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第34話

 ぐちょぐちょと音を立てながら、金花――いや、キツラが俺の上で動いている。腰に跨り、いつも以上に滾っている逸物をあっという間に自らの尻へと差し込んだキツラは、膝を使って小刻みに、ときに大きく上下に動いた。  伽羅の香りだけで子種が吹き出しそうになっていた俺が淫らな動きに耐えられるはずもなく、最初のひと突きでキツラの中に子種をぶちまけてしまった。そんな俺をニィと見下ろしたキツラは、まだこれからだと言わんばかりに子種を吐き出している俺の逸物を熱くぬかるんだ中で擦り続けた。こうして俺は子種をこぼしながらも、さらに逐情を促されるという拷問にも似た法悦を延々と受け続けることになった。  さすがに四度目ともなると子種の量も少なく、逸物の感覚もおかしくなってくる。そんな俺にニィィと笑んだキツラは、自分の右手人差し指を牙で噛み、血の滴る指を俺の口に突っ込んだ。 「何をす、ん、ん――!」 「ふふっ、さぁわたしの血を食らって。そうすれば……、ほら、あなたのここは、すぐに逞しくなって……。ぁん、すごく深くまで、あなたを感じる。ふふ、どくどくとして、筋まではっきりして」 「んぅ、っ、キツラ、ちょっと、待て……っ」 「いいえ、待たない。あなたの精はすべてわたしのもの。ふっ、ふふ、あぁ、また奥に、あなたの精が……あぁ、()い」 「ぐ……ぅっ!」  血を食わされたためかキツラの中で再び逸物が滾ったが、すぐさま搾り取られてしまった。  肉壁にぎっちりと絡みつかれ、まるで揉まれているような感覚に腰がびくびくと跳ねる。わずかに跳ねるだけで先端がキツラの奥にぶちゅうとぶつかり、それがひどく気持ちいい。子種を吐き出している最中だというのに、あっという間に逸物に力がみなぎってきた。 「ふふっ、なんて逞しい……。あぁ、もっと、もっと精をわたしの中に……」  キツラが腰を揺らすせいで、最後の一滴まで子種を搾り取られた。それでも俺の逸物はまったく衰えることもなく、またもや熱い肉に絡みつかれ、絞られ、玉までもが一気に迫り上がる。 「乳首まで、こんなに尖らせて。ふふ、弾くと中でぴくりと動いて、かわいいこと」 「くっ、……っ、やめ、……っ」  腰を緩やかに回しながら、キツラの爪がぴんぴんと俺の乳首を弾き始めた。ただでさえ尖って敏感になっているというのに、爪で弾かれ、摘んだり引っ張られたりされてはたまったものじゃない。次第に乳首がじんじんとし、胸全体がじんわりと熱を帯びてきた。 「姫君は、こんなこと、……ん、しない。あなたの熱く、逞しいものを……んぅ、慰めながら、胸まで、かわいがれるのは、んっ、わたしだからです。……あぁ、また精が、奥に……。びゅうびゅうと、あぁ、()ぃ……」  両方の乳首を摘み、きゅぅと引っ張る。時折り爪でぴんと弾いたりカリカリと引っ掻いたりと、キツラはしつこいまでに俺の乳首をいじった。左のほうがぬるりと感じるのは、血の滴る右の指でぐりぐりと摘まれているからだろう。  あまりのことに俺の腹から上はぶるぶると小刻みに震え、腰から下はかくかくと上下に揺れていた。傍から見れば、何ともみっともない状態になっているに違いない。わかっていても体は俺の自由にはならず、ただキツラに絞られ続けることしかできなかった。 (これは、酒精よりも、ひどいな)  ぼんやりとしていた頭は、いまやほとんど酩酊しているような状態だ。これも伽羅香のせいか……いや、何度も子種を搾り取られて血の気が薄くなっているのだ。こうなると何も考えられず、ただ逐情の心地よさに身を任せることしかできない。 「カラギ、わたしのカラギ。ぁん、まだこんなに、逞しく……。ん、んふ、カラギ、カラギ」  己の流す指の血に反応しているのか、キツラはうっとりした顔で腰を動かしながら血の滴る指を口に入れ、ぴちゃぴちゃとしゃぶっている。  真っ白な肌を薄く染め、顔をとろりと蕩けさせた美しいキツラ。額の角も、ちらりちらりと見える小さな牙も、血に濡れた紅い唇も、暗闇の中で炎が揺らめくような不思議な色合いの目も、すべてが恐ろしく、そして美しかった。  この美しい鬼は俺のものだ――そう思った瞬間、ぶわりと体の熱が上がった気がした。 「んっ、カラギ……?」  熱が上がったことに気づいたのか、キツラが指をぺろりと舐めながら俺を見下ろす。  あぁそうじゃない、おまえが舐めるべきは己の指ではない。食らうべきはおまえ自身の血ではなく……。  がじり。  あれほど動かなかった右手を持ち上げ、手首を思いきり齧った。ぷしゅっと血が吹き出し、鉄臭い匂いに眉が寄る。  これは俺が食らうべきものじゃない、これはキツラのものだ。そう、俺が食らいたいのはもっと芳しく甘い、キツラの……。 「カラギ、血が……。あぁ、どうしよう、そんなに血が……。いけない、いけない」  腹の上で動きを止めたキツラが、困惑した目で俺の手首を見ている。駄目だといいながらも真っ赤な舌は何度も唇を濡らし、はぁはぁと震えるような息がひっきりなしに漏れていた。それでも手に取らないのは、ここで血を食らえばもう戻れないとわかっているからだろう。  だからこそ、俺の血をたっぷりと食わせたいと思った。そうして本来の鬼のままのキツラと体の奥深くで交わりたい。血も精もたっぷりとキツラの中に注ぎ込みたい。そうだ、俺の血をたっぷりと食らうがいい。 「キツラ、俺はおまえのものだろう?」  そう言って差し出した右手を、キツラが恐る恐るといったふうに手に取った。眉を寄せて耐えるような顔をしながら、俺の手をそうっと持ち上げる。まるで大切なものを扱うような手つきに思わず笑えば、それが腹を揺らすからか「んぅ」とキツラが甘く鳴いた。 「俺はこれからもずっと、おまえのものだ」  俺の言葉に泣くように笑ったキツラは、たらりと滴る血を舐めとるように手首に舌を這わせた。ぺろりと舐められるたびに伽羅の香りが強くなる。舐められるたびに背筋がびりびりと震え、心地よい刺激が体中を駆け巡った。  俺もキツラも腰を動かしていないというのに、気がつけばキツラの中で俺はどくりどくりと子種を吐き出していた。 ・ ・ ・ 「さて、まずは(あずま)へ向かうか」 「お師匠のところへ?」 「また行くと約束したからなぁ。それに、師匠なら鬼に転じても鴉丸(からすまる)を使い続けられる方法を知っているかもしれないしな」  俺の言葉に金花がわずかに眉を下げた。まだ気にしているのだろうか。俺のほうはとっくに吹っ切れたし、このまま鬼へと転じるのが少し楽しみになってきているというのに金花のほうがよほど繊細だ。 「お師匠に、……退治されたりはしませんか?」 「そのつもりなら、この前行ったときにおまえは殺されていただろうな。いや、それならかばう俺も一緒に殺されていたか。太刀の師匠としてはこれほど頼れる人はいないが、鬼となったら恐ろしい存在になるなぁ」 「カラギ、」 「別にはぐらかしているわけじゃない。師匠が本気で退治しようと思っていたなら、そうなっていたということだ。おまえが鬼だということは知られていたからな」  おそらく師匠は、俺が鬼に近づいていることにも気がついたはずだ。御所での一件で金花が鬼であることは知られていたし、その金花を守ろうとした俺を見て何かしら感じ取ったはず。東国にいる間、俺はずっと鬼に転ずることを考えていたが、気持ちが太刀筋に出やすい俺を見てきた師匠ならいろいろと悟ったに違いない。  それでも何も言わなかったということは、師匠の中で金花は退治すべき鬼ではなく、俺のことも見守るつもりでいるのだろう。 「師匠は俺にとって父のような存在なんだ。だから、この道を選んだことを伝えておきたくてな」 「……そうですか」  それ以上、金花は何も言わなかった。  六条殿の屋敷から戻り、そのまま鬼に変化(へんげ)した金花と交わったとき、俺は金花の血を食らった。そうして金花は俺の血を食らった。しばらく俺の精ばかりで血を食らっていなかった金花は、泣きそうな顔をしながらも必死に俺の手首の傷に舌を這わせていた。血がほしい欲と傷を癒したい願いに翻弄されていたのだろう。もしくは、俺を鬼にしてしまうことへの罪悪感を感じていたのか。  あのとき俺は、はっきりと鬼へ転じたいという己の強い気持ちを感じていた。俺に跨りながら俺を案じる美しい鬼と同じものになりたいと思った。そう思いながら血を食わせ、俺自身も金花の指を濡らす血をしゃぶりながらの交わりは、これまで感じたことがないほどの悦楽をもたらした。  俺はもう、気持ちは鬼なのだろうと悟った。  それから三日後、二条の崇明(たかあきら)殿のことで御所へ呼ばれた際に、帝に都を離れる挨拶を申し上げた。気にかけていた崇明(たかあきら)殿が公卿になることを喜ばれているときに無粋だなと思いはしたが、母上共々随分と目をかけていただいた身だ。ひと言もないまま都を離れるのは気が引けたのでよかったと思っている。 「鴉丸(からすまる)は持って行くがよい」  ありがたくも帝に賜った言葉に、やはり俺は恵まれていたのだなと心から思った。  御所からの帰り、偶然にも内大臣に遭遇した。六条殿や崇明(たかあきら)殿のことで礼を述べると、ただ微笑まれ、これは餞別だと言って白檜扇をいただいた。  内大臣に都を出る話は一度もしたことがなかったはずだがと思いつつ見た檜扇は、俺が金花のために用意していたものとそっくりだった。檜扇は内々に俺が職人に作らせていたもので、女房たちでさえ知らないことだ。「なぜ内大臣が知っているんだ?」と驚いている間に、内大臣は去ってしまっていた。  そういえば御所を出る直前に、陰陽寮の架茂光榮(かものこうえい)殿とも顔を合わせた。  御所での鬼騒動以来、顔を見るのは初めてだったが、なぜか向こうは俺の顔を見た途端に逃げるように足早に去ってしまった。その際、ギョッとしたような表情のあと、見る間に頬を真っ赤にしていたが、あれはどういうことだったのだろうか。  光榮(こうえい)殿には師匠と同じように御所での出来事を見られてしまっていたが、その後、師匠が何かしらを言い含めてくれたおかげで鬼に関して呼び出されることはなかった。師匠が何と言い含めたのかは聞いていないが、……もしや、よからぬことをしたのではと過去のことが蘇る。 「師匠は偉そうにしている公卿や公達を組み敷くのが楽しいなどと、とんでもないことをしていたときがあったからな」  まさか光榮(こうえい)殿がその餌食になったとは思えないが、今後も師匠に訊ねることはやめておこうと思っている。  その後も屋敷の武士(もののふ)たちや女房たちに今後のことをあれこれと指示し、十日後には都を出る準備が整った。 「体には充分気をつけて」  最後まで母上は何か言いたそうな顔をしていたが泣き崩れることはなく、最後にこの言葉をいただいた。何も言ってはいないが、これが今生の別れになるかもしれないと、どこかで感じ取っていたのかもしれない。  金花が「たまには文や土地の物を送りましょう」と言っているから、完全に縁が切れることはないだろう。兄上たちのほうは最後まで関白家の子息がとうるさく言っていたが、そういう言葉も聞けなくなるのかと思うと寂しく感じるから不思議なものだ。  こうして俺と金花は都を出た。三日ほどは近くの寺を回ったが、雪が本格的に積もる前にと(あずま)へ向かうことにした。再びの二人旅もそうだが、新たな自分になるのかと思うと不安よりも楽しみに感じることのほうが強い。  俺自身はそんなふうだというのに、何かあるたびに金花は「そう急がなくても」と眉尻を下げる。 (これで鬼の王の兄弟だというのだからなぁ)  金花はあまり鬼らしくなく、むしろ俺よりも人らしいところを見せるようになった。これも人の世に出て、大勢の人を見聞きしてきたからだろうか。  仲間である鬼たちと接することなく山奥に棲み“山の高貴なる畏怖”と呼ばれていた美しい鬼は、いま俺の隣を歩いている。これからもずっと隣にあり、死ぬまで共にあることだろう。そう願っている俺は、これから少しずつ鬼へと転じていく。それが誇らしくもあり、この美しい鬼を永遠に手にできるのだという喜びも感じていた。 「もうすっかり寒くなったなぁ」 「雪が積もれば道も険しくなるのでしょうね」 「山側の道は大変だろうから、まだ暖かい海側を行くか」 「海……」  ぽつりとつぶやいた言葉に、前回海を見てはしゃいでいた金花を思い出した。 「さすがに冬の海には入れないぞ?」 「そのくらいのこと、わかっていますよ」  少し拗ねたように答えた白い肌は、気のせいでなければ薄桃色に変わっている。 「夏が来たら、今度は別の海に入ればいいさ」 「ふふ、そうですね」  ふわりと笑う金花にすぃと近づき、耳元に口を寄せて囁く。 「また海の中でかわいがってやる。子種と一緒に海の水が入ってもやめないからな」 「……っ」  ひくりと震えた肩にニヤリとなりながら、耳たぶをべろりと舐めて離れた。 「……段々と意地悪がひどくなっている」  目元を薄紅色に染めた姿は美しくもかわいらしく、こんなにも愛しいと思う金花とこの先も共にいられるのかと思うと、たまらなく胸が疼いた。

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