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第十四章 2

「ああ、隣にいる」  僕はほっと息を吐いた。  ちっと樹が舌打ちをするのが聞こえた。続いてぼそっと呟く。 「あいつら……誕生日だっつーなら、二人で出かけろよな」 「えっ? なんで? みんなでお祝いしたほうが楽しいよね」  一人言だったのかも知れない。でも僕はそれに答えてしまった。  上からまじっと見下ろされる。 「だって、水族館だぜ」 「うん」 「…………」  樹が言わんとしてることがよくわからない。 「ナナ……ずっとそのままでいろよ」 「んん?」  更にわからないことを言われるが、樹はそれについては何の説明もしない。  よくわからないまま、僕の身体は後方へと向きを変える。人混みの中を一歩踏み出そうとして。 「ちょっ、待てっ。どこ行くんだ」  樹に腕を掴まれ、吃驚して立ち止まった。 「どこって、大くんたちのところだけど?」  内心どきどきしながら答える。 「逆走してどうするんだ、潰される」  もちろん特に進行方向が決まってる訳でもないのだが、こう人が多いと流れは決まってくる。樹の言う通り、二人とは距離もあるのでそこまで行くのはかなり辛いかも知れない。 「ちょっと待って」  僕の腕を離してスマホを弄り始める。  ピコンっと送信すると、明のほうに顔を向け頭上で軽く手を振った。僕も同じ方向に目を向ける。明が両手で大きく丸を作っているのが見えた。 「なに?」 「昼ご」  僕らくらいの年頃の女子の騒がしい集団に囲まれ、樹の低い声が掻き消される。 「え?」  ちょっと背伸びして少しでも聞き取ろうとすると、樹が屈んで近づいてきた。僕の耳の後ろから囲むように手を置いて、口を近づける。  そう、内緒話をするような仕草だ。 「ひ・る・ご・ろ・ごう・りゅう・す・る・こ・と・に・し・た」  聞き取り易くするためか、一つ一つ区切って伝える。  なんだか酷く擽ったい。  いっくん、なにっ、近いよ近いよ。  これってなんだか。  恋人同士がするみたいだ。  なんて馬鹿なことを考えて、かーっと顔が熱くなる。言葉で答えることができずに、うんうんと大きく頷いた。  僕だけがそんなふうで、樹はすっと離れ先を歩き始める。  それを見た途端酷く寂しくもなったが、冷静にも慣れた。  ほんと、バカだな。   ★ ★  少し胸に残った寂しさも、二人で水族館内を回っているうちに次第になくなっていった。  樹は相変わらず言葉少なだけど、すごく自然な形で隣を歩いていられているような気がした。  二人で頭を突き合わせて小さな小窓を覗き込んだり、水槽の下を(くぐ)って頭上を泳ぐ大きな魚を眺めたり。  樹の表情は余り変わらないけど、それでも楽しんでるのがわかる気がした。    

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