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6(終)

 二人で遊んでいる時に、俺が言った言葉。  当時は学校も違っていたし、毎日一緒にいられるわけではなかった。  仁郎は近所の駄菓子屋に時々現れる、よその町の子供。それが俺の認識だった。  仁郎の家まで自転車で移動できる距離だと分かったのは、もう少し後の話だ。ただそれでも小学生の俺には、ちょっとした冒険になるぐらいには遠かった。 『ねぇ、君かわいいね。どこの学校?名前なんていうの?』 『宮内丁一。日暮ノ小だよ。君は?』 『僕、犬神仁郎。狐丘小の三年生』  仁郎の方から声を掛けてきて、一緒に遊ぶようになった。気が合って仲良くなってからは、お別れするのが辛くなった。  自分でも何でこんな気持ちになるのか不思議だったけど、多分その頃から仁郎が特別に好きだったんだと思う。 『あそこの駄菓子屋、僕のじーちゃんがやってるんだよ。お母さんとお父さんが忙しい日だけ連れてきてもらって、じーちゃんの家でご飯食べてるんだ』    だから毎日は遊べないよ、と仁郎は残念そうに言う。  日が暮れて「またね」と挨拶を交わして、お互い別々の家路へ帰っていく。  仁郎と一緒にいるのは楽しい。  でもその時間が楽しければ楽しいほど、別れる時の寂しさは増えた。  また次も会えるからと自分に言い聞かせて、その日は家に帰る。  翌日、駄菓子屋に仁郎がいないことが分かると落ち込んだ。  もっと遊んでいたいし、一緒にいたいと思うようになった。 『仁郎、僕と結婚しようよ。そしたらずっと一緒にいられるし』  そんな俺の突然の告白に、仁郎はきょとんとしていた。 『丁一と?んー…… でもさ、ぼく男だし。丁一も男じゃんか。それって結婚できるの?』 『お父さんがね、好きな人とならできるって言ってたよ』 『えっ、じゃあ……いいよ』  俺は嬉しかった。鼓動が早まる。仁郎も俺が好きなんだと思った。  一生仁郎の隣にいたかった。今もそうだ。  友情が愛情に変わってからも根源は何も変わっていない。  出会ってから今までの俺の人生で、どこを振り返っても彼がいる。 ――――――――――――  夜空に一本の光の筋が浮かび上がった。  ぱっと大輪の花が咲き、一拍置いてドンという重低音が全身を包む。 「花火始まったよ」 「……綺麗だねぇ」  俺と仁郎は立ち止まって空を見上げた。打ち上げられた煌びやかな花は一瞬だけ夜空を照らしパラパラと残り火を散らす。  仁郎の横に並び、その手にそっと指先を絡めると、握り返してくる感触があった。    来年も再来年も十年後も五十年後も、何でもない日常を一緒に過ごしたい。  色とりどりに咲いて華々しく燃え尽きる花火を二人で見上げながら、俺はそう願った。 (おわり)

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