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 世の中には第一性である男女に加えて、α、β、Ωという第二性(バース性)が存在する。  バース性は10歳の時に受けるバース検査でわかる。  αはエリート性とも言われ、何らかの特出した才能がある”エリート”だ。才能を欲しいままにしている人も多い。そして男女共に美しい人が多く、美男美女性とも言われている。  政財界、会社社長の多くがαであると言われている。  そんな、なんの弱点もなさそうだが、ひとつだけある。それはΩのフェロモンには適わないということだ。  近くでヒートを起こしているΩがいると、そのフェロモンに当てられラットを起こしてしまい、我を忘れてしまうことがある。そのためα用の抑制剤を飲んでいる人が多い。  数としては少なく、人口全体の10%と言われている。  そんなα性と対になるのがΩ性だ。αの寵愛を受けるΩは男女ともに小柄で愛らしい容姿の人間が多い。  Ω性は男性であっても子宮を持ち、妊娠・出産の可能な性だ。三ヶ月に一回、一週間ほどヒートと呼ばれる周期がある。その時は性のことしか考えられなくなり、フェロモンを出しαを誘惑する。  突然ヒートを起こすと危険なため全員が抑制剤をのんでいる。  ちなみにヒートが定期的にあることから、以前は一定の職につくのは難しく、性に特化した動物と言われるなど、差別を受けていたが、今では法規制もあり仕事にもαやβのように普通に職につくことはできるし、動物とまで言われていたのも、深刻な少子化を前に出産は国をあげて支援しているために差別はなくなってきている。  人口の5%と言われている希少種であるため、今は国をあげて保護していると言っても過言ではない。  そして最後にβ。βはいわゆる普通の人と言われていて人口の85%を占める。つまり、ほとんどの人間はβと考えて間違いない。  希少性であるαとΩには、番という関係性がある。ヒート中のΩとの性行為中にαがΩの項を噛むことで番関係が成立する。番関係は解消することはできないため、一生続く。  番を持ったΩのフェロモンは番にのみ向かい、不特定多数を誘惑することはなくなる。しかし、番のαとしか性行為ができなくなる。  そんな番関係の中に、運命の番、と呼ばれる番関係がある。通常時でも互いのフェロモンが強く香り、接触することで通常のヒートとは異なる、緊急ヒートを起こすことがある。しかし、巡り合うのはとても稀なため、都市伝説だとも言われている。    と言ったバース性をバース検査後、学校の保健体育の時間に徹底的に教わる。  この頃から男女と言った性別を意識しだすとともにバース性についても意識しだす。いや、普通の男女性以上にバース性別は意識される。  大人になると表立った性差別はないが、子供に関してはゼロとは言えない。子供ならではの無邪気な棘として、妊娠・出産可能な男Ωに棘は向く。いじめに発展することだってある。そのため、各学校のカウンセラーは男Ωの生徒に対して神経質になっている。いじめにでも発展したら男Ωの父兄が学校に乗り込んでくる、ということもあるからだ。      白瀬直生は、そんないじめを受ける可能性が少なくない、男Ωだ。  そのため、親も学校も判を押したように、いい年齢になったら番ができる、と言われて育った。一般でいう結婚と同じように。しかし、直生本人は、それは難しいだろうな、とΩと判明した時から思っていた。それは、直生の容姿とヒートの問題からだ。  小柄で愛らしい人が多いと言われるΩの中で、直生はΩらしくない。身長は特に高いわけではないが低くもない176cmある。顔だってぱっちり二重なだけで、取り立ててブサイクという訳ではないが、綺麗なわけでも可愛いわけでもない。どこにでもいる普通の顔だ。本人に言わせれば、「平凡が服着て歩いている」となる。  次にヒートだが、三ヶ月に一回と言われているヒートが直生は不順でとても乱れている。先月来たと思ったら今月も、なんてこともあるし、逆に半年ほどヒートが来ない、ということも多々ある。ホルモンのバランスが悪いのでは、とバース科の医師に言われ、ホルモン剤を投与して貰ったこともあるが、安定しない。そのため、三十歳という歳になった今もヒートは安定していない。  そんな理由から直生は自分のことを「出来損ないのΩ」と呼んでいる。  人見知りなのも手伝って、三十歳になっても番はおろか、まともに恋愛もしていない。ゆえに番関係を結ぶなんてことは一匙だってない。そんな人と出会ってもいない。  それなのに適齢期ゆえに、番はまだか、結婚はまだかと親や親戚にせっつかれるのはたまったものではない。かといってお見合いをしてまで番たくもないし、結婚したくもない。  番候補も結婚相手も見つけられないでいうのもなんだが、番や結婚は自分がいいと思った人としたいと思っている。それはお見合いなどではなく、自然に出会ってそういう関係になりたい。三十男がどこか夢見ている。  その前に、そんなに積極的に番を結びたいとは思わないし、結婚したいとも思わない。仕事は忙しいが楽しいし、一人は気楽だし、このままでいいかなぁ、とのんびり思っているくらいだ。まさかそんなことは親に言えないけれど。  運命の番でもいなければ一生一人だ、と思っているけれど、そこまでの悲壮感もない。それが直生だ。  でも、運命の番だなんて都市伝説だし、仮に本当にあったにしたって自分みたいな平凡な人間に起こるはずもない、と思っている。運命に特別や平凡などということは関係ない、ということも忘れて。

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