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第4話 小骨

 朔也の所属する書道部は、通常の書道と書道パフォーマンスの二つの活動を行っている。  書道パフォーマンスとは、主に床に敷かれたメートル単位の紙に音楽に合わせて複数人が筆で文字を書いて作品を仕上げるというものだ。甲子園と名のつく全国大会もあり、テレビや映画を通じて広く知れ渡った。袴などの揃いの衣装を着てダンスを取り入れたり、洋楽を流しながらカラフルな文字や絵を加えたりと、多くの人が抱く物静かな書道の印象とは大きく異なる。  前屈みで動きながら思い通りの字を書くには特に体幹が必要だ。大会では六分間の演技をやりきる体力も求められる。筆の大きさはさまざまだが、大きく太くなるほど重くなり、墨を吸えば更に重くなる。全身で操るサイズの筆になれば、墨と合わせて十キロを超えることだってあるのだ。そのため、書道部であっても体を鍛えることは欠かせない。朔也は自宅でも腕立て伏せなどの筋トレを日課にしている。  朔也は筆に早く慣れたほうがいいという母の信念の元、幼稚園の頃から書道教室に通い始めた。ひらがなやカタカナは半紙の上で学び、小学校にあがると「字が上手い」と毎年担任に評された。地域のコンテストに出品したりコンクールで入選したりと、褒められることが多かったのもこの頃だ。  そして中学生のある日、テレビで書道パフォーマンスなるものを知った。落ち着いた元来の印象とは異なる新しい面に感動し、高校は書道パフォーマンスができる私学に進学した。同じ中学から来たのは朔也をいれてたった二人。バスと電車を乗り継いで一時間ちょっとかかるが、楽しい学校生活を送っている。  この学校の書道部がパフォーマンスを披露するのは、入学式に新入生歓迎会、大会であるパフォーマンス甲子園、文化祭、そして卒業式だ。十二月考査が終わった今、卒業式に向けて準備が始まっている。人数の決まった大会とは違い、一、二年生全員で行う卒業式でのパフォーマンスは大々的で華やかだ。式を終えて体育館から出てくる卒業生の前で、校庭全面を使って門出を祝う。  その様子は皆で映像を見ているので朔也も楽しみにしている。生き生きとした字を書きたい、字を書くことで人の心を動かせるようになりたい、その思いが強くなった。  だが、朔也はこれまで一度も納得のいくパフォーマンスの字を書けたことがない。朔也の字の評価はたいていが「きれい」か「整然としている」で、型にはまった字しか書けないからだ。一年生なのだから焦るなと言われたことはある。だが、そのことがいつも喉に引っかかった小骨のようにちくりと心を刺していた。

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