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「陛下、イッサイは子猫なのです」 「たわけ。大人の男を捕まえてなにを申しておるんじゃお主。城の連中に今のやり取りを見せれば皆気でも狂ったかと神殿に殺到するじゃろうて。巨躯の獣が成人相手にかぶりついて舌なめずりじゃぞ? 隠し子にしても育ちすぎじゃ」 「はて。己はニャオガ族故に、西大陸語はわかりませんな」 「ほ〜う? ではお主が今ベラベラと喋っておるのは何語じゃろうかの〜う」  皇帝にチクチクと刺されるジェゾは、涼しい顔で言い訳を並べて視線を逸らす。それも珍しいと弄られては知らん顔している。  一斉にはピンとこない。  廊下でのこともだが、ジェゾは普段そんなにクールなのだろうか?  ジェゾは一斉に対していつでも優しく触れて舐め、時に噛みつく。  本人も自然に行うので普段からこうだと思っている一斉は、ジェゾの好きなようにしてくれて構わなかった。問題なしだ。  そう結論づけた一斉は、ズイと一歩前に出て「皇帝陛下」と声を上げた。 「ほ?」 「俺は、佐転(さてん) 一斉(いっさい)。です」 「ほう」 「…………」 「…………」  シン……と沈黙がおりる。  挨拶は終わりだ。名前を言った。人生でほぼ使ったことのない敬語も使った。これ以上言うことはない。  一斉が黙って皇帝を見つめ続けると、見つめられた皇帝はジェゾに「これがこの男の精一杯なのか?」と尋ね、ジェゾはコックリと深く頷いた。  皇帝は額に手を当てる。  もちろんその間も一斉は無言で反応を待ち続けている。 「なるほどのう。これであの組織の召喚者から捨てられたというわけじゃな……イッサイ、ちこう寄れ」 「はい」  しばし間を置き、気を取り直した皇帝に手をこまねかれ、一斉は静かに皇帝のそばへ歩み寄った。  目の前にたどり着き跪こうとすると、口調も態度も楽にするよう指示される。  背の高い一斉が立ったままだと、座っている皇帝を見下ろす形になる。  それでも皇帝のほうが大きい。  本能で皇帝の本質を感じた。話し方も話す内容も掴みどころのない男だが、舐めてかかると痛い目にあうだろう。きっと強い。  皇帝の金色の目が、全てを見透かすように一斉の姿を映し出す。 「無礼は問わぬ。ただ一つ……嘘偽りなく、答えるんじゃぞ?」  頷くと、ニンマリと意図の読めない笑みを浮かべながら手を取られた。  抵抗はしない。  金色から目をそらさずに見つめる。皇帝が一斉から目をそらさないからだ。 「……ふ。よい。では聞こうかの」  ──それからいくつか質問を重ねた。  皇帝は「この国や国民に害意はあるか?」など、わかりやすい質問からひっかけた質問まで事細かに尋ねる。  質問の意図などわからないが、皇帝を強者と定めた一斉は従順に、嘘偽りなく思うがまま答え続ける。  ジェゾの反応と皇帝の反応。  気にかけるべきはそこだけだ。隠すものも守るものもない。  そうして一斉が質問に答え続けて、しばらくが経った頃。 「ほほほほっ! お主ワシを〝おとぎ話の王さま〟じゃと思っておったのか! 事実皇帝のワシにおとぎ話……ほほっ、なぜじゃ?」 「だって陛下……金髪で髭だろ。王さまは、金髪で髭じゃねぇの」 「ぶはっ! 金髪で髭が皆王さまじゃと? イッサイの感性は幼児とまるで変わらんのう!」  どういうわけか皇帝は話すうちに一斉の反応がツボに入ったらしく、時に声を上げるほど笑っていた。

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