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第二話②
伝馬は誰だろうと訝しみながら、相手をよく見る。一言で言えば、とてもカッコいい男性だった。背は高く、手足も長い。スポーツ選手のような体形の良さだ。白いワイシャツに黒織柄 のネクタイを締めて、ブルーグレイのスーツを着ている。伝馬のような十代の若者から見ても、嫌味なしにすごく似合っていると思った。
そのまま視線を顔へ向ける。これまた男らしくてカッコ良かった。警察や法曹、推理ドラマに出演していそうな雰囲気の顔立ちをしている。演じる役はもちろん主役だ。きっと口数は少ない。けれど責任感は強く、問題を解決してくれる。そういう印象だ。年齢はおそらく二十代。
――誰だろう。
ここにいるということは、学校に関係する人物だろう。よくよく見れば男性が着ているのはフォーマルなスーツだ。入学式などの公式行事に列席するための服装である。フォーマルスーツを身につけた二十代の男性。ということは。
「おい」
再び、男性は声をかける。
じっと観察するように見ていた伝馬は、その声の調子と吊り上がった眦 に鋭い眼光で、男性が苛立っているというのがわかった。
「お前、ここで何をしている」
警察ドラマなら、刑事が容疑者に詰問 するシーンである。ちょっとだけムカッとした伝馬は、負けずに礼儀正しく言い返した。
「俺、不審者じゃないです」
「そんなことはわかっている」
男性はニコリともしない。
「俺が聞きたいのは、お前はこれからどこに行くつもりなんだということだ」
両腕を組んで立っている男性もまた不遜 な態度である。だがそれが堂々としていて、実に様 になっている。
——―かっこいい。相手への反発心も下がって、伝馬はちょっと素直になった。
「教室へ行きます。俺これから入学式で……」
そうだ、桜を見ている場合じゃなかったと伝馬は恥ずかしくなって俯く。一人息子の高校入学祝いで、生牡蠣を食べてお腹を壊して式に参列できない不幸な両親のためにも、ちゃんと式に出席しなければ。伝馬は男性に入学式のことを聞こうと顔をあげた。
その時、ひらひらと桜の花が散り落ちてきた。桃色よりももっと深くて濃い色。紅色を薄くしたような色。一つ、二つ、三つと枝から離れて、男性の前をくるりくるりと舞いながら地面に横たわる。数秒の出来事なのに、なぜか伝馬にはスローモーションで頭の中に流れた。
綺麗だと思った。桜の花弁が。
桜の花弁の散る姿が似合うと思った。男性に。
後で思い返せば、自分は見惚れていたのだ。だから何も言えなくなったのだと気づいた。
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