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終幕

 ユスティートは無事、ウィリディシアとの婚儀を迎えた。  あの事件後にウィリディシアが川辺千紗だと知ったマドリーンは感激のあまり泣きじゃくっていた。  泣きながら「今度こそ幸せになってね」と呟く義母マドリーンを、父ナイジェル・アッシュフィールドが支えていた。  そんな2人を、離れたところから見守っていたのが、アレクシス・ピンコットとノア・マードック。  涙ぐむアレクシスにノアがそっとハンカチを差し出していた。  マドリーンはアッシュフィールドの屋敷に戻った。  今はナイジェルと仲睦まじく暮らしているらしい。  もしかしたら俺とシルヴェスターの弟が産まれる未来もあるのかもしれない。  マチルダは王宮の俺の居住区でメイドとして働いている。  レイチェル、パトリックの姉弟とも上手くやっているようだ。  アルビオンは一足先にラスティル王国を旅立った。  誘拐事件を起こした以上、ラスティル王国の民に顔向けできないということらしい。  そんなアルビオンに、シルヴェスターが同行した。  父ナイジェルとは揉めたようだが、シルヴェスターは一歩も引かなかったらしい。  最終的にはナイジェルが折れざるを得なかったようだ。  俺は結界を張り、維持強化する為にラスティル王国中を飛び回っている。  同行者はスピルスとセオドア。  護衛にジェラルドと柚希とソルティード。  セオドアが加わったことで結界がより強化された。  反対派はまだ存在するが、アレクシスとノアが抑えている。  スヴェンはユスティートとウィリディシアの護衛をしている。  時々顔を見せに行くと喜ぶ。  やっぱり俺の育ての父はスヴェンだ。  アッシュフィールド家の離れ屋敷には時々足を運ぶ。  無人になった離れ屋敷の維持管理の為と、メモリアに会いに行く。  最近はメモリアも維持管理を手伝ってくれるようになった。  全ての結界が張り終わる頃には、スピルスは18歳を超えているだろう。  身体を重ねる日も近いかもしれない。  その後、スピルスは柚希と共にアルビオンを追って旅立つ。  前世の心理学知識を使って、魔王である森野響哉を癒やす……そう決めたらしい。  魔法師団長の後任にはディアドラが就く。  彼女は優秀な魔法師だ。  問題はないだろう。  結界を維持しなければならない俺はラスティル王国を離れられない。  俺はスピルスの故郷を、帰る場所を守ると決めた。  森野響哉を癒やす……簡単にはいかないだろう。  彼の傍にはライラがいる筈だ。  それでも、俺はスピルスを止めない。  彼がそう決めたのなら、全力で応援する。  今、俺は7歳から今までの俺たちの歩みを書き留めている。  私小説という奴だ。  何故なら、今の俺に書ける最高の恋愛小説がこれだからだ。  スピルスとの恋愛が、今後どうなるのかはわからない。  もしかしたら、スピルスは旅に出たまま帰らないかもしれないし、途中で俺とは違う恋人を見つけるかもしれない。  それでも良いと思っている。  必死に恋をした。  怒った。  泣いた。  叫んだ。  それら全てが、今の俺にとっては最高の宝物だ。  俺のモラトリアムはいつの間にか終わっていた。  それでも俺は、何かしらの物語を書き続けるだろう。  もしかしたら、第2、第3の天塚隆斗や乙村直澄を生み出すかもしれない。  けれど、それをも覚悟の上で。  俺……ヴァニタス・アッシュフィールドは、これからも物書きライフを満喫します。 End.

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