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資料室ではお静かに

 しまった、完全に閉じ込められた。    資料室の中にある、さらに狭い資料部屋に寄った先輩と俺。ようやく用を済ませ、狭い部屋の扉を開けようとしたが。 「待て、開けるな。誰かいる」  先輩の言動に、扉の向こうに耳をすませば、営業部の新人社員の喘ぎとその部長の喘ぎがこだまする。確か営業部長は既婚者だったはずだ。まさか不倫行為を目の当たりにするとは。 「修羅場に巻き込まれるのはごめんだ。終わるまで隠れるぞ」  先輩が扉に設置された小窓越しに資料室を伺う。行為が終わるタイミングを計らっているようだ。しかし、その先輩の姿勢で俺は、すっぽりと腕の中に閉じ込められた。先輩の匂いがより強烈になる。ブランド物のどぎつい香水、煙草の匂いが鼻を直撃する。大嫌いな匂いだが、大好きな先輩の匂いでもある。新人社員の喘ぎに合わせて、頭上に先輩の吐息がかかる。ミントの匂いから微かに残る煙草色の吐息。耳を攻撃する気持ちよさそうな声色と合わさり、下半身が熱くなっていることに気づく。 「っあ」  なに感じてんだ馬鹿。先輩に童貞だってことがバレるだろ。 「おい、大丈夫か」  心配の声と同時に、口元を大きな手で押さえつけられる。  更にミントと煙草の匂い脳に直撃する。  やだ……先輩……やめて。  腰が引けてしまう。ズルズルと倒れ込みそうなところに、股を先輩の膝で受け止められた。 「んん、っああ!!」  俺と扉の向こうの新人社員の絶頂は同時だったらしい。 「俺の匂いだけでイクとか、とんだ変態だな」  押さえられた手が離れる。掌に付着した俺の唾液を、先輩は妖艶に舐め取った。 「せ……先輩……もっと」  今度は唇と舌が俺を出迎えた。二人の間に流れる吐息は、ミントとうっすらの煙草をのせていた。  資料室からはもう人の気配がしない。それでも、この狭い部屋から出ようと言う選択はなく、ただ先輩を求めることしか考えられなくなった。

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