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星とともに光れ ー勝負ー

「おつかれ~!」  何分かして、ひらひらと手を振りながら一条が席にやってきた。あれだけ歌ったあとだってのに、疲れを感じさせない笑顔だ。 「おつかれ」 「和真の連れくんも、ライブ来てくれてありがとな」  璃央、炒飯を頬張りながらめっちゃ睨んで威嚇してる。それでも一条は気にせずにこにこして、あえて璃央の隣に座った。2人が並ぶとイケメンすぎて目が潰れそうだ。注文取りに来た店員さんも驚いてる。 「やっぱライブ後はラーメン食いたくなるよな。わかるわかる」 「一条鷹夜……」 「お、名前覚えてくれてんの? 嬉しいね」 「和真はオレのだかんな!」  璃央~~~~~~っ!! いや、言うだろうと思ってたけど! 仕掛けるのが早すぎて止める隙なかった! 一条は何でもないような顔をして話を続けた。 「あんたが和真の恋人だろ?」 「「えっ」」  ハモった。璃央は「まだ言ってないのに!?」みたいな顔をしている。俺もたぶん同じ顔してると思う。 「やっぱり? 2人ともわっかりやす!」 「な、なんで……」 「タイプ違いすぎるのに、一緒にライブって相当仲良くないとじゃん。それに和真っていつも、カノジョって言わずに恋人って言ってるし。それでライブ中にピーンときたわけ」 「ふーん、わかってんなら話は早えな」  璃央は腕を組みながら胸を張り、一条を睨みつけた。 「オレは和真の恋人(強調)の久瀬璃央だ、覚えとけ。和真に何かしたら、そのイケメン面に100発くらい入れてやるからな」 「血の気が多いなー」  威嚇があまり効いていない。サラッと流されてる……  そのまま一条は璃央の顔をじっと見つめた。 「ステージから見た時に思ったけど、近くで見るとさらに美人だな、璃央くん」 「はぁ?」 「わ、わかる……」  つい賛同してしまった。  一条はさらに璃央の顔に近づく。 「ツリ目でまつ毛も長い、色白、男っぽさはあるのに綺麗だし可愛い。いいね」 「わかる……」 「あ!? オレは男だし、和真にしか興味ねーから!」 「男でもタイプなもんはタイプだしなあ」 「和真! なんだこいつ! 意味わかんねえ!」 「はは……」  さすがの璃央も引いている。でも、俺だって一条と知り合ってちょっとだし、よくはわからない。 「連絡先交換しようぜ」 「やだわ」 「和真のオフショ送るからさあ」 「よし、いいぞ」  一条はすでに璃央の扱い方がわかってきたみたいだ。璃央……ころっとしすぎてこっちが心配になるんだけど……てか俺のオフショって何。  2人が連絡先を交換していると、一条が頼んだラーメンが運ばれてきた。 「いただきまーす」  璃央も残っていた餃子に箸を伸ばす。 「はー、うめー。綺麗な子見ながら食うラーメンはなおさらだな」 「わかる」 「一条鷹夜ぁ……あの投げキス、和真にしてきたろ。ふざけんなよ。和真はオレのだぞ」 「ふざけてはねーよ。和真が目に入ったから、飛ばしてみたんだよ。ライブやってるといつもよりテンション上がるし。でも和真、すげー、としか思ってなかったろ」 「あはは……」 「璃央くんやってみ?」  璃央は俺をじっと見つめ、口もとに両手を寄せ……ちゅっ、と投げキスを飛ばしてきた。しかもウインク付き。 「ゔっ!!!!」  キュン死する!!!! 「ほら、全然ちげーじゃん」 「ふふん、どーだ」 「心臓が潰されるから軽率にやらないで……」 「ほれほれ。動画撮ってもいいぞ」 「お熱いねえ」  一条は笑いながらズズ、とラーメンをすする。 「……てかなんでお前来たんだよ」  それは俺も思ってた…… 「んー、和真の恋人くんと話してみたかったんだよ。星が好きって聞いたし」 「む……好き、だけど」  璃央はしどろもどろに口を尖らせた。星のことになると、璃央はなんだか雰囲気が変わる。痛いところを突かれて恥ずかしそうな感じ。 「俺らのライブ、どうだった? 全体的に星をテーマにしてんだ。だから、星が好きな人に刺さってくれんのがいちばん嬉しいんだけどな」 「う……」 「あれ? さっきまでの威勢はどこ行った?」  あー、感想言いたくないんだろうけど……でもチケットくれていいもん見せてもらって、言わないのはフェアじゃないって葛藤してるな……たぶんずっとこの均衡続くだろうから、助けてあげよう。 「璃央、褒めてたよ。曲も演出も盛り上げもよかったって」 「おい和真!!」 「え~、璃央くん素直じゃないな~、楽しかったならモゴモゴせずにそう言ってよ」  顔を赤くしながら、む~~とむくれる璃央の肩を、一条がツンツンつついている。 「……曲よかった分、MVにはお前の顔がいいってコメントばっかりだったの、けっこう納得いかねぇ」  激しく同意。強く首を縦に振った。 「璃央、他人の先入観で見るのは嫌だからこの目で見て確かめるって、MV見ずにライブ来たんだって」 「かずま!!」  耳までさらに赤くして声を張り上げる璃央の横で、一条の手が止まった。 「……マジ? だいたいの人がMV見てからライブ来るもんだと思うけど……」 「オレはお前が和真に手ぇ出してないか確かめるために来たんだよ。お前の顔にはミリも興味ねぇ。オレのほうがイケメンだ」 「それなのに、曲がいいって思ってくれたんだ」 「まあ、オレの好みだった」 「そっかぁ……くそ嬉し……」  一条は顔を覆い、息をついた。前言ってたときは軽めに流してたけど、やっぱり相当気にしてたみたいだ。璃央の感想、伝えられてよかった。 「オレも見た目で判断されることはよくある。でも、ちゃんと中身見てくれるヤツはいるから」  璃央の目線はそっと俺に向いた。こんな目で見られたらどうにかなりそうだってぐらい、熱っぽい、誰もが虜になる表情だった。ドキドキと心臓が昂る音を聞いていると、一条はパッと顔をあげた。 「だよなあ。和真と璃央くんが曲いいって言ってくれんだし、ちゃんといるよな。埋もれちゃって見えなくなってたな」  うん、と頷くと、明るい笑顔が返ってきた。 「俺、歌には自信あるからライブで聴いたら絶対感動してもらえると思ってんのに、投げキスしたときの方が盛り上がってたし。俺アイドルだったっけ?って思ったもん」 「それは一条がやるからでは」 「歌で売りたいならファンサに頼んな」 「わはは、ド正論! それメンバーにも言われたし」  話している間にふたりとも食べ終わり、そろそろお開きかなと思っていたところ、一条から思わぬ提案が。 「よし、今から居酒屋いこーぜ! 璃央くん大学違うんだろ? もっと語りつくしとかないと!」 「は? やだよ、これから和真とー……」  璃央の口を急いでふさぐ。ホテルって言うつもりだった、絶対! 一条ならすぐ勘付く。んな生々しいの知られてたまるか! 必死に首を振って意思を伝えると璃央は顔をしかめながらも止まってくれた。 「うーん、なら誰が酒で先に潰れるか勝負ってのは?」  一条の提案に、璃央の瞳孔が開いた。おもちゃに反応した猫みたいな…… 「受けて立ってやんよ!」 「お、璃央くんお酒好き?」 「まあな、酒でお前に負けてたまるか!」  一条からの挑戦を、喧嘩モードの璃央が乗らないわけがなかった。 「あ、和真は酒弱いから飲むなよ。寝たらセッ……」  再び、璃央の口を素早くふさいだ。一条は何かを察したように目を細めた。絶対バレてんじゃん……  居酒屋に場所を移し、喋って飲んで、約1時間半……勝負は明確についていた。 「璃央、そのへんでやめといた方が」 「やだぁ。こいつに負けたくねぇ」 「いやもうベロベロじゃん。俺まだまだいけるし、諦めな」 「やだぁ……」  躍起になってハイペースで飲みすぎだ。酒強い璃央をここまで潰すなんて……一条どんだけ酒豪なんだよ。  でもへろへろしてて可愛い……こんな璃央はあんま見れないだろうし、貴重だ。真っ赤な璃央は俺の膝の上に頭を置いてごろんと寝ころんだ。 「璃央、ここで寝るなよ……」 「んにゃ……」 「猫みたいだな」 「俺もそれよく思う……」  何杯目かわからない生ビールを流し込みながら、一条は璃央を眺める。 「どっちから告ったん?」 「え、えと、璃央」 「ベタ惚れだもんな。いつから好きとか、どこが好きとか言われた?」 「小学校のころからとは聞いたけど、理由は恥ずいからって教えてくれなくて」 「今聞けば教えてくれるかもよ」 「えっ」  膝の上で丸くなっている(ように見える)璃央は、一条に呼ばれてゆっくり目を開ける。 「なあ、璃央くん。和真のどんなとこが好き?」 「んにゃー……」  はぐらかされ続けてきた、璃央が俺を好きになった理由……! 泥酔してるとこ利用して悪いけど、正直めちゃくちゃ気になってた! 「ぜんぶ」  まさかの回答。 「もうちょい詳しい方が和真が喜ぶぞ」 「ぜんぶだっつってんだろ。ぜんぶすき、かずまぁー」 「待て待て!」  璃央は俺の首に手をまわして顔を近づけてくる。あまりにも可愛くて流されそうになったが、ここでキスはダメ! 「わはは、マジでお熱すぎ。羨ましくなるくらい」 「一条?」 「そうやって、一途で純粋で、お前がいれば他には何もいらない、みたいなさぁ……」  声のトーンが下がった。何かが欠けているようで寂しそうに……見えたのは一瞬で、もういつもの揶揄いを含んだ表情に戻っていた。 「曲のネタになりそー。次の新曲楽しみにしといてよ」 「恥ずかしいからやめろ!」 「おー、やってみろやぁ」 「璃央!!」 「じゃ、勝負はついたし、そろそろ出るか」  首に手を回してめちゃくちゃもたれかかってくる璃央を引き連れて、店を出た。 「夜は冷えるなぁ。それ、連れて帰れる?」 「なんとか……? 璃央、ちゃんと立って」 「んえ……」  体勢、変化なし。このまま歩けるかな……? 「俺がおぶってやろうか? おいでー、璃央くん」 「やだ、かずまじゃないとダメ」  璃央は一条からプイ、と顔をそらした。一条はあらら、と肩をすくめる。 「まだまだ俺には懐きそうにねーな。ま、無理そうだったら手伝うから連絡してな」 「ごめんな、ありがとう」  一条が反対方向に歩き出したとき、璃央がうずめていた顔をあげた。 「いちじょうたかやぁ……オレは負けてねえからなぁ……」 「いつでも勝負してやるから」 「くそ……」 「んじゃー、和真は大学で。璃央くんもまた会おうぜ。今日はありがと、おやすみ」  ひらひらと振られる手に合わせて振り返し、一条の背中を見送った。 「璃央、帰ろ」 「帰るぅ……? ラブホだろぉ」  大事なことはしっかり覚えてらっしゃる。そりゃ俺だってシたいと言われればシたいけど…… 「でもベロベロじゃん。休んだほうが……」 「やだぁ、ラブホいく! おわったら行くって、やくそくだろ!」 「わかった、わかったって!」

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