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いざ、即売会!②
無事に新刊ゲット!!
俺のリュックは戦利品の重みでいっぱいになっている。即売会のノウハウを教えてくれた颯太くんとサーニャさんに感謝だ。充足感に浸りながら、今はクーラーがきいた休憩スペースでひと休み中。疲労もあるが幸せの方が大きい。憧れの絵師さんとも会えたし、ちょっと話せたし……即売会ってすごい……
家帰ってすぐに読みたいけど璃央の家で読むのはなあ……前に俺の部屋来たとき同人誌探されたことあったし、絶対興味示してくる……今回は主にライルセ狙いだったから漫画もイラスト集も全年齢しか買ってないけど(ライルセのR指定は見ない)、それでも性癖開示は恥ずかしい。
どうしたもんかと悩んでいると、水戸と颯太くんから買い物が終わったと連絡がきた。
2人と合流し、いよいよコススペに向かう。暑いのに人がたくさんいる。あっちにもこっちにも知ってる作品のキャラがいて、つい目を奪われてしまう。
「沙羽と璃央、この辺にいるらしいけどな~……たぶんあいつらなら囲まれてるだろ」
「沙羽ちゃん今日はどんな仕上がりかな。璃央も可愛いだろうな。楽しみ。木山の好きなキャラで猫耳の子とかいない?」
「えっ!? うーん……猫耳の衣装とかはあるかな」
「お、いいな。次はそれ希望」
水戸の猫好き、なかなか重度だな……
キョロキョロと探していたその時、見覚えのあるピンク色のステージ衣装が視界の端を横切った。足を止めて視線を移すが、すぐに人の壁に隠れて見えなくなる。たぶん、あの囲みの奥だ。背伸びをしたりしながら人混みをかき分けて進むと、視界が開けた。
その真ん中には……
めるちゃんと、めるちゃんの仲良しの友達・のんちゃんの姿があった。磁力で引き寄せられたように、めるちゃんと目が合う。周りのざわつきは遠くに消え、2人だけの世界になったみたいだった。
「和真!」
めるちゃんが……めるちゃんが俺の名前を呼んで、こっちに向かってくるっ……!?
「どう?」
「め、めるちゃ……り、りお……?」
璃央の声だ。めるちゃんそっくりの璃央が、目の前に……! ピンクグレージュのふわふわと長い髪、赤いリボン、ピンクの初期ステージ衣装……!
『全身余す所なく見ろ』と言わんばかりに手を広げている。おすましドヤ顔なのに少し恥ずかしそうで、でも何かを期待するような、こっちを伺う上目遣い……この表情は、璃央だ……!
「どうって聞いてんの」
「まっ、ちょ、まって」
めるちゃんがムッとしながら迫ってくる。璃央だと分かっていても、こんなん動揺する。やばい。ビデオ通話越しで見るのと全然違う。クオリティ高すぎてこれは本物だ。本物のめるちゃんが次元を超えて俺を見て、俺と話して、俺を……
「感想!感想を言え!早く褒めろ!」
脅してくる。こういうところはめっちゃ璃央だ。
「か、可愛すぎて困る……」
「それから?」
「本物みたい……衣装もすごい……」
「もっと」
「……好き」
ボソッと小さく伝えると、璃央はニイッ!と爽やかに口角を上げた。
「オレも!」
その笑顔はいつもの璃央そのものだった。綺麗で可愛くてかっこいい、俺の自慢の恋人。俺のために慣れないオタクイベントに来てくれて、コスプレまで頑張ってくれて……俺は幸せ者だ……
「おふたりさん、めっちゃ注目されてるぞ」
「ハッ!?」
颯太くんの声で我に返った。いつの間にか颯太くんと水戸が隣に立っていた。同時に周りの視線にも気づく。なんかザワザワされているような……腐女子のみなさんかもしれない……めちゃくちゃ恥ずかしくて縮こまるが、璃央はスンとしている。全く気にする素振りがない。強い。
「璃央可愛いな」
「マジでクオ高すぎて草」
「さすが沙羽ちゃんプロデュース。あとで猫ポーズで写真撮らせてよ」
「俺も撮るー」
「ハイハイ」
璃央たちの会話は通常運転だ。コスしてても変わりないんだな。水戸は顔を上げ、目を輝かせながらサーニャさんを呼んだ。
「さわちゃ……じゃなくて、サーニャちゃん!」
撮影がひと段落したサーニャさんがこっちに来てくれた。SNSで見てたサーニャさんのクオリティ高いコスを間近で見れるなんて、感動だ……サーニャさんはのんちゃんのコス。めるちゃんとお揃いの水色のステージ衣装……あれ、まさかこの並び……?
「いやぁ、璃央くんといると注目度が違うね! 撮影終わらないよ~!」
「サーニャちゃん、今日も可愛すぎる……写真を撮らせてもらってもいいですか……!」
「どーぞ!」
水戸のカバンからごついカメラが出てきた。たぶん一眼レフ。
「水戸って写真が趣味だったのか……?」
「沙羽ちゃんを撮るためにバイトめっちゃ頑張ったんだ! スマホで満足したくなくて!」
サラッと言って笑った水戸は夢中でシャッターを切り始めた。水戸って好きなものにはこんな熱中するタイプだったんだ。高校の頃では知り得なかったことばかりだな……
すると璃央が俺の服をクイ、と引っ張った。
「和真、お前もオレを撮れ」
「撮る!」
スマホを向ける。四角い画面の中の璃央は、シャッターを何度か切るたびにポーズを変えてくれる。それは全部見覚えのあるポーズだった。めるちゃんの立ち絵、カードのポーズ、ライブ終わりのリザルト画面のポーズなど……こんなの本物じゃん。
「ポーズが完璧すぎるんだけど」
「これも沙羽の特訓の成果だ」
「サーニャさん天才!?」
感謝しかない……足向けて寝られない……
もうカメラロールが爆発しても構わない。夢中で写真を撮っていると、サーニャさんがフレームインした。
「和真くん、この並び、どうよ?」
めるちゃんにぎゅっと抱きつくのんちゃん。璃央のコスの衝撃で飛んでたけど、薄々感じてた……のんめる(カプ名)の気配……!
「ま、まさか……俺に推しカプを聞いてきたのは……っ!」
サーニャさんは勝ち誇った顔で親指を立てた。
「そういうこと」
「天才ですか!?」
「お前ちょっとぐらいは嫉妬しろよ。オレが別の男に抱きつかれてんだぞ」
「本物ののんめるだっ……!」
「聞いてねーし」
「和真くんにはのんちゃんとめるちゃんに見えてるからね。いっぱい写真撮っていいよ!」
「まあよく分からんけど、めるちゃんとのんちゃんが並んでたらいいんだろ?」
「ありがとうございます……ありがとうございます……!」
生きてて良かった~~~~っ!!
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