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第2話
いつものシェルターに入ると、すでに風呂上がりと思われる秀一がいた。濡れた黒髪をタオルで乱暴に拭いながら、ペットボトルの水を飲んでいる。スウェットのズボンをはき、鍛えられ締まる上半身を惜しげもなく晒す。つ、と雫が谷間を垂れるのを目で追ってしまい、急いで目を逸らす。それを知ってか、秀一は軽く笑い手招きをした。
「今回も大荷物だな」
ひょい、と荷物をとられる。ベット横にそっと置いてくれる。ごくり、と唾を飲み込む音が大きく聞こえてしまった。そっと首元に触れる。ちゃんと、チョーカーは付けてきた。
「タオルやなんかはこんなに揃ってるのに」
「やっぱり、使い慣らしたものが一番落ち着くんだ」
ふぅん、と秀一はしたり顔で、僕の頬を撫でた。近くの二人掛けのソファに腰を下ろす。柔らかいそれに身体は沈み込むようだ。目の前ではスポーツニュースが流れている。
「届け、出してくれた?」
「うん…、いつもごめんね」
眉を垂らして、笑う。脇にあるクションを抱きかかえると、その手に秀一の手がかかる。親指が関節をゆっくりとなぞる。じりじりと甘い痺れが身体のなかで沸き起こる。綺麗な指先を見つめていると、こめかみにくちびるがあたる。振り返ると、ゆっくりと顔が近づいてくる。秀一の瞳と唇を交互に見て、瞼を下ろす。
「いいや、あれを書いてる時、ななはどんなことを思うのかと思って、な」
「ん、…」
じっくりと味わうかのように唇を甘く吸われる。睫毛がか細くふるふると揺れる。それがどうしても嗜虐心を誘うことを僕は知らない。足元に、どさりとクッションが落ちたことに気づいた。息も上がるほど、唇に夢中だった。彼の熱い背中に両手を回す。
「ん、っぁ…」
「なな…」
ぎ、と柔らかいソファが鳴る。背もたれに埋まるように身体は倒れている。その上から秀一の大きな体躯が僕に覆い被さる。唇を割って、柔らかい舌が僕を翻弄する。舌淵を丁寧に何度も舐められると、食べ物を味わうかのような仕草に身体が震える。目の前のアルファに食べられてしまうのではないかと。
しばらくそうやって甘露な時間を角度を変えながら楽しむと、やっと唇が離れる。また戯れのキスがされ、柔く唇を食みながら、秀一に問われる。
「いい匂いしてきた…どう?」
その瞬間に、気にしていなかった後ろの孔からどろりとした嫌な感覚がする。鼻腔に、む、と秀一のアルファの甘い匂いが伝わり、脳を麻痺させるような感覚に陥る。はっ、と息があがる。
「ほし、い……」
秀一、と名前を囁き、首に腕を巻きつけると彼は素直に僕に甘い蜜を唇に与えてくれる。このアルファを離したくない。唇の隙間をつくらないように、舌を絡めてじゅるじゅると唾液を飲み込む。その間に秀一は、僕を抱き上げ、ベットに下ろす。
秀一のキスは情熱的なのだ。一見、クールで理知的に見える彼が、こんなにもいやらしくねちっこく、キスをすることを僕は知っている。その興奮と幸福で自然と内股を擦り合わせてしまう。
片手で彼の頭を抱き込み、キスをしながら、もう片手で自分のズボンを引き下ろす。下着から、勢いよく自身の性器が飛び出した瞬間にすら快感を得る。僕の頬や耳を撫でる気持ちいい手を握り、僕のあそこに導く。
「あっん、ん、んん、しゅ、いっ」
「ん、なな、っ」
その手のひらに先を擦り付けるように腰を揺らすとたまらない。ぬちょぬちょと粘っこい水音がする。僕には大きいバスケットボールを華麗に操り、包み込んでいる大きな手のひらが、僕のはしたない体液で汚れているのかと思うとひどく興奮した。秀一が、僕の舌を力強く吸い上げたあと、噛み付いてきた。
「んっ、ぅんんんー!!」
その瞬間に、吐精する。唇が離れると大きく息を吸いこむ、何度も。
「あっ、はっ、あぅ、あ、あ…っ」
身体をベットに預け、口の端から垂れる唾液を拭う気にもなれない程の快感の余韻に浸る。吐精したのに、身体の劣情はくすぶりを強くしている。
「俺の手のひらにオナってイッちゃったの?」
直接的な言葉に、体温が上昇するのがわかったけど、それに抵抗するだけの理性は僕にはなかった。
目の前で、その手のひらについた白濁をいやらしく舌を出して舐めたり吸い取ったりする秀一に、さらに腹の奥がうずく。
僕は自然とその手のひらを取り、長い指一本一本を唇で吸ったり、舌を出して舐めたり、口内に入れたりする。
「ん、んっ、しゅ、が、いじわる、するから…んんっ」
人差し指を口内で堪能していると、上顎を撫でられる。舌を人差し指と親指でゆるゆると挟まれる。
「ふっ、エッチなななちゃんは、何してほしいの?」
こちょこちょと舌をくすぐられると、また腰が揺らめきだすのがわかる。瞼を下ろしたいけど、そのぎらぎらと光る眼差しに見つめられたくて、下ろせない。ちゅ、ちゅとその指先を数回吸い付くとゆっくり口内から出てゆく。
身体が熱くて、上着をたくし上げる。小さい桃色の乳首が左だけひっかかってしまった快感に小さく喘ぎながら、僕は秀一に囁いた。
「は、早く…しゅうの、おっきいので、かき混ぜて欲しいの…」
ゆっくり、彼の腰に手をやり、スウェットのゴムに手をかける。そんな僕の肉欲にまみれた姿を秀一は満足そうに微笑みながら、見つめている。大きく勃起したそれがひっかかって、なかなかズボンが降りない。身を動かし力を加えようとしたとき、あの手のひらが、ヘソのあたりに添えられ、ゆっくりと身体をなぞっていく。茂みを撫で、またゆるゆると勃ちあがり、雫をにじませる頭をゆるく撫で、会陰に手のひらを食いこますように沿わせ、後孔に指を挿入した。待ちに待った挿入物に身体は歓喜し、ぎゅうぎゅうと締め付け、ぴゅっ、と少しだけ白濁としたものを飛ばした。
「軽くイッちゃったな、そんなに待ち遠しかったのか?」
耳元に顔を寄せられ、鼓膜が気持ちよく揺らされる。その後、秀一の舌が僕の耳を犯す水音に脳みそが痺れる。
「あっ、ぃ、やぁっ、んんっ、だっ、て、早く、ほしぃ、っ」
「ななが、早くしないと、入れられないよ」
「ああっ!」
ぐぬ、と後ろに何の圧迫を感じて、思わず声が響く。孔にぬ、と少しだけ入ると、ちゅぽ、とすぐ抜かれてしまう。それを繰り返される。早く、と急かすように、会陰に擦り付けられるそれは、衣類に邪魔されてざりざりとする。これからやってくるであろうことに喘ぎながら、快感に支配されていうことを聞かない身体の残りの力を振り絞って、秀一のスウェットと下着に手をかける。
「あっ、おっきぃ…」
ぶるん、と勢いよく飛び出してきたアルファの核の部分に、僕は期待で前と後ろ、両方から体液が溢れる。赤黒く光るそれに両手を添えて、たまらなくて軽く上下にすると、目の前の秀一のクールな面持ちが欲に塗れ、眉を寄せる。そんな可愛く妖艶な姿をずっと見ていたいが、それどころではない。
「しゅ、のいう通りに、したよ?」
「ん、どうする?」
「しゅ、の、これ、早く、ななに、ちょうらぃ…」
ん?とわざとにやつきながら、孔の周りに鬼頭を擦り付けるよう腰を回す。
「ああんっ!いっちゃ、ぅ、よっ…はや、く…はやくぅ…!」
なんで、なんでと首を振る。足を秀一の腰に巻きつけて、腰を近寄せゆらめかすが、入らない。秀一は意地悪な笑みをやめない。
「しゅ、いじわる、しな、で…」
首に腕を巻きつけ、唇に吸い付く。ちゅ、ちゅと可愛い音がするが、彼は瞼も下ろさず、ずっと見つめてくる。
「しゅ、の、おっきぃ、ち、っ、ちんで、ななの、こと、しゅぅの、ものに、して…?」
そんな自分のセリフさえも快感に変わってしまう倒錯感がこの場にはひしめいている気がする。口角をさらに大きく上げたと思ったら、待ち望んでいたアルファが体内に侵入してきた。
熱い…、苦しい………、気持ちいい…
大きいそれが、体内に収まりきる頃には、また吐精していた。身体がずっと痙攣している気もする。
「あっ、ああっ、あっ…しゅご…あっ…」
「なな…」
唇を大きく塞がれると、ゆるゆると腰が動き出す。口内の舌は唾液を吸い取ってしまうのでないかというほど激しく翻弄する。下では、彼の立派なあれが、僕の弱いしこりを撫でるように挿入が繰り返され、たまらない。
「んっ、んぅっ、んんんっ!」
唇の隙間から、獣のようにはぁはぁと呼吸し合う。秀一から与えられる熱に僕自身も勝手に腰が動く。
「あっ、しゅっ、やらっ」
ちゅ、と唇に吸い付くと秀一が身体を起こす。キスが終わってしまった寂しさに言葉が漏れるが、秀一は、僕の両手首を持って、抽送を激しくする。
奥にずっぽりはまった状態で、細かく揺さぶられるとオメガの入り口が大きなそれに暴力的にこじ開けられる気がする。ぎゅう、と彼を締め上げてしまうと、よりその温度や欲を感じて、身体中が気持ちいい。
「あっ、あ、あ、そ、れ、らめぇえ」
「ふっ、ぅ、なな、一回目、ちゃん、と、受精、しろよ」
「あっあああっあ、しゅ、しゅぅ、しゅ、うっ、あんっ」
がくがくと小刻みに揺さぶられ頭の先から指先までびりびりと痺れる。自由の効かない両手で彼に縋ることもできず、アルファが僕の子宮口をこじ開け、無遠慮に精子を送り込むのと同時にぴゅ、ぴゅ、と僕の精子も飛び散る。腹の奥底が目の前の耽美な男の子種で溢れかえっていることを感じる。彼は目を閉じて、かすかに震える。
「しゅ、…」
名前を呼ぶと彼は美しい汗を流しながら微笑む。手首を握っていた手は手のひらにそって、優しく指を絡めてくれる。その仕草に心がいっぱいになるのを感じる。
アルファの射精は長い。そして、量も多い。陽介に比べて、秀一は長い。まだ、中では、びゅぅびゅぅと彼の欲が送り込まれてくる。彼が身体を預けるように倒れ込んでくる。頬や瞼に甘く吸い付く。
「ん、しゅぅ…しゅ、う…」
名前をつぶやくと嬉しそうにとろける笑みを見せてくれる。アルファの精を受け、身体の熱がようやく収まってくる。
秀一がゆるく腰を揺さぶる。ノットで入口は堰き止められているため、奥の方をかき混ぜるように揺らす。
「やっ、だ、め、まだ、しゅ、いってる、じゃんっ、あんっ」
精子ひとつも残さぬように、僕のオメガの部分を自分だけで埋め尽くすかのような暴力的な仕草がいつものクールな彼との差に耽美でくらくらとする。
「もぅ、一回もらったから、だ、んん」
一度、精を分けてもらえれば、今夜はぐっすり眠れる。だからそのことを伝えようとすると唇を塞がれる。ノットが落ち着くのと一緒に、後ろの入口から、やや精子が溢れる感覚がある。でも、それを許さないように、彼は僕に愛撫をはじめてしまう。首元の金属製のチョーカーをギリ、と噛みつかれる音がした。
「今夜は初日だから、朝まで付き合うよ?」
彼の強暴な眼差しに、僕はまた腹の奥底がきゅんとしまり、精を零してしまった。
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