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第10話 クリスマスホームルーム2
「朔ちゃん」
ふと前の席の今井が振り返った。朔也が窓の外を見ていたと思ったらしく、雨が降りそうだね、と言った。
「だよね。日差しがほしい。寒いと体が強張るしさ」
「今日の部活は、お正月に神社に行く筆供養の話し合いだけって聞いたよ」
「それ、おれ行きたい。今井は? 行く?」
「うん。あたしの筆も一緒にお願いしたいし」
「皆行くのかな」
「どうかなあ。毎年行ってる神社って学校から離れてるみたいだよ。だから、遠い人は来ないんだって」
と、そこへ学年主任が教室へやってきた。その手に試験の答案用紙があるのを見て教室内に嘆きの声が広がる。学年主任が苦笑いした。
「お前たちのお望み通りに答案返却するぞ。舞子先生の国語のみ、冬休み明けだ。では、ホームルームを始める」
起立、と声がかかって礼をする。まず俺の担当の英語から、と出席番号順に呼ばれて教壇までとりに行く。
「折原」
学年主任が解答用紙を渡しながら力強い笑みを見せた。
「この調子でな」
はい、と受け取った解答用紙には「93」と共に「Congratulations!」とあった。ふう、と安堵の息をついて席に戻る。今井とちらりと目が合ったので、朔也は席に座るとこっそり聞いた。
「今日はもうやらないよな?」
暗に山宮のことをにおわせると今井がくすっと笑った。
「うん、十二月考査は数学って約束だから」
「今井さ、標的をおれから変えろってアドバイスしてよ」
が、彼女は考えるふうなポーズをとってから「考えておくね」とにこにことした。
駄目だこりゃ。
今井の返事に朔也はため息をついた。山宮が宣言通り今井に勝てばそれで終わりなのだが――そう思って教壇に目をやると、彼が答案を受け取っているところだった。点数を見てもポーカーフェイスでそのまま席へ引き返していく。彼の英語の点数を見たことはないが、芳しくないのだろうということは察せられる。
――俺のことなんかなんも知らねえ。
不意に鋭い目線の映像とともにその言葉が思い出される。
確かに、山宮のことはなにも知らない。ちょっと不得意な教科がある、部活に入っている、ただそれだけだ。高校生の誰にでもあてはまるような情報だけ。席に戻った彼を見ると、また頬杖をついて窓の外のどこか遠くを見つめていた。
国語以外の答案が返却されると、冬休みの宿題が配布される。年明け初日は始業式だが、その翌日からは授業のない三年生は登校しない。対して一年生、二年生らは全校模試として大学の模擬試験を受けることになっている。宿題はその模試対策で、これまでの復習が中心のようだった。
これなら順調に終われそうだ。
朔也はほっと息をついた。冬休みは短く、書道に割ける時間も少ない。なんとかこの休みでパフォーマンスに向いた字を書く感覚を掴みたいのだ。
朔也の頭はすぐにそのことでいっぱいになり、号令がかかるまで頭の中で筆を動かしていた。
外ではいつの間にか霧のような小雨が降り出していた。
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