紙をひろげる女の子に、もう一人の子がマイクを差し出す。 「ドキドキですね、颯さん!」  司会者がそんな風に颯に話しかけてて、そうですね、なんて颯が笑う。  いやいや、一番ドキドキなの、オレだから!  なんか、異様に静かになる会場。  ……わー。そんなに真剣に聞かないでほしいんだけど……。颯は、読もうとしてる女の子二人の向こうで、こっちを向いて立ってる。 「颯は、ルックスもいいし、なんでもできて、本当にカッコいいと思うので、推薦したいのですが。もう一つ、推薦の理由があります。  颯を知る人は、颯のことをクールとか、ちょっと怖いとか、言うことがあるんですけど……颯は、周りのことをよく見て、人を大事にしてて、あったかくて――あと、なんかたまに可愛い時もあったりして。  オレは、ただカッコいいだけじゃなくて、颯のそういう優しいところが大好きなので、このコンテストで、皆の前でそれが少しでも伝わったらいいなと思ってて――それも推薦理由です。  実行委員さん、颯のいいとこ、ステージで、引き出してくれたら嬉しいです。よろしくお願いします」  文章を読み終えた女の子は、「以上です」と微笑んだ。  ひええー恥ずかしいかもしれない……! ていうか、どこを見てていいか分からなくて、自分のつま先をじっと睨んでたオレは、顔を上げられないまま、固まっていた。 「本当は、推薦者の推薦理由は、発表しないんですけど、颯さんのさっきのコメントを聞いたら、どうしても、発表したくなっちゃって。慧さんにお願いして、許可をもらいました。慧さん、最初はめちゃくちゃ恥ずかしがってましたが、なんとかオッケイ頂いたので、発表しましたー」 「颯さん、どう思いますか?」 「さきほど颯さんが言ったこと、慧さん、いろいろ書いてますね」  司会者たちの言葉に、珍しく、颯が、ずっと黙ってる。  え。……なんか、まずかった……??? へんなこと書いたかなオレ。  ドキドキしながら、自分のつま先から顔を上げて、颯に視線を向けると。 「なんか――言葉にならない、ので。マイク、いいですか」 「え? あ、はい」  司会者の人に、マイクを渡した颯が「慧」と手を広げた。「え」と思ったのだけれど。なぜか、自然と引き寄せられて、颯に近づくと、むぎゅ、と抱き締められた。 「――ありがと」  それは、オレにしか、聞こえない声だったと、思うんだけど。  抱き締められた瞬間から、なんだか異様に盛り上がってる会場。  音楽が鳴り始めて、ライトまでぐるぐるまわってるし、さっきのシャボン玉まで、飛び出した。  ステージ上にいると、観客の声、余計聞こえるのかも。こんなとこで、いろいろしてたの、すごいなぁ。とか、ぼんやりと思っていたら。 「慧」  笑顔の颯に、ちゅ、と頬にキスされて。  ひええーーーと真っ赤になったところで、もうぎゃーぎゃーと会場が沸いてる。  ていうか、絶対、屋台の皆がうるさいと思うのだけど。でも会場全体から拍手と歓声。  皆、面白がってるに違いない。  それから、颯が優勝者スピーチなんかしてたりしたけど、ずっと隣に居させられたせいで、正直、何言ってたか、全然聞き取れなかった。  ぽわぽわしたまま、ステージ上で、記念撮影。何故かオレも颯の隣に入れられて。なんだか大騒ぎの中、イケメンコンテストは、終わった。  ステージを下りて、実行委員や司会者の人達が颯に挨拶したあと、オレに向かって、「盛り上げてくれてありがとう」なんて言ってたけど、オレが盛り上げたわけじゃないし、と思いながら、なんとなくやりとりして、別れて、颯と二人になった。  周りは、バタバタ片付けに入ってる実行委員の人達が居るだけ。  颯とオレは、向かい合って、顔を見合わせた。 「慧、ぼーっとしてる?」 「……うん。なんか最後の方はもうずーっと、ぼーっと……」  颯は、ふ、と微笑むと。 「慧」  むぎゅ、と抱き締められた。  ――颯の。匂い。ほっとする。ぎゅ、と颯の背中の服を掴む。 「慧と結婚してたおかげで、優勝しただろ?」 「……でも、一番は颯が、カッコいいからだけど」 「慧といるから尊いって、そんなコメントがすごかったって、聞いた」 「――そうなの?」 「ああ。結婚しててよかったな?」  クスクス笑って、颯がそんな風に言い、腕の中のオレを見下ろす。  目が潤む。 「――うん」  頷いた瞬間、ちゅ、とキスされて。  そのキスに浸る間もなく、「あー居た!!」と、聞き覚えのある声がたくさん近づいてくる。 「こんなとこでイチャついてないでくださいよ」 「ほらほら、いくぞー」 「そうだよ、早く店いって、打ち上げ―!」 「颯、おめでとー!!」  途切れることなくめちゃくちゃ騒がしい皆に、颯と顔を見合わせて。  ふ、と笑いが零れた。

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