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【序章】レティシアの黄金(3)

 ふぅ──漏れる吐息。 「やはり美しい……」  小さな小さな囁きは、この場でアルフォンスの耳にしか届かなかったろう。 「……もう一度言ってみろ」  王の手を振り払い右手を腰に添えてから、剣はグロムアスの兵に預けたのだったと唇を噛む。  拳を握り足場を固めるも、戦場の宿営地とは思えない毛足の長い絨毯に足を取られてしまった。 「陛下、お怪我はございませんか」  停戦交渉の主役が突然みせた攻撃性に、天幕の中はざわついた。  アルフォンスの背後の忠臣は主君に一歩近づき、それから慌てて身を引く。  カイン王の脇に控えていた髯面の軍人は慌てた様子で剣を抜いた。  不要だというように王に手を振られると、ぎこちない動作で鞘に収める。  すみません。レティシアの王弟殿下に失礼でしたね──軽やかな調子でカインが微笑する。 「それより相変わらずのようだ、あなたは。少し気が短いところも変わっていないようですね」  低く深い笑い声はカイン王のものだ。  こんなときでなければ、その声は耳に心地よく響いたに違いない。

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