12 / 57

12 天音はいい子

 天音が絡まれずに済むように、どうにかできないもんかな。  天音が心配でため息が止まらない。 「やっとビビビに本気だって自覚した?」 「……俺は本気じゃねぇよ」 「え、まだかよ、じれったいな」  ビビビってなんだというマスターにヒデが説明をしてる。この二人が天音の話をしてるのを、なんだか不思議な気持ちで聞いていた。 「そうだ。マスターさ、絶対天音に余計なこと言わないでくれよ?」 「なに、余計なことって」 「俺が天音に本気だとか、天音だけに絞ったとか、そういうことだよ。匂わせるのもなしだから」 「いやいや言わねぇって。今の流れで言うわけねぇだろ。俺そんな信用ないか?」 「……いや、ごめん。一応念のため言っといた」 「本当に切られるのが怖いんだな」  マスターの言葉が図星すぎて心臓に突き刺さった。  だってあの天音だ。俺なんか興味もないって目で見る天音。  大丈夫だなんて一ミリも思えない。 「そんな必死な顔してる冬磨初めて見る。すげぇ楽しい」  ヒデがからかうような目で俺を見ながら笑いだす。 「……うるせえよ」 「イケメンの困った顔っていいな」 「確かに、いいな」  マスターまで一緒になって笑いだした。 「てか、俺本気じゃねぇからな?」 「まだ言ってる」 「いつ気づくのかねー?」 「なー?」  なんだよ、俺で楽しみやがって。  俺はなにも楽しくないぞ。切られるかもしれないのに。  大切な存在は作らないから本気にならないって言ってるだろ。  本気じゃないが、俺に色を与えて笑顔にしてくれる天音を失いたくないだけだ。 「じゃあ冬磨。天音の前では……いや、全体にも、いままで通りセフレがいっぱいいるお前って(てい)でいいんだな?」 「……うん、それで頼む」 「OK。了解」 「俺は他のセフレ観察しとくな。なんか動きあったら教える」  ヒデの言葉が心強い。 「さんきゅ……助かるよ」  とりあえず話が一旦落ち着いた頃、マスターがしみじみと話しだした。 「しかし天音なぁ。あの子、ほんとすげぇいい子だよな」 「え、どの辺が?」  マスターが天音をいい子だと評価する理由がすごい気になった。 「いろいろだよ。酒こぼしたから雑巾貸してって言うからモップ持って来たらさ、実は誰かがこぼして放置された酒だったりな? 客が財布忘れたときは俺の代わりに追いかけてくれたり。ああそれから、ジャケットが床に落ちてるのに気づいて、そっと背もたれに戻してあげたりな。なんか他にもいろいろだ」 「へぇ。なんか天音らしい」  いつも無表情で素っ気なくて可愛げなんかないはずなのに、それが天音らしいと自然と思える。 「うわぁ。なんだよいい子ちゃんかよ……」  と、ヒデは肩をすくめて聞いていた。 「一人で来るときはいつも一杯だけなのに、お前と待ち合わせの日は必ず二杯以上飲むんだよ」 「必ず……え、俺そんな待たせたことあったっけ」 「いや、すげぇピッチで飲むから、あれはたぶん二人分のつもりなんだと思う。いつも後から来たほうは飲まずに行くだろ?」 「え、まじか。待ち合わせだけでも使ってくれってマスターに言われてること話しとけばよかった」 「俺も言おうかと思ったんだけどさ。言ってもあの子なら二杯飲むかなって思って」 「……かもな。……てか天音一人で来るんだ。俺会ったことねぇけど」 「本当に一杯だけ飲んでさっと帰るんだよ。お前とはすれ違いだな。でも、金曜は絶対来ない」  金曜は絶対……。 「なんで……」 「お前のセフレに会いたくねぇんだろ」  なんで会いたくねぇんだ?  大切な存在はいらない、そう思いながらも期待したくなる自分に戸惑う。 「なんかいい子がにじみ出てるんだよな、天音。第一印象と全然違うんだよ」 「……うん。わかる」  やっぱり、あの日だまりの笑顔が本当の天音なんだ。いい子のイメージにぴったりな、本当の天音。  どうすればトラウマを克服してやれるのかな。  あの笑顔を早く取り戻してやりたい。  また見たいな……天音の笑顔。   「俺、なんかじんましん出てきそう……」  とヒデが腕をさする。天音がいい子だとなんでじんましんが出るんだよ。そんなことを言うヒデに不安になった。 「ヒデ。いろいろ協力してくれるのはありがたいけど、これだけは言っとくぞ?」 「なに?」 「もし天音に手出したら、たとえヒデでも許さないからな」  もちろんタチネコの話じゃない。嫌がらせのほうだ。  ヒデはバリネコだからちゃんと意味は通じるはずだ。 「……うーん、手出さずにいられるかな俺」  そう言いながら、ヒデの目は笑ってた。  ほんと大丈夫か……。   「冬磨さ。ビビビに本気だからその台詞が出るんじゃねぇの?」 「……本気じゃねぇっつーの」 「はぁ。やれやれ」      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇    本編『本気だと相手にされないのでビッチを演じることにした』を、アルファポリスで11月末まで開催のBL小説大賞にエントリーしてみました。何事も挑戦あるのみ(*^^*)の精神です。  もし応援、投票してくださいましたらとってもとっても嬉しいですꕤ︎︎  

ともだちにシェアしよう!