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第二十六章 3
『新しいクラスどう?』
『別に……』
『まあ』
『お前らいなくて静かだな』
『変な奴らも近寄ってこない』
『ナナはどうなんだ?』
『うん、大丈夫』
『ほんとに?』
『ほんとはめちゃめちゃ不安』
『でも頑張る』
★ ★
『勉強どう?』
『まあ、なんとか』
『放課後の講習申し込んだ』
『塾行くの難しいから』
『そうなんだ、教えてあげられたらいいのに』
『ナナに追いつくのに、ナナに手助けして貰うのは違うと思う』
★ ★
樹らしい短いメッセージの遣り取りだけど、返信が来るだけ嬉しかった。
いくらメッセージを送っても返信が来なかったあの時間に比べたら。
樹は受験に向けて高校内で放課後に行われる講習に申し込んだ。父親の望んだ道を進まない彼に、父親は塾も行かせてくれないのだろう。それに樹自身も父親の世話になりたくないと思っているはず。
講習は学期の初めに申し込むことが出来る。放課後毎日あり、最終下校時間まで何人かの教師が見てくれ、やりたい教科を勉強することが出来る。
(いっくん……頑張ってるんだなぁ)
本当は僕が教えてあげたいと思っているので、そこは寂しい。
でも『樹だから』仕方ない。
(一か十か……いっくん、そこは早く直してよ~っていうか、直すって言ったじゃん!)
★ ★
『もうすぐ体育祭?』
『来週の木曜』
『かったるい』
『そんなこと言って、今年は頑張るんでしょ?』
『行きたいなぁ』
『平日じゃん。保護者のみだし』
『でした!』
『またファン増えちゃうな~』
『ばっかじゃないか? そんなわけねぇ』
★ ★
『そんなわけねぇ』って言うけど、そんなわけはある。二年の時の体育祭で一気にファンが増えて、もやもやしちゃったことを思い出す。
昨年は行事には全く姿を現さなかった。
(いっくんのかっこいい姿、また見たかったなぁ)
でも、またもやもやしてしまうかも知れない。
その中の誰かとつき合い始めたとしても、僕に何を言う権利もない。
『親友』という座が、嬉しくも切ない。
ずっと一緒にいるということは、いつかそんな日が来るとういうこと。
(その時僕は……どうするだろう……)
★ ★
『七星~お誕生日おめでとー』
『ありがとう、大くん』
『ななちゃん~はっぴーばーすでー♡』
『メイさん、ありがとうございます』
七月三十一日の零時を回り、二人から送られてきたメッセージ。
三年間僕の家に来てくれた二人も今年は都合がつかず別日になった。
大地は本当に練習が忙しいらしい。夏休みの今は合宿に参加している。
明は長期休みだけ『BITTER SWEET』でバイトを続けることにした。「樹が戻って来るまでだよー」と彼は言っていた。
樹は無事大学に合格するまではバイト復帰を保留して貰っている。
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