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02真の主人公登場
何故彼が俺の屋敷にいるのかというと、話は少し前に遡る。
俺が毎朝のルーティンをこなしていると、結界の向こう……森の奥から誰かの声がした。
結界を念入りに保護して森の奥へと向かうと、空腹で倒れているアルビオンがいたので保護した。
屋敷に連れ帰り、マチルダに彼の分の食事を作ってもらうと、アルビオンはしばらくこの屋敷で使用人として働きたいと言った。
旅の最中、路銀が尽きたらしい。
スヴェンは俺が安易にアルビオンを連れ帰ったことに怒っていたものの、自身が王宮に行っている間に手薄になる俺の屋敷の心配もしていたらしく、アルビオンの剣の腕を確かめた後で結局許可を出した。
その後、スヴェンは屋敷にいる時はアルビオンにも剣術を叩き込んでいる。
こんな経緯だが、世界を救う大英雄が現れたことで、魔王の存在も濃厚になってきた。
俺たちはそこを心配している。
特に、魔王が仕掛けてきた場合に真っ先に狙われる可能性が高いラスティル国王に特別な感情を抱いているスヴェンは、最近空気が張りつめている。
「ではヴァニタス様。私はそろそろ王宮に向かいますので此処で失礼します。…………アルビオン、ヴァニタス様の護衛を頼む」
スヴェンはそう告げると、スピルスの作った透明になるマントを被ってアッシュフィールド本邸側の井戸へと向かっていった。
「あれもスピルス様の魔法か何かなの?流石は賢者様。凄いねー」
「うん、スピルスは凄いよ。時々、何で俺なんかが相手にしてもらえてるのかなぁ……って思っちゃうくらい」
13歳になったスピルスは流石に王宮にいる時間が増えてしまったが、それでも時間ができれば屋敷を訪ねてくる。
同じくユスティートも地下通路から屋敷に侵入して、ちゃっかりマチルダのお菓子を食べていたりする。
「えっと……それは、まぁ、俺から言うのも野暮な気がするけどねー。とりあえず、ヴァニタスが嫌だって言ってもスピルス様はヴァニタスを手放さない気がするよー」
「うーん……何か同じことをたまにメモリアにも言われるんだよなぁ……そうだ! メモリア!」
これから地下水脈に向かってメモリアの所に行く予定だった。
「これから地下水脈のメモリアのところに行くけど、一緒に行くか?領域の維持と強化の為に歌いながら行くから、話し相手にはなってやれねぇけど」
「うん、行く。俺ね、ヴァニタスの歌声が好きなんだよねー。繊細なのに力強くて、綺麗なのに芯がしっかりしてて」
「は、はは……」
転生直後に言われてたら、恥ずかし過ぎて死ぬ死ぬ大騒ぎしてたけど……流石に慣れたな。
『プロミスド サンクチュアリ』を歌いながら、地下水脈へと足を運ぶ。
この歌にも、こんなに長い間世話になるとは思わなかったな。
「メモリア、おはよう」
「メモリアちゃん、おはよー。今日も可愛いねー」
「ヴァニタスおはよう。今日はアルビオンも一緒なの?珍しいわね」
「ヴァニタスが早起き過ぎるんだよー。使用人より早起きの主人なんて信じらんなーい」
「…………あんたはせめて主人より早く起きる努力をしなさいね、アルビオン」
メモリアに挨拶をすると、花かごをアルビオンに渡し、歌いながら湖付近を散策する。
緊急避難用の魔法陣が稼働しているか手を触れて確かめ、ふとメモリアとアルビオンの方を見ると、2人は軽い言い合いをしながら花かごのお菓子を楽しんでいた。
実に平和な光景である。
あくまでも、パッと見た感じは。
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