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「不安になったか」
「少し」
でも、直生も緊張しているけれど、神宮寺も緊張しているのだと思うと、自分だけではないと少し安心した。
「嫌だったり、怖かったりしたら言え。やめるから」
病院で項を噛んで欲しいと言った。それは本心で、今も神宮寺が好きだし、番になるなら神宮寺しかいないと思っている。そのことに嘘は欠片もなく、今だってそう思っている。それでも緊張はしてしまう。
「緊張しただけで、嫌だと思っているわけじゃない」
「わかった」
そんな会話をしながらの食事は、少し味がわからなくなって。それが少し残念だったけれど、また作って貰うことはできるだろう、と思う。それよりも、項を噛まれ、そういうことをする、と考えると緊張するな、という方が無理である。
「余計なこと言ったから味がわからなくなっただろう。悪かった。また今度作る」
「うん」
「だから……逃げるな」
そう言う神宮寺は直生のすぐ横の椅子に座っていて、直生の首に手をやり、そっと引き寄せ、唇が近づいてくる。
来る! そう思い、ぎゅっと目を閉じる。何しろ、直生にとってはファーストキスなのだ。ファーストキスはレモン味とよく言うけれど、ファーストキスはエンチラーダの味だな、と思う。
神宮寺とキス、ということが恥ずかしくてそんなことを考えて気をそらす。それでも右手は神宮寺の服をぎゅっと掴んでいるのだ。
神宮寺とのキスに緊張しているのに神宮寺に助けを求めるという矛盾だ。でも、直生は頭がいっぱいいっぱいになっていて、そんなことには気づいていない。
そっと神宮寺の唇が離れていくと、直生はゆっくりと目を開いた。そして、先程から神宮寺の手が直生の首筋に触れていることで軽いヒート状態になり、直生の呼吸が浅く、荒くなる。
これで神宮寺と番になるのだ、と思うと嬉しさと恥ずかしさがある。
神宮寺と一緒にいることで大変なこともあるかもしれない。何しろ直生にとって未知の世界に神宮寺はいるのだ。それでも一緒にいたい。
そんなことを考えていると、直生のヒートは本格的なヒートになっていた。それに伴い、神宮寺もラットを起こしている。それでも決して乱暴にすることはなく、そっと直生に触れてくる。
「直生、これで番だ」
そう言って神宮寺は直生の項を優しく撫でた後でがぶりと噛み付いた。そして体内の熱のうねりがそれまでと違い、神宮寺を求める。
神宮寺に浅ましい姿を見られてしまう、と思ったのはほんの一瞬で、すぐにそんなことを考える余裕はなくなった。ただ体が熱くて、神宮寺が欲しくてたまらないのだ。
神宮寺は再びキスをしながら片手は直生の体をまさぐってきた。そのてにくすぐったさを感じたのはほんの一瞬で、すぐに焼けるような熱さを感じた。
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