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第6話 食堂にて

 終業式までの自宅学習期間、運動系の部活はほぼ毎日活動している。午前の部活を終えて食堂へ行くと、「朔ー!」と遠くから声がかかった。ジャージ姿の見知った顔の男子たちが集まっている。朔也は食膳をもらうとすぐにそちらへ行った。 「おはよ。今日のA定食、チキン南蛮とか最高」  その台詞に食べ始めていた皆が笑った。 「朔、大盛りって、これ以上背を伸ばしてどうすんだよ」 「書道部なら筋肉は必要ねえだろ」 「そうそう、大盛りは運動部用だぞ」  男子の囲うテーブルには、生姜焼き定食や鶏マヨ丼、唐揚げの詰まった弁当箱などと一緒に、字のごとく山盛りのご飯茶碗が並んでいた。 「うちの書道部は半分運動部だよ。体操部のそっちこそバク転とかするのに筋肉必要なんじゃないの。肉食べな」  朔也がごくりとお茶を飲みつつ言うとまた笑いが起こる。 「それ、体操部あるあるだから。体操部だとバク転できるって思われる」 「そんな簡単にできねえっての」 「俺もまだ不完全だし」 「ごめん。おれ、できる」  スポーツも得意な朔也が言うと、このヤロ、と頭をわしゃわしゃっと掻き混ぜられた。部活中はピンで留めている前髪がふわふわする。 「朔って地味にいろいろできるんだよなあ」 「その才能ちょっと分けろ」 「あと身長な」  三年生が引退した今、朔也は書道部唯一の男子部員だ。部活中は常に女子が周りにいるので、こうして休み時間に男子と軽口をたたけるのは気分転換になる。と、一人が「あれ」と朔也の後方を見た。 「山宮じゃん。あいつも部活か」  そちらを振り返ると、ちょうど彼が食券を窓口に渡すところだった。昼食だからか、マスクを外している。それが不意に昨日告白してきたときの彼を思い出させた。 「あいつがマスクしてないの久々に見た」 「山宮って何部?」 「知らねえな。あんま喋ったことないし」 「朔、知ってるか?」  つけ合わせのキャベツを頬張った朔也も首を傾げた。 「おれも知らない。今日やってる部活ってなんだろ」  そう答えながらも、内心彼が学校にいるのは補習のためではないかと思った。教科によって異なるが、赤点でなくとも一定以下の点数をとると補習が行われることがある。が、朔也はその対象になったことがないので、詳しいところは知らない。 「山宮……部活じゃなくて、図書委員とか?」  本好きのイメージを抱いているのは皆同じらしい。一人がそう言ったが、別の一人が「うちの図書委員は女子だろ」と首を横に振る。 「保健委員とか?」 「それはマスクからのただの連想」 「あいつにはマスクをつけておけ。女子をとられる」  とられなくてもお前のところには来ねえよ。一人の言葉にわっと笑いが起きる。すぐに話題は山宮から逸れ、朔也は椅子に座り直して肉にかぶりついた。じゅわっと出る肉汁と甘酢ダレの酸っぱさが混ざった絶妙な味が口いっぱいに広がる。 「できる子の朔ちゃん、君はそのへんどうなのよ?」 「書道部って女子多いだろ」 「かわいい先輩からアタックされたりしねえの?」  朔也は濁して笑った。後ろにいる男子に複数回告白されているとは口が裂けても言えない。 「そんな空気サッパリないよ。皆、おれのこと女子と思ってるのかも」  こちらの笑みにつられたように皆もあははと声をあげる。 「百八十センチ超えの女子はなかなかいねえよ」 「朔も寂しいクリスマスを迎えるのか」 「も、ってなんだ。俺はちゃんと約束がある」  友人らの話に耳を傾けながら、朔也はやわらかな日の差す空間に目を細めた。冬の暖かい昼は眠気を誘うように心地よい。  担任や委員長副委員長の性格もあるのだろう、クラスメイトたちは性別に関係なく全体的に仲がいい。また、進学校ではあるものの、付属大があるので勉強が全てという校風でもない。特に試験が終わり冬休みを待つ校舎には、いつになくのんびりとした空気が漂っている。中学時代、ここから抜け出したいとあがいていた頃とは違う、平和で穏やかな空間だ。 「おっと、そろそろ時間だ」 「朔、お先に」 「じゃあなー」  どやどやと友人らが去ると、急に食堂ががらんとした。普段話し声で溢れかえっている空間に突然静けさが下りて、空いた食堂がより広く感じられる。書道部の女子たちの多くは弁当を持参して部室で食べており、食堂へ来たのは朔也一人だ。久しぶりの部活に腕がうずうずして、鶏肉の塊をごくんと飲み込んだ。

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