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本命手作りチョコバージン
今日はバレンタイン。
しばらくオレの家に滞在してくれることになった和真と一緒のバレンタイン。本当に好きな人と恋人になって迎えるイベントはこんなにも心躍るものなんだな。
そんでバレンタインに乗っかって、今日も和真とエロいことがしたい!
オレがこんなに和真のことを思ってるのに、当の本人はというと……
「めるちゃん……♡」
日付が変わった途端にスマホに飛びつき、このゲームの女……めるちゃんから画面越しにチョコを貰っている。オレは和真に引っ付いて、そのスマホを眺めている。聞いたところ、バレンタインのログインボーナス?でメッセージが貰えるらしい。
オレが隣にいるのに……!
バレンタインボイスを回収?してスクショも終えた和真は、次のアプリをタップした。
「は? 他にもあんの?」
「どこのソシャゲも同じようなことしてるからな。推しのボイスだけでも回収しとかないと」
「めるちゃんだけじゃないのかよ!」
「めるちゃんが今いちばんの推しだけど、どのソシャゲにも1人は推しいるし」
衝撃だ。オタクってそうなのか。ライバルが多すぎる。ゲームのキャラに嫉妬しても意味ないのはわかってるけど……それでもムカつくもんはムカつく。
オレが隣にいるのに。
「ごめん、たぶん時間かかるから先に寝てて」
「むっ……」
「また怒ってる……」
「ぜってぇ先に寝てやらねぇ。お前の推しはオレの敵だ。全員のツラ見るまで寝ない」
眉を寄せてスマホを睨むと、和真は笑い出す。
「笑うなよ」
「いやなんか可愛くて。ごめん」
「む……」
さらに強く抱きしめると、和真は「璃央、猫みたい」って言ってまた笑う。笑う和真はかわいいけど……すぐにスマホに夢中になってしまった。
オレが隣にいるのに!
「なあ、和真ってチョコ貰ったことある?」
「なんだよ急に。俺がモテないの知ってるだろ。母さんぐらいだよ」
「ははは、だろーな」
「自分はいっぱい貰ってるって自慢?」
「ちげーよ」
じゃあ今からでも、オレが初めて和真に本命チョコを渡した人になれるわけだ。そうとなったら善は急げ。
「明日、デパート行くぞ」
「お、おお……?」
和真の本命チョコバージンはオレのもの……!
*
次の日、オレたちはデパートへ向かった。もちろん目的はチョコの催事場。チョコに群がる人の多さに驚いて尻込みする和真に向き合う。
「好きなチョコを買ってやる。選べ」
「急だな!?」
「1個も貰ったことないお前に、オレからのプレゼントだ」
フフン、と胸を張ると、和真は照れて笑う。
「あ、ありがと……嬉しいけど、人も多いし種類も多すぎだし、何がいいのかさっぱり……」
「当日買う人は少ないし、まだマシな方だと思うけど。人気なやつはもう売り切れてるし」
「この量で…….!?」
「よし、とりあえずひと通り見てみるぞ」
広い催事場を隅から隅まで回った。人の多さに疲れたんだろう、和真の疲労が限界きそうだったから、フラフラしてる腕を引っ張って近くのベンチに座らせた。
「疲れた……」
「相変わらず体力ねーな」
「そりゃ璃央には負けるって」
隣に座って和真の顔を覗き込む。
「どうだ、いいのあったか?」
「うーん……どれも美味そうで決められん……」
なんか逆に困らせてる気がする。和真がチョコ欲しいって言ったわけじゃないのに色々連れ回して疲れさせて……オレがやってやりたいことを、押し付けてる……!?
……わかんねえ。今まで女と付き合っても適当に相手してたから、こんなに考えたことないし……やっと和真と恋人になれたのに、恋人になってからも難しいもんなんだな……
「ごめん。無理やり連れ回して。どうしても和真にチョコ、あげたくて……」
考えてたらだんだん気分が落ち込んで、和真の顔が見れなかった。
すると、頭をポンポンと撫でられた。ゆっくり顔を上げると、和真は変わらず笑っていた。
「俺は嬉しいよ」
「嬉しい?」
「うん。思ってたより璃央って不器用だよな。そうやって頑張ってくれてんの……嬉しい」
……そういうとこ。なんでこんなオレのことわかってくれるんだよ。やっぱ和真のこと、大好きだ。
「かずま……すき」
キスしようとしたら、止められた。
「外だから、だめ」
「む……じゃあ家帰ってからいっぱいするからな」
反論できず真っ赤になった和真は視線を逸らした。かわいくて眺めていると、和真は「あっ」と小さく声を出して何かに目を止めた。
「璃央……俺、あれがいい」
少し困りながら指をさした先にあったのは、シックで洒落た外装の、パンケーキの店だった。
「あのパンケーキ、食べたい。看板出てるやつ」
店先に置いてある看板には『期間限定チョコパンケーキ!』と銘打ってある。
「ん、そりゃいいけど……パンケーキは地元でも食べれるだろ。せっかくバレンタインなんだし、珍しいチョコにすればいいのに」
和真は少しどもり、困りながらも口を開く。
「……あんな洒落たカフェ、璃央とじゃないと、恥ずかしくて行けないし」
「ッ……!?」
心臓がギュッてなった。撃たれた。
「と、友達とは行かねーのかよ」
「ああいうとこ行く友達はいない。璃央となら、たぶん行ける」
それは、オレじゃないとダメってことだよな……オレは和真の恋人で、オレが、和真の唯一の存在……!!
「行くぞ!」
「気合いすごっ!?」
我ながらテンションの浮き沈みが激しい。オレがこうなるのも和真だけなんだからな!
和真を引っ掴んで店内に入り、席についたものの……和真は肩をすぼめてソワソワとしてる。落ち着かないみたいだ。
「店内も洒落てるし、オシャンな女の子かカップルばっかだ……さすが東京……璃央はかっこいいし、やっぱ俺には不相応すぎる……つらい」
「オレがかっこいいのは当たり前だ。周りのことは気にすんな。別に他人のことなんてじっくり見ねーよ。それに、オレらだってカップル、なんだ、し……」
「……! う、ん……」
最後の方小声になった。くっそ恥ずかしい。恥ずかしいのに嬉しくて、フワフワして変な感じだ。全部、和真といるから……
注文した料理がテーブルに並んだ。和真はチョコのパンケーキと、これまた甘そうなチョコのドリンク。オレは甘いの得意じゃないからガレットとコーヒーにした。和真が物珍しそうに見てくるからひと口交換したりして……
まさにデート。オレは和真とデートをしてる。すげえ嬉しい。じんわりとした幸せが込み上げてくる。こんな気持ち、初めてだ……
「ねー、バレンタインのチョコ何にした?」
近くのテーブルから浮き足立った女の声が聞こえた。参考になる話はないかと、そっと耳をすませる。
「今年は手作りしたんだよね! マジの本命だから」
「すごっ! あたしは苦手だから無理だわ」
手作り……
「それだ!」
「何が!?」
これを食い終わったら、材料を買いに行こう。菓子なんて作ったことないけど、簡単なやつならオレでもできるだろ。今のうちにレシピを検索しといて……
「ふっ、楽しみにしてろよ、和真」
「だから何を!?」
*
ウキウキとしながらお菓子の材料を買った璃央とともに、アパートに帰ってきた。カフェで何かを思いついてた時は悪そうな笑みを浮かべるもんだから、何されるのかと身構えたけど、大丈夫そう。
今、璃央はキッチンに立って楽しそうに材料を混ぜている。作ってるものは教えてくれないけど、俺のために作ってるのはわかる。最近の璃央はけっこうわかりやすいから。
こんなにも好意を向けてくれているのが嬉しくてソシャゲ周回が二の次になってしまい、璃央のことばかり見てしまう。なんか、かわいいんだよなあ……健気ってこういうことかな……
そうしている内に、甘い匂いが部屋中を満たした。
「できたぞ」
璃央の声に、キッチンに向かう。
自信満々にレンジから取り出されたのは、100均の紙製の丸型で焼かれた、チョコケーキっぽい焼き菓子だった。璃央はそれを皿に出し、4等分に切った。
「ガトーショコラだ」
「おお……すげえ! 璃央、お菓子も作れんのか」
「いや? 初めて作った。オーブンはないからレンジで作れて、簡単って書いてあるやつ探したし、実際混ぜるだけだった」
璃央は取ってきたフォークでおもむろにひと切れを刺し、俺の口もとまで持ってくる。
「おら、食え」
「ひと口で無理だって!」
むー、と口を曲げたあと、ひと口分にしてくれた。早く食べてもらいたかったのかな、とか想像してしまって萌える。ひと口分になって差し出されたガトーショコラを口に含む。
「ん、美味い!」
昼にあれだけチョコを食べたのに、璃央の手作りだと思ったら格別に美味い。璃央は機嫌良く口角を上げた。
「そりゃよかった。これでオレが和真に初めて本命手作りチョコを渡したことになるな」
甲斐甲斐しく次々に運ばれるガトーショコラを咀嚼しながら頷くと、璃央は続けた。
「そんで和真は、オレの初めての手作りお菓子を食ったことになった。オレの初めてだぞ。どうだ、嬉しいだろ」
さらに深くなる幸せそうな笑み。綺麗で見惚れてしまう。
「うん。ありがと……」
「ははっ、じゃあもっと食え。どんどん食え」
「あの……自分で食べれるんだけど」
「オレが食わせてやるんだから、ありがたく食え」
めちゃくちゃ嬉しそうだから、断れなかった。璃央が喜んでるからいいか……と、そのままガトーショコラを頬張った。
「ごちそうさまでした」
空になった皿と璃央に手を合わせる。璃央も満足そうだ。
「せっかく作ってくれたのに、一気に食べるのはちょっともったいなかったな……」
「こんくらい、また作ってやるよ。和真が喜んでくれるなら……」
赤くなってこっちの様子を伺う姿が、かわいい。
「じゃあ俺は、お返ししないとな」
「!」
璃央は顔を上げて目を見開いた。その動きはまさに猫みたいだ。耳が見える……
「なにか考えとくから……うわっ!?」
話の途中なのに、急に飛びつかれて床に押し倒された。そのままキスをされる。
「んっ……ん、ちょ、璃央!?」
「なんだよ、今日1日お前と過ごしてもう限界なんだよ。いいだろ」
「俺が東京来てからほぼずっと一緒だろぉ!」
「オレは毎日限界なんだよ。ほら……お、か、え、し、くれるんだろ?」
「ホワイトデーの話をしてたんだけどな!?」
頰を赤らめた璃央は舌舐めずりをする。さっきまでは恥じらいがあってかわいかったのに。急に切り替わるのはなんなんだ。ああ、これは……今日もめちゃくちゃに食われるやつだ……璃央にとっては俺がチョコだったということか……って、上手く言ってる場合では……
「和真……好き、好き……♡」
「わ、わかったって……んんッ……♡」
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