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アレクの暴走 2/2
sideアレク
「リシェっ…!」
リシェがピクリと反応する。
呼び掛けに反応した。
どうやら正気は保ってくれていた。
リシェは意識を失っているが、治癒を発動していた。
俺にやられてる間自然に掛け続けるように、自動化したのには気付いていた。
リシェはきっとそれに賭けたんだ。
だからどうにか俺も意識して、リシェの治癒を邪魔しないようにしていた。
自分の暴走が止められない俺の、欠片程残った理性を総動員して、リシェの治癒を邪魔しようとする俺の事だけは何とか食い止めた。
治癒が無ければ、リシェは正気に返れなかっただろう。
「リシェ!」
リシェの頬を数度撫でると、薄く目を開き、弱く微笑んだ。
治癒のお陰で精神力が残っていたんだ。
俺がやった事は覚えてる。
ここ数日、頭がぼんやりとしていたのが、今はスッキリしている。
確か…リシェが俺に自分を大事にするように言ってきた時。
あの瞬間リシェへの愛しさが振り切った。
あと…俺の推測では、その時聖母の魅了的なものに掛けられた感じがした。
子を為す相手を誘惑する術ってところか。
「リシェ…有難う。」
リシェの頬を何度も撫でながら笑みを向ける。
リシェは謝罪よりも礼の方が喜んでくれる。
「うん…おかえり……なさい…。」
「ただいま。」
リシェは綺麗に微笑んだ。
全く動けなくなったリシェに簡素な服を着せ、リシェール達の所に抱き運ぶ。
身体の治癒はしても、リシェは体力が殆んど無くなっている状態だからな。
すぐに二人を閉じ込めた結界を解除した。
不機嫌丸出しのリシェールと、困った顔の陽太が俺とリシェを見る。
「うん、いつものアレクだね。」
陽太は敢えてリシェの様子には触れないでいた。
「リシェールがね、アレクの結界が破れない自分の力不足だって、スッゴク悔しがってたよ。」
悔し過ぎてリシェールは言葉も無いらしい。
それで黙ってるのか。
「フン、ちゃんと母上を手当てしろ。」
リシェールは察する力は凄いな。
陽太が軽く手を振ると、それを合図に二人は去った。
「さあ、部屋に戻るぞ。」
リシェがどうしても二人の無事を確認したいと言うから連れて来た。
コクリとリシェは頷いた。
リシェをベッドに横たえ、俺もそこに入り込むとリシェの身体をしっかり抱き締める。
少しするとリシェは自分を回復する。
力が時間の経過と共に戻っているようだ。
「アレク様は何とも無い?」
聞きながら俺にも治癒を掛けてくれる。
「俺は逆に元気だ。だから、リシェの執務も明日からこなすから、リシェは安静にしててくれ。」
「それってまた徹夜するんじゃ…?」
「無理はしない、誓ったろ?」
リシェに顔を近付けて、唇をチュッと啄む。
「…暴走、気付けなくて、ごめんね。」
「いや、俺の未熟さが招いた事だろう?リシェが治癒を掛け続けていなかったら、本当にリシェを壊してしまっていた。」
「壊れたら会話出来ないもんね。」
「ああ、愛を告げてもリシェに届かなくなってしまう。」
リシェの髪を、頬を大切に撫で回す。
眼差しが真っ直ぐ合うと、リシェの微笑みに見惚れながら、惹き付けられるように深く唇を合わせた。
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