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ひとしきり食べて飲み、鍋も空になった頃、犬神は酔いも回ってすっかりいい気分になっていた。宮内はといえば酔い潰れて炬燵で仰向けになって寝てしまっている。
「こんなところで寝てると風邪ひくよ。……んー仕様ないなぁ」
元々、宮内は酒に弱く酔うと缶ビール3本目当たりから瞼が下がり始めるのである。そうなるともう、船を漕ぐまでそう時間は掛からない。宮内自身もそれを分かっているから外で飲む時は控えめだが、今日は犬神の家ということもありセーブしなかったのだろう。
ゆさゆさと宮内の体を揺さぶってみるが、宮内は一度だけ半分まで目を開き、またすぐに眠りについてしまう。このまま炬燵に宮内を置き去りにして風邪をひかれても困る。
犬神は宮内を何とか布団のある客間へ引っ張っていこうと、宮内の体を起こそうとした。
「うん、無理」
上半身を持ち上げ背後から腕を回すところまでは成功したが、そこから二歩目を踏み出したところで犬神は尻餅をつく。酔って足腰に力が入らない上に、脱力した成人男性を一人で動かすのは、どうにも難易度が高いようで、すでに諦めの境地だ。
「………ホント君、酒に弱いよなぁ」
倒れた勢いで、犬神の膝に頭を乗せる格好となった宮内を上から覗き込む。線が細く美形と形容される部類の顔立ちは、寝ていても美形である。
すると、犬神の視線を察知したのだろうか、不意に宮内が身じろぎをして、重たそうに瞼を持ち上げた。
「うーん……仁郎ぉ?寝ようよ、一緒に」
寝言のような呟きが宮内から発せられる。
「だからここで寝たら風邪引くって。あっ、ちょっ……!」
「いーじゃん。仁郎が温めてくれるって」
膝の重みが無くなったかと思えば、張りのある両腕が犬神の肩に回り、ずしりと体重が加わった。ふらりと起き上がった宮内が戯れるように抱きついてきたのだ。
咄嗟に受け止めて支えようとしたが宮内の膂力 が勝ち、そのまま畳に押し倒された。
「えぇ……。もう、抱き枕じゃないんだからさー」
呆れたような声を出す犬神だったが、もはや聞いていない宮内は犬神の首筋に顔を埋め、規則正しい寝息を立てて再び眠りにつく。
「……じゃあ電気消すからさ。ちょっと待ってよ」
抱き枕は不本意だが、幸せそうに安眠する宮内を起こす気にもなれず、犬神は観念して一緒に眠ることにした。
宮内の腕から抜け出して電灯の紐を引き、真っ暗になった室内で、横になって目を閉じる。寒くならないように脱いだ半纏をお互いの体に被せ、そっと宮内の背中に手を回すと、密着した箇所に体温を感じて安心感を覚えた。
「おやすみ」
静かに言葉を紡ぐと、そうして段々と訪れる心地よい眠気に身を任せ、犬神は深い眠りに落ちるのだった。
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