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「……ああ」  絶頂に達したような激しい喘ぎ声を漏らすと、トラヴィスは背中からジェレミーの胸に凭れこんだ。息はひどく乱れ、肌は汗でびっしょりと濡れている。  ベッドの上で背後からトラヴィスを抱きかかえ、広げさせた両足の恥部の奥を貪欲に貫いていたジェレミーは、ようやくペニスを抜いた。ジェレミーも荒い息をついていた。両腕で恋人の足を抱え込み、前後に揺り動かしながら、繰り返しペニスで突いていた。トラヴィスはされるがままに、ずっと声をあげた。その声は性欲を刺激するほどにとても色っぽかった。 「……ジェレミー……」   トラヴィスは恋人の胸に頭を押しつけ、上目づかいに甘ったるく囁く。  ジェレミーはその唇に熱くキスをする。  ベッドの周りは、二人の匂いで充満していた。お互いの(からだ)は乱れ、トラヴィスの恥部はジェレミーの精液でべっとりと汚れている。白いシーツの上に背中を押さえつけられ、露わになった秘部にペニスを激しく挿入されてからだいぶ夜は深まったが、二人はぴったりと寄り添い、舌を絡ませながら、飽きることなくキスをした。  やがて、トラヴィスは腹の底から大きく息をついた。 「……明日も早いんだぞ……」  かすれた声で、自分を抱いて離さない男に文句を言う。だがその口調はからかうようだ。 「だから、終わりにした。私の我慢に感謝するんだな」  ジェレミーも笑いながら言い返した。 「ワシントンを離れると、無性にお前とやりたくなるのが困る」  自分が抱いている男のうなじに唇を押しつけて、吸いあげるようにキスをする。 「……おい」  犬猿の仲と噂されている特別捜査官は、その行為を咎めようとしたが、その表情はとても愉しそうだ。  トラヴィスとジェレミーは、つまりこういう仲だった。表向きはお互いに嫌いあって――アカデミーの訓練生時代からというプレミアもつけて、目一杯嫌味や皮肉を投げあっているが、本当は訓練生時代からつきあっているのである。だが自分たちの関係を公にする意思はないので、極秘にしている。二人の仲は、二人しか知らない。勿論ミリアムも知らない。 「それにしても……不思議な事件だな」  トラヴィスは恋人の息を感じながら、サイドテーブルに腕を伸ばして、タバコを一本手に取った。口にくわえて、揃えてあったライターで火をつける。 「いったい……あのガキどもは何がしたいんだ?」 「お前の言いたいことはわかる」  ジェレミーは湿った黒髪を撫でながら、飽きることがないようにうなじにキスをする。 「だが、二人の少年が犯人という考えは無理がある。ハリウッド映画ではあるまいし」 「おい、ジェレミー……」  反論をしようとして振り返ったトラヴィスの指先から、素早くタバコを抜き取ると、ジェレミーも一服吸った。 「その少年たちが、こんな馬鹿げた犯罪をする理由は何だ?」  ジェレミーはふっと煙を吐く。その眼差しは、冷徹と評判のスペシャルエージェントになっている。 「最初の事件はガス爆発だったが、それをわざわざ電話で爆弾と嘘をついたのは何故だ?」 「言い間違えたんだろう?」  トラヴィスは閃光のように赤くなるタバコの先を見ながら、言い返す。 「きっと初めてだったから、緊張したんだ」  ジェレミーは無視する。 「空き家に仕掛けられたのは本物の爆弾だったが、どうやって少年たちがそれを入手して、上手く設置できたんだ?」 「きっと爆弾造りに夢中なお友達がいたんだぜ? 将来の夢はテロリスト。尊敬する人物はユナボマー」 「馬鹿な憶測で、私の質問に答えるな」  ジェレミーは冷ややかに言った。ユナボマーとは、七十年代から九十年代にわたって米国の大学や研究施設を標的にした連続爆破事件の犯人の呼び名である。  トラヴィスはやれやれと天井を仰いだ。こと任務になると、優秀な恋人はどれだけ激しい情事の後でも、平気で冷静になれる。せっかくの甘ったるい空気が、木っ端微塵に吹き飛んだ。 「お前の勘が鋭いのは認めていいが、きちんと頭で考えろ」 「考えているさ。お前こそ、派手に考えすぎなんだ。事件ていうのは、案外シンプルなんだ」  トラヴィスはタバコを無理やり奪い取る。 「大体、なんで優秀なアンダースミス捜査官が、今回俺たちと一緒に捜査することになったんだ?」  FBIでは目下別々のチームに属している二人である。ジェレミーが所属しているのは、女性で初のFBI長官の座を狙っていると噂されている野心的なアリスン・キーン率いる犯罪対策チームだ。 「あのゴルゴンがリックを敵視しているのは知っているぞ。自分の野望のライバルだと勝手に妄想しているからな。まさか、監視しに来たわけじゃないだろうな?」 「私は暇ではないんだ」  ジェレミーは素っ気なかった。実はトラヴィスが別件の事件でミスを犯し、上層部によくない心象を与えたことを知ったジェレミーは、裏の手を使って今回の事件に参加したのである。勿論、愛する恋人を助けるためだ。だがヴェレッタ捜査官は自分のためだとは露とも思わないだろうし、アンダースミス捜査官もそれを告白することはないだろう。 「お前たちを補佐するように命令された」  それだけ言った。  トラヴィスは何も言わず、タバコを口にした。吐き出される紫煙(しえん)は、まるでため息のようだ。だがやがて、ジェレミーの腕の中から抜け出すと、両足をベッドから下ろして、腰かける姿勢になった。 「もう帰れ」  トラヴィスは背中を見せて言う。  恋人の機嫌を損ねたとジェレミーは察知したが、素直にベッドから離れた。全身は汗をかいていたが、シャワーを浴びず、脱ぎ捨てた下着やワイシャツに袖を通す。  トラヴィスはジェレミーに背を向けたまま、タバコを吸い続けた。それが気分の悪い時の癖だと知っているジェレミーは靴を履くと、傍らからそっとトラヴィスの頬にキスをした。それがジェレミーの「おやすみ」の挨拶で、上着を手に取ると、振り返らずに部屋を出て行った。  トラヴィスはドアが閉まると、タバコをサイドテーブルにあった灰皿に押しつけた。それから疲れたように立ち上がって、ドアの鍵をかけに行く。再びベッドへ戻ると、ランプを消し、横になった。  暗闇の中で、しばらく両目を開けたまま、宙を睨む。ベッドシーツは二人の行為でまだ濡れていたが、恋人に愛された肉体はもう冷えていた。

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