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番外編 はじめての××××鑑賞? ★
(今日は久しぶりにゆっくりできるな)
仕事を定時で切り上げた隆之は、そのようなことを思いながら電車に揺られていた。
電車を降りると、駅構内の商業施設で総菜を買うついでに、夏樹が喜ぶかと思ってカスタードプリンを土産に選ぶ。自宅までの道のりは自然と早足になった。
「ただいま」
返事はなかったが、既に夏樹も帰宅しているらしい。そっと彼のスニーカーを揃えてから、部屋へと上がった。
とりあえず、冷蔵庫に仕舞うべきものを先に仕舞う。それからネクタイを緩めつつ寝室に移動したのだが――ドアを開けたところで体が固まった。
「ん、あっ……」
目に飛び込んできたのは、夏樹がベッドの上で自慰に耽っている姿だった。
枕に顔を埋め、腰を高くした状態で下半身を露わにしており、奥まった箇所には何やらプラグのようなものが埋まっている。
こちらに気づくなり、夏樹は艶っぽい笑みを浮かべて振り向いた。
「オナニー鑑賞、する?」
「し、しないしないっ! 気づかずにすまなかった。あとはごゆっくり……っ」
「えー、やだ寂しい。行かないでよお」
寝室から出て行こうとするも、その言葉に足が止まる。続けて、夏樹のクスッという笑い声が聞こえてきた。
「どうせなら見てってよ? 俺、見られると興奮するし」
「……そんなこと言われてもな」
「ねえ、お願い」
夏樹が甘えた口調で言う。
本当にどうして――と思うのだが、惚れた弱みとしか言いようがない。
隆之は観念したようにベッドに近づき、夏樹の隣に腰かける。内心は居たたまれない感情でいっぱいだった。
(どういう状況なんだ、これは)
店のオプションでそういったものがあると知っていたものの、まさか自分が体験する羽目になるとは思わなかった。
夏樹はというと、こちらの心情などお見通しといったふうにニヤニヤと楽しげにしている。
「隆之さんは、そこに居てくれるだけでいーよ?」
言いながら横向きになって、自らの後孔を見せつけてきた。思わず隆之の視線が落ちる。
「へへ、今日はエネマグラでオナニーしてんの。お尻に力入れたり抜いたりすると……ほら、わかる?」
どうやら埋まっていたのはエネマグラらしかった。後孔の収縮と連動して、それは触れずともゆるゆると動きだす。
本来は医療器具のはずなのだが――前立腺が刺激される感覚が堪らないのか、夏樹がうっとりとした表情で行為に没頭しているさまが見受けられた。
「はっ、あ……隆之さんが見てくれてんのイイ――いつもより感じちゃう……っ」
「『いつも』って。俺が居ないとき、一人でこんなことしてたのか?」
隆之が問うと、夏樹は少しだけ気恥ずかしそうな顔になった。
「俺、性欲強いから。こうして発散させておかないと、隆之さんのこと襲っちゃいそうで。……やば、隆之さん、イッていい? も、我慢できない――」
夏樹が切羽詰まった様子で言う。隆之はごくりと唾を飲み込み、その痴態をただ見守ることしかできなかった。
やがて夏樹の脚が小さく震えだしたかと思うと、次の瞬間にはビクビクッと大きく体を跳ねさせ――、
「あっ、ん! イく、イくぅ……ッ!」
甘ったるい声を上げて絶頂する。
ドライオーガズムを迎えたようで、夏樹の陰茎は射精することなく勃ち上がったままだった。体の痙攣も治まる気配を見せない。
夏樹は長い絶頂感に、荒い呼吸を繰り返しながら枕に突っ伏してしまった。
「あ、は……っ、オナニーでイッてるとこ、隆之さんに見られちった」
余韻に浸るように夏樹が呟く。
(……可愛い)
隆之は無意識のうちに夏樹の髪に触れた。そのまま頭を撫でてやれば、夏樹の顔がゆっくりとこちらに向けられる。
「そういや今日早いけど、どうしたの? なんかあんの?」
そう問われ、隆之はハッとした。
「ああいや、たまには平日も夏樹とゆっくりしたいと思って」
「えっ! じゃあ、エッチする?」
「本当に君ってやつは、すぐ考えがそっちにいくんだな」
「じょ、冗談だよお! 隆之さん疲れてるだろうし、明日もお仕事なんでしょ?」
「確かにそれはそう、なんだが」
隆之にしたって人のことを言えない。あれほどの痴態を前にして、何も感じないわけがなかった。現に隆之のものは、スラックスの上からでも分かるほどに勃起している。
夏樹はそんな下半身にちらりと目をやり、それからイタズラっぽい笑みを浮かべて体を起こした。
「アハッ。ここ――すごく辛そうにしてんね? 俺のオナニー見て、興奮しちゃった?」
言いつつ股ぐらに手を伸ばし、膨らみをそっと撫で上げてくる。
「……っ」
その刺激に思わず息を詰めれば、夏樹は舌なめずりをしてみせた。こちらが困惑しているうちにもネクタイに手をかけ、慣れた手つきでほどき始める。
「俺にご奉仕させてよ、隆之さん」
Yシャツのボタンを外していき、露わになった胸板に顔を寄せる夏樹。こちらを煽って楽しんでいる節があるのだろうが、小悪魔的というか、もはや魔性というべきか――とにかく堪ったものではない。
「おい、夏樹っ」
「隆之さんは寝てていーよ。こうやって全身リップして、フェラして、最後は騎乗位でイかせてあげるから――ね、俺専属のお客様?」
鎖骨や胸板に軽く口づけを落とされ、くすぐったさとともに劣情がますます膨らんでしまう。
一度スイッチが入ってしまえば最後。理性など簡単に吹き飛ぶに違いなかった。
「ひとまず待てよ。シャワーも浴びてないのに汗臭いだろ」
「んーん、隆之さんの匂い好きだよ? 今日もお仕事頑張ったんだなあ、って伝わってくるし。……つーか俺、隆之さんの洗ってないシャツをオカズにするくらいだし?」
夏樹の痴態にばかり気を取られていたが、枕元には隆之が先日着ていたYシャツがあった。わざわざ洗濯物かごから持ってきたのだろうか、そんなものを嗅ぎながら自らを慰める姿が頭をよぎってしまう。
(ったく……)
ここまできたら降参するほかない。
結局どうやったって、この愛しくも淫らな恋人のペースにのまれてしまうのだ。そして、それも嫌ではないと思ってしまうあたり自分も大概だと思う。
「……煽った責任、とってもらうからな」
「いーよ? 最高に気持ちよくしてあげる」
言葉を交わし、どちらからともなく唇が重なる。そうやって互いに互いを求め、貪りあって――二人は快楽の渦に溺れていったのだった。
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