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第8話『激甘コーヒー』
テーブルにつき、食パンを千切る。パンを焼かずに食べるのも久しぶりだ。もそもそ食べていたら、レイがシャワーを浴びて戻ってきた。服もロングTシャツに着替えている。
戻って来る前に食べ終わるつもりでいたのだが、食器を探していたので、時間をくってしまったようだ。
「ごめん、もうちょっと待って」
慌ててサラダを口に押し込んでいると、レイは、「朝ごはん、食べるの」と言った。
意外そうな口ぶりに、サキは口に運んでいた手を止めた。
「えと……なんかダメなことした?」
戸惑うと、レイは小さく頭を振った。
「あ、いや。朝食べてるのが珍しかっただけ」
「ならよかった。ルール違反でもしたかと思った」
どうやら元の魂は朝食抜きが日常だったのだろう。レイがサキを無視してひとりで食べていたのは、そういう理由からだったのかもしれない。
なんとなくホッとしていると、サキを見ていたレイは、不意にキッチンに入った。
「コーヒー淹れるけど、飲む?」
「あ、お願いします! 実は飲みたかったんだ」
サキは食べ終わった食器をシンクに下げるため、レイの横を通った。キッチンの端にコーヒーメーカーが置いてあった。
ガガガッと硬い物を粉砕する機械音がする。同時にほのかにコーヒーの香りがした。
(豆を挽くのか!)
社会人だったサキは、よくコーヒーを飲んでいたが、飲み方等こだわる方ではなかった。
(うまいの飲めそう)
サキは横目でちらりと見て、ほくほくしながら蛇口から水を出した。レイの使った食器も一緒に洗っていると、「ありがとう」と小声で言われた。
コーヒーの匂いが部屋いっぱいに漂い始める。芳醇な香りだ。
サキが食器洗いを済ませると、レイが、
「あっちに行こう」
と、リビングのローテーブルを指した。サキはタブレット端末を持って移動した。
ソファーとローテーブルの間に座り込むと、レイはマグカップをふたつ持ってやってきた。
先程見つけた陶器のマグカップだ。白いカップがサキの前に置かれた。
「ありがとう」
サキはにこにこしながら、マグカップを手にして、目を剥いた。
コーヒーにミルクが入れられている。もしやと思い、ひとくち飲んでみて、頬がぴしりと固まった。
レイはサキの背後でソファーに腰掛けた。引きつった顔を見られないよう、振り返らずに尋ねる。
「……砂糖、何杯いれた?」
「スプーン二杯だけど」
サキは頭を押さえたくなったのを辛うじて堪えた。こんなに甘いミルクコーヒーは、小学校の給食で飲んで以来だった。じっとマグカップを見つめていると、
「砂糖足りなかった?」
レイの言葉に震えがきそうになる。
「イヤ、ダイジョウブ」
人には好みの飲み方というものがある。サキにとっては一番避けたいミルクと砂糖入りだった。しかも砂糖二杯分だ。やけくそのようにゴクゴクと一気に飲んだ。
(どんだけ甘党なんだ、こいつは!)
コーヒーをおいしく飲み損なったサキは、次からはブラックでお願いしなければ、と強く思った。
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